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2007年6月 3日 (日)

“ふるさと納税”論議は広い視野で

 最近、やたら新聞に取り上げられている“ふるさと納税”については、昨年10月28日とことし4月27日にこのブログで取り上げ、問題点を指摘した。本日(6月3日)付けの日本経済新聞が解説記事「視点」で紙面を大きく割いている。

 菅総務大臣がふるさと納税制度の導入を提案した狙いの一つは、自治体間の税収格差を縮めることである。確かに、都市圏の自治体の住民一人当たりの地方税収は企業の少ない地域に比べ大きい。東京都と愛知県を除けば、その差は2倍弱ある。突出している東京都で3倍である。

  しかし、だからといって、「一人当たり税収が違うと自治体の行政サービスにも差が出ます」と書いているのは誤解を招く。自治体の行政サービスが税収だけをもとに行なわれているのなら、納得できるが、都道府県の財政収入に占める地方税収の割合は相当に低い。それを補う地方交付税交付金(東京都はゼロ)や補助金などで歳出の相当をまかなっている。東京都から地方税収を一部召し上げてふるさと納税制度を創設しても、この依存構造は基本的には変わらないのである。

 いちはやく、ふるさと納税を提案したのは泉田新潟県知事であるが、新潟県の平成19年度予算をみると、一般会計1兆1768億円のうち、県税つまり地方税収は3015億円、すなわち歳入の25.6%にすぎない。地方交付税交付金がそれにほぼ匹敵する23.5%を占める。国庫支出金つまり国からの補助金は13.5%もある。地方税収が少ないことは確かだが、道府県の行政サービスが全国どこでも同程度に受けられるよう国は巨額の財政支援をし続けているのである。

 平成16年度決算の集計データ(総務省)によると、歳入総額に占める地方税収の割合は平均で都道府県33.3%、市町村34.0%にすぎない。47都道府県のうち、地方税収の割合が10~20%未満のところが16もある。20~30%未満のところは18ある。30~40%未満が7つである。最も高いところは60~70%未満で1つ。

 ちなみに市町村は、0~10%未満が501あり、10~20%未満が733もある。20~30%未満は504で、40~50%未満が258。それ以上は169しかない。地方交付税交付金や補助金に歳入の大半を依存している自治体が圧倒的多数なのである。

 したがって、一人当たり税収格差を縮めるのと同じことを国は地方交付税交付金などを使ってずっとやってきたのであり、一人当たり地方税収の格差があろうとなかろうと、行政サービスには差が出ない仕組みになっている。(また、そうしたさじ加減をすることで、総務省(旧自治省)は天下り的に知事をたくさん出してきた。)

 だから、一人当たり地方税収の格差縮小だけにしぼって議論するのは、事実上、東京都を標的にする他の道府県と東京都との対立に行きかねない。地方交付税交付金を国からもらわないため、国の言うことをあまり聞かない東京都を抑えつける絶好の機会と総務省は内心思っているだろう。三位一体改革のあと、勢いがとまった全国知事会などの地方分権活動にもマイナスに作用するかもしれない。

 この問題を考えるとき、見落としてはいけない点は、地方自治体の財政状態がひどいといっても、国の財政状態のほうがもっと悪いということである。国はいまも借金を重ねていて、いつ財政破綻してもおかしくない。都道府県も市町村も、まだまだ国依存体質を払拭していない。徹底的な歳出削減をすべきである。

 余談だが、私は東京都区内に住んでいる。昨年、たまたまネットで調べていたら、インフルエンザ予防注射の費用が、東北の過疎地域といわれる某村の予防注射費よりも高いことに気付いた。こんな事例はいろいろあるだろう。したがって、東京都23区の多く(全部ではない)で、小学校の生徒の医療費を無料にするようになったという事例を根拠に、「一人当たり税収格差が違うと自治体の行政サービスにも差が出ます」という単純な議論をすべきでない。

 もう1つ付け加えると、英国やドイツでは、大都市のような過密地域は道路、住宅、環境、治安などの問題があるし、人件費も高いから、経費がよけいにかかる、というのが常識らしい。言うなれば、一人当たりの歳入、歳出が地方より多くて当然ということである。我が国で、一人当たり地方税収だけを取り出して、即、格差是正の必要性に結び付けるのは強引すぎるのではないか。

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