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2007年8月11日 (土)

マイケル・ムーアの映画「シッコ」

 深刻な社会問題をドキュメンタリー映画で、興味深く、かつ誰にでもわかるように示す。それがマイケル・ムーアの映画のすぐれたところだ。今度の映画「シッコ」(SICKO=精神異常者)は、米国の医療保険制度を例の“突撃スタイル”で鋭く告発している。

 まともな社会なら、病気やケガをしたとき、医者・病院で治療を受けるのは当たり前だ。だが、国民皆保険制度をとっていない米国では、保険に加入していない人々が6分の1の約4千万人もいる。しかし、この映画では、医療保険に入っていてもまともに治療を受けられず苦しんでいる人たちを取り上げ、米国の医療保険制度の問題点を浮き彫りにしている。

 映画が槍玉にあげているHMO(Health Maintenance Organization)は、医療機関と加入者(患者になる)の間に立ち、医療内容を査定し、医療費を節減しようとする管理医療法人の1つである。民間保険会社などが営んでいるもので、企業、個人などはそこと契約する。同時にHMOは特定の医療機関と契約する。それによって、企業などとの契約では保険料が割安になる。

 HMOの保険では、月額保険料によって、それに見合う医療サービスの内容が異なる。保険会社が契約した医療機関以外のところにやむをえずかかった場合、保険金を払ってくれるか否かも契約内容による。保険の対象外だったら、巨額の医療費を個人負担せねばならない。例えば、契約医療機関が遠方にしかなく、緊急の治療を要するとか、交通事故で意識不明になり、契約外の近くの病院に搬送されたとか、といった場合、数千万円の治療費を請求されることになりかねない。それで治療を受けずに死んだり、治療費の支払いで家を売らざるをえないといった悲劇も起きる。

 また、HMOは保険適用対象外の病気・ケガを山ほど契約に列記しているし、保険加入者の既往症未申告などを口実に、できるだけ医療費(保険金)を払わないようにしている。医師がどんな治療をするかを査定して治療費を削ろうとし、少なく抑えた医師には奨励金を支払うといったこともしている。要するに、管理医療法人の制度は国全体の医療費の増加を抑えるためにつくられた制度なので、病気やケガで苦しむ国民のことを二の次にしているわけだ。

 映画では、カナダ、英国、フランス、そしてキューバといった国を訪れ、いずれの国も医療は無料だという事実を知る。医療という基本的なサービスの提供を市場(マーケット)に委ねている米国と、国が税金をもとに直接、運営している国々との違いを浮き彫りにする。

 日本の医療制度は国民皆保険だが、自己負担がある。自己負担をなくすなら、保険料をどんと引き上げなければならない。仮に、映画が指摘する無料の方向を目指すなら、保険制度を廃止し、代わりにすべて税金で運営するわけだから、大幅な増税が必要になる。消費税でなら10%アップでも足りない。

 映画は触れていないけど、フリーランチはない。政府がどこにカネを使うか、国民はどれだけ税金を払うか、の政治的な選択であり、さらに言えば、国民が何を求めて投票したか、である。ということで、病める米国の一面をこの映画でしっかりと見た。 

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最近話題を集めている近日公開の映画「シッコ」(マイケル・ムーア監督)。「華氏91... [続きを読む]

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