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2008年11月30日 (日)

地方財政をめぐる見方の対立

 総務省が11月28日、市町村等、都道府県それぞれの07年度普通会計決算、およびそれらを合算した地方公共団体の07年度普通会計決算の概要を発表した。総務省は「財政構造の硬直化が進んでいる」とのコメントを付している。

 だが、「地方債及び債務負担行為による実質的な将来の財政負担」のデータを見ると、市町村等、都道府県の両方とも07年度末は06年度末に比べわずかながら減っている。地方債など将来の財政負担がいくらか少なくなっているということだ。市町村等と都道府県とを合算した地方公共団体の07年度末の実数は135兆9432億円で、06年度末の137兆7800億円より微減である。

 それなのに、総務省は地方財政が悪化しているとの主張を繰り返している。11月26日に開催された経済財政諮問会議においても、総務省の鳩山邦夫大臣が「地方の財政状況について」という説明資料を提出。その中で、去る9月24日に地方六団体が麻生内閣発足に当たって出した共同声明をそのまま引用している。そのさわりの部分を紹介すると、「危機的な状況にある地方財政を直視し、早急に地方交付税を復元・増額するとともに、地方を活性化するため地方再生対策や景気対策に効果的に取り組むこと」となっている。

 鳩山総務大臣の提出した資料の中には、「我が国の地方の債務残高は「対GDP比」「対『国』比」ともにOECD諸国の中で突出し、その抑制が課題」という指摘もある。日本は国の債務残高が地方の約3倍だが、OECD平均では約8倍という。また、今後の景気の落ち込みを意識して「地方公共団体の安定的な財政運営に必要となる地方税、地方交付税等の一般財源総額の確保が大きな課題」と記述している。

 これに対し、財務省の中川昭一大臣はやはり経済財政諮問会議に09年度予算の編成等に関する財政制度等審議会の建議の要約を提出、総務省に反論している。「三位一体改革以降、地方税と地方交付税等の合計である地方一般財源は増加。地方全体としては、一般財源比率が上昇するなど、むしろ財政体質は改善」している。

 「地方財政の危機的状況は、三位一体改革による税源移譲に伴い、税源偏在が拡大し、地域間格差が拡大したことによる側面が大きい」。したがって、地方の行財政改革を進めて歳出抑制を図るとともに、財政力の弱い自治体の財政状況を改善するため、地域間格差の是正に努めるべきだとしている。

 総務省は馬鹿の一つ覚えみたいに、地方財政にもっとカネを、と唱え、財務省のほうは、地方は甘ったれるな、と突っ放す。白日の下で、国と地方の財政のありかたについて両省が意見をたたかわしたらおもいしろいと思うのだが。

 それはさておき、国の財政状況は、08年度に景気対策をしたり、税収が大幅に予算を下回ったりするため、国債発行の純増が30兆円を超える見込みといわれる。プライマリーバランス云々さえもが霞みつつある政治状況になってきている。とはいえ、非常事態への対応(バラマキはダメ)で、日本の財政危機がさらに深まるにせよ、本来の財政健全化路線に可及的速やかに戻るという基本原則は忘れないでもらいたい。

 

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2008年11月29日 (土)

江利川厚労省次官が挙げる3つの課題

 厚生労働省の江利川毅事務次官が11月27日の定例記者会見で、元事務次官等の殺傷事件の動機などについて聞かれ、答えたあと、「少し質問から離れたようなことを申し上げてもよろしいでしょうか」と前置きして、おおむね次のようなことをしゃべった。

 「我が国の今世紀における大きな課題は3つあると思います。第1に、環境問題(地球温暖化)、第2に、少子化、人口減少問題、第3に、日本社会のモラル低下です。今回の事件は、モラルの問題にかなり関わるのではないかという認識を持っています」。

 「交通事故で人を挟んでいるのに引きずって走っていくとか、腹いせに誰でもいいから轢き殺す、そういう殺人事件だけでなく、給食費を払わないとか、軽い病気なのに救急車を呼ぶとか、こういう1つ1つもモラルの問題」。

 「こういう日本社会のモラルの低下みたいな問題に社会全体でどう取り組んだらいいのかということを真剣に考えていかなくてはいけないかなと思います。相当大きな課題ではないかと思っています」。

 ことしの6月初めに江利川氏の話を聞いたとき、日本社会のサステナビリティの問題は2つあると言い、少子化と環境を挙げた。今回の記者会見で、日本社会のモラル低下が付け加わった。しかも、この3番目について、同氏は社会全体でどう取り組むか真剣に考えなくてはいけないと問題を提起したとも受け取れる。

 メディア関係者には、日本の社会が、政治もそうだが、自壊しつつあるような感じがすると言う人が少なくない。それだけに、27日の記者会見では、この江利川氏の問題提起を真正面から受け止め、同氏に対し、政府の要人の1人として、それにどう取り組むつもりかを突っ込んで聞いてほしかった。「質問から離れたようなことを申し上げてもよろしいでしょうか」とまで言って同氏が語ったのに、聞き流して、すぐ違う質問をする記者たちの視野の狭さ、未熟さには、情けないとしか言いようが無い。

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『貧困の現場』(東海林智著)

