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2006年10月30日 (月)

下村理論の理解の仕方

 10月30日の日本経済新聞は一面を大きくつぶして「成長を考える」の新企画をスタートした。これからの日本経済は香西泰氏の言う「少しでも高い成長を目指す以外に選択肢はない」というスタンスで続けられるシリーズのようだ。

 その記事に「安定か成長か。実は半世紀前にもこんな論争があった。」として、所得倍増論の源流となった下村治氏の主張を「技術革新などで潜在力を引き出せば飛躍的経済成長が可能」と紹介している。

 しかし、日経の記事には取り上げていないが、下村氏は石油ショックのあと、世界的な石油供給の制約により、日本は1~2%の経済成長にとどまるという「ゼロ成長論」を唱えた。いま、その下村氏の「ゼロ成長論」を、堀内行蔵法政大学人間環境学部教授は「持続可能な発展論」と結び付けて、「21世紀の定常状態の経済」を含意するようになったと評価している(10月20日の「ゼロエミッションシンポジウム2006」の講演)。ゼロ成長論は下村氏の死後に出てきた地球環境問題によって、その意義が高まったということだろう。

 堀内教授によれば、石油ショック以降の日本経済は集中豪雨的な輸出や公共事業の拡大など、持続不可能な要因で成長してきた。だが、下村氏は均衡のとれた経済が望ましいとして、イノベーション、均衡と節度の3つをキーワードとして重視した。同教授は「節度は、ゼロ成長が安定し均衡するための条件(全体のために自分を抑制すること)」として、具体的には、労組は賃上げ要求を抑制すべき、企業はイノベーションを省エネ・環境保全に注力すべきで、省力化・能力拡大は抑制すべき、政府は財政節度を維持すべき、銀行は金融節度を保持すべき、と例示している。

 下村氏がゼロ成長論を唱えても無視された理由の1つは、企業経営者がまともにそれを受け止めなかったからだという。しかし、同教授は、環境経営の進展、CSR、ステークホルダー論などにみられるように、企業は「持続可能な発展」を目的とする理念重視の経営に変わるととらえている。

 環境問題等を踏まえると、私も定常状態の経済に移行することが望ましいと思う。だが、どうやって実現するか。その具体策をめぐる議論は学界でも全くない。それに、日本の財政赤字の累積が、定常状態の経済を実現する際に大きな障害となるように思える。さりとて、地球温暖化対策への取り組みが不十分なまま、経済成長にもっぱら焦点を当てるのもよろしくない。

 メディアにとって「主張」は大事だが、できるだけ読者・市民の多様な意見を汲み上げ、公正に議論して方向を見出す場の提供にも心掛けてほしいものである。

 

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