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2008年7月31日 (木)

政策論争に一石を投じる『「歳出の無駄」の研究』(井堀利宏著)

 いま政治の1つの焦点は、「ムダ・ゼロ」とか政策の棚卸による歳出の見直しである。国民に負担を強いる消費税などの増税をせずに、財政健全化と新たな重要政策課題への対応とを両立させるためである。しかし、歳出の無駄をなくすだけで増税をしないですむのだろうか。財政危機から脱却できるのだろうか。

 民主党は歳出の見直しで農家戸別所得保障などの財源を確保できるとの主張だし、自民党も、増税派がいることはいるが、次の衆議院総選挙を控えて、まずは無駄の排除を優先すべきだという主張が支配的になっている。こうした政治の最もホットなテーマについて、財政学者が歳出の中身ごとに具体的に金額を示しつつ、歳出の無駄だけでは財政健全化は無理だと言う結論に達している。

 さわりを紹介すると、日本の政府全体(地方自治体や独立行政法人など政府関連の公共部門を含む)で、「絶対的な無駄」が年間4兆~6兆円程度(民主党の言う13兆円程度よりはるかに少ない)、「相対的な無駄」が10兆~15兆円程度、「結果としての(過剰な)無駄」が1兆~3兆円程度あるという。「相対的な無駄」というのは、便益の大きさがコスト(歳出)より小さいものを指す。「相対的な無駄」の内訳は、公共事業3兆~5兆円程度、社会保障8兆~10兆円程度だろうという。

 「これらをすべて削減するのは困難であるが、できるだけ削減するように努力すべきだろう。」。しかし、「こうした無駄の削減だけで増税なしに財政危機が解消するほど、日本の財政赤字状況は甘くない。無駄を完全になくすのが最優先という非現実的な主張にこだわると、財政再建が不確実になり、市場での信頼も損なわれる。財政再建のためには、歳出削減と増税の両方の選択肢を活用するしかない。」

 今後10年程度で財政再建を果たすとした場合、目標とすべきプライマリーバランスの黒字幅がGDP比ほぼ3%から4%程度とすると、社会保障費を中心に歳出は対GDP比3~4%伸びるから、GDP比で7~9%ポイントほどの財政赤字削減が必要となる。歳出規模は上記の削減努力によってGDP比で3~5%程度削減できるとして、差し引き、必要な増税は、GDP比4%ポイント(年20兆円余)が1つのメドになるだろうという。改めて財政赤字の数値の大きさと問題の深刻さに思い至る。

 無駄をなくすにはどうしたらいいか。「わが国で歳出に無駄が多い原因は選挙制度の欠陥にある。」したがって、著者が第1に挙げているのが議員定数の公平さの実現である。「特に、有権者の選好を性格に反映すべき衆議院では、定数が完全に是正された小選挙区制度を早急に確率すべきである。」

 そして、年齢別の小選挙区をつくったらどうかと提案する。20歳代と30歳代の有権者を母集団とする「青年区」、40歳代と50歳代を「中年区」、60歳代以上を「老年区」と、3つの年齢別選挙区を導入することによって、青年世代の選好を政治の場に反映できるようにしようというわけだ。興味深い提案である。紹介し切れないが、本書には、こうした啓発される内容がいくつも盛り込まれている。(もっとも、網羅性を重んじたせいか、細かすぎる記述もみられるのはどうかと思った。)

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