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2006年8月30日 (水)

「希望の国」めざす新経団連会長

 就任して間もない日本経団連会長、御手洗冨士夫氏(キヤノン会長)が28日、日本記者クラブで講演した。題して『「希望の国」を目指して』だ。「希望の国」とは、すべての人に挑戦の機会が与えられ、可能性に富んだ社会のことだそうだ。チャンスの多い国にしようというわけだ。

 「希望の国」と聞くと、村上龍の小説『希望の国のエクソダス』(2000年7月刊)を思い出す。バブルの崩壊後、経済が低迷し続けた頃、学校教育に疑問を抱く中学生の大量不登校が起き、その不登校中学生たちが脱出して北海道に希望の国をつくるというお話だ。「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない。」とネットワーク、ASUNAROの代表、ポンちゃんが衆議院予算委員会でネットを通じて発言する。また、「今の政治家の生き方を真似ろ、今の政治家のように生きればいいんだと、なぜぼくらに向かって大きな声で言えないんですか」ともいう。

 もっとも、小説の終わりのところで、ポンちゃんたちがつくりあげた理想の社会について、主人公のフリーの取材記者に「この快適で人工的な町に希望はあるのだろうか、と考えた」と言わせている。著者は文庫版のあとがき(02年3月)で、「現在の日本社会の危機感と適応力のなさを示したかっただけ」と書いている。金融不安が高まり、展望のないまま、ただ漂流していた当時の日本の経済社会を巧みに描写した作品である。

 御手洗日本経団連会長の講演の題は、村上龍のこの作品のタイトルを意識しているのだろう。希望の国をつくるという観点から、①経済の活力を高める、②人々の活力を引き出す、③内外から信頼される公正な経済社会をつくる、の3つについてくわしく語った。グローバル化と少子化・高齢化に対応して、チャンスの多い国、つまり希望の国をつくるには、何よりも持続的な経済成長がなくてはならない。そのためにはさまざまなイノベーションに取り組まねばならない、というのが一番言いたいところだったようだ。

 だが、長い講演は経団連事務局が原稿を用意したのだろう、広く目配りされた内容ではあるが、あまり聞く人々に感銘を与えるものではなかった。御手洗氏の指摘を待つまでもなく、規制改革などで経済成長を促すなど日本がやるべきことは沢山ある。教育のあり方についても、必要な人材を育成できていないとし、家庭や学校で倫理感ある人の育成をすべきだなど、とも指摘している。

 確かに、経済成長は七難隠す。国内の諸課題を解決するうえで楽だ。しかし、日本は世界の国々と同様に環境・資源エネルギーの問題を抱え、しかも少子高齢化に直面している。それに、豊かな社会に育った若い世代が本当に日本経済の強さを今後も維持するだけの力があるのか、正直なところ不安だ。たまたま、今は景気がいいから日本社会に楽観的な雰囲気がただよっているが、新聞の社会面を読んでいると、日本の未来に明るい展望を抱く気分にはとてもなれない。

 御手洗氏は米国に長く駐在していたが、キヤノンの社長になっても、米国流の経営を全く取り入れなかった。米国社会と日本社会とを比べて、日本型経営のほうがすぐれていると考えたからだろう。その御手洗氏が日本の社会に起きている変化をも適確に把握・分析し、この国の経済社会の将来を考察したなら、もっと聴衆に感銘を与える内容の話になったのではないか。

 

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