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2008年7月19日 (土)

『会計とは何か』(山本昌弘著)を読み、考える

 門前の小僧、習わぬ経を読む。私が新聞に会社分析記事を書き始めた1960年代と現在とでは、会計基準など企業会計をめぐるルールが大きく異なる。40年以上も前の頃を思い出すと、上場会社の決算は時価会計ではなく、取得原価主義だったし、連結決算ではなくて、単独決算だったetc。

 『会計とは何か 進化する経営と企業統治』(山本昌弘著)は会計の役割や基準などがどのように変わってきたかを改めて振り返るのに役立った。グローバリゼーションの進展に伴って、会社の存続を重視する保守主義の原則よりも、投資家・株主に必要な情報を提供することを優先する時価会計や連結決算、そして国際会計基準が重要視されてくる潮流をわかりやすく書いている。

 しかし、こうした潮流を必然と受け止めるような記述には個人的に抵抗がある。会社には、株主、従業員、取引先、地域社会などの多様なステークホルダーがある。「会社は株主のもの」というのはひとむかし前の発想になりつつある。ところが、今日、世界をみると、あふれるマネーを利用して、M&Aなど支配株数の取得によって、他のステークホルダーの利害を考慮せずに、企業の経営権を手にする事例が相次いでいる。

 世界政府が存在しないので、ほとんど規制がない。それをいいことに、グローバル企業は世界市場の支配を目指して企業買収などを繰り広げているわけだ。それを可能にしている背景はいくつかあるが、その1つが会計基準の一本化である。もともと会計ルールは当該国の文化や風土を反映している。それを投資家・株主にとって都合がいいように一本化することのプラスとマイナスを日本の関係者が十分に検討した形跡はない。盲目的にアメリカに追随するという日本の悪しき慣習でしかないと思う。

 最近、ベルギーのビール会社、インベブが米国のアンハイザー・ブッシュを買収することに決まった。日本円にして5兆円余の買収金額である。買収により、世界の4分の1の市場占有率になるという。それより前だが、資源最大手である豪英BHPビリトンが英豪リオ・ティントに15兆円に達する買収を申し入れた。特定の資源分野で、世界の3分の1とかを手中にすることができれば、販売価格をコントロールできるだろう。世界最大の鉄鋼メーカーであるアルセロール・ミッタルが世界のあちこちで企業買収をしているのも、もっと市場占有率を高めて、市場を支配したいというねらいからだろう。

 国際会計基準に向けて各国がコンバージェンス(収斂)することは、世界的な企業再編・集中を目指すグローバル企業にとっては好都合だし、各種のファンドのグローバル運用にとっても便利だ。しかし、欧米の会計ルールを基本とするため、個々の国の歴史や文化に裏付けられた企業の経営の多様性を妨げる面もある。地域社会を重視する分権化と同じように、企業についても、地域社会に根差した個性のあるものが各地にあるというのが望ましい。

 ところで、日本の経済界は国際会計基準を受け入れざるをえないという立場だ。英語で議論せねばならないハンディキャップもあり、受身の構えである。一方、公認会計士界は新たなビジネスチャンスという見方もあって前向きだが、欧米のルールを導入するという伝統的な発想。日本独自の見解を打ち出して欧米をリードするという姿勢はない。そうした無思想性がいまだに日本の個性らしい。リーダーシップなんてどこ吹く風である。 

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