 毎日新聞の記者、東海林智氏の書き下ろし。日雇い派遣、名ばかり管理職、過労死・過労自殺、外国籍労働者搾取など、非人間的な労働・生活条件のもとであえぐ人々に密着取材し、ときには一緒に行動して、現代日本の暗部をえぐり、告発する書である。

 ワーキングプアといわれる人々の苦悩に共感し、貧困の現場を歩いた記録だが、具体的な内容については本書を読んでもらえればと思う。以下は私の感想である。

 住宅があれば、ぐっすり寝られるし、自分の持ち物を置く場所ができる。そして仕事も見つかりやすいという。人間らしく生きるのに、「住」は基本であることがわかる。

 派遣労働では職場がくるくる変わるので、人間関係ができない。それが孤独感を深めるという。「労働は商品ではない」のだから、人間らしい働き方や労働者の権利を大事にする必要がある。

 長時間労働、サービス残業、名ばかり店長など劣悪な労働条件のもとでも我慢して働く人々は真面目な性格なのだと思う。雇う側はそこにつけこんでいる。それが何とも卑劣だ。日本企業は家族的経営だとか人間尊重などの特徴があるといわれたこともあったが、実は、人権とか民主主義といった基本的な価値が日本の社会には根付いていないことを示しているのだろう。

 フランスでは、ホームレスはまずシェルター(住むところ)を求めるそうだが、日本ではまず仕事をくれというそうだ。日本の人たちは働くことに関して、単に生活を支えるためだけでなく、生き甲斐をも感じているのだと思う。日本経済の国際競争力が強いのと無関係ではないと思う。

 最後に注文。『貧困の現場』が取り上げている現実が生じてきた背景をバブル後遺症およびグローバルな視点で分析してほしかった。1995年に、当時の日経連が発表した提言「新時代の『日本的経営』」において、雇用の流動性と成果主義の導入が打ち出された。その後、それが実現したというわけだが、日本の企業がヒト、設備、債務の3つの過剰を抱え、ポスト冷戦およびIT革命のもとで、再生するには他にどのような選択肢があったのか。

 「おわりに」で、「労組は結果的に派遣法を許し、規制緩和も押し切られてきた。非正規労働者がどんどん増えていった時も自分たち正社員の雇用を守るのに必死だった。彼は「本当の意味で働く者同士の連帯がなかったんだろうな」とも言った」とある。「彼」とは現役を引退した労働組合の元幹部であるが、まさしく「彼」の言う通りだと思う。本書で書かれたほとんどの問題は、日本の労働運動が企業別の労組をもとにしていて、働く仲間同士という共感を欠いていることに根ざしているのではないか。その問題はいまも続いている。

 たまたま手にした『労働経済情報』2008年秋号の「巻頭言」(中野隆宣)は「企業別組合をヨーロッパ型の産業別組合に転換すべきだ」と主張している。日本の企業別労組は「欧米の尺度では御用組合なり従業員組織であっても労働組合ではない」、「日本の常識は世界の非常識」と述べている。『貧困の現場』の著者に、こうした視点での現場報告を書いてもらえればと望む。 

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2008年11月28日 (金)

グローバル企業のトップの発言から

 世界的な金融危機に、企業はどう対処するか。経営トップはどんなことを考えているのか。10月27~28日に東京で開催された日経フォーラム「世界経営者会議」の模様を収録した特集(11月27日付け日本経済新聞第二部)は、そんな関心に応えるだけの内容である。

 グローバル企業のCEOなどの講演から、私の関心を引いた発言を紹介すると――

 「バランスシートには記載されない人材こそが、実は活用できる最も大事な資産であり資源でもある」(コーン・フェリー・インタ-ナショナルCEOのゲーリー・バーニソン氏)。

 「重要なのは社員が自分の会社だという帰属意識を持ち、誇りを持って働ける環境かどうか。」(日産自動車社長兼CEOのカルロス・ゴーン氏)。

 「グローバル企業は、世界から多様な人材を受け入れることで競争力が高まる。強力な企業文化を持ち、一人ひとりの能力を結び付けていかなければならない。」(エンブラエル社長兼CEOのフレデリコ・クラド氏)。

 「(会社の強みについて)最後に優秀な人材だ。コーチで活躍する人材には共通点がある。ブランドを信頼していること。仕事を人生そのものととらえ、情熱的に粘り強く働くことで、高い成果を残している。」(コーチ会長兼CEOのルー・フランクフォート氏)。

 「優秀な人材をつなぎとめることも大切だ。事業規模が大きくなると優秀な人は会社を離れる。当社は基本給を少なくする代わりに、実績で決まる成果報酬部分を大きくしている。」(マグナ・インターナショナル共同CEOのドン・ウォーカー氏)。

 「成果を生み出す力はイノベーションだ。‥‥(中略)‥‥技術革新を起こすには個人の力だけでなく、チームや会社といった組織のマネジメントが重要だ。個人を集めてチームを形成しても、一人ひとりが知恵を出し合わないとチームプレーにならない。」(ノバルティス会長兼CEOのダニエル・バセラ氏)。

 「ぶれない戦略を掲げ、規律を強化する。好機をつかむために迅速に動き、コンサルタントやエコノミストの言葉には耳を貸さない。」(ダウ・ケミカル会長兼CEOのアンドリュー・リバリス氏)。

 「お客様が第一で、社員が第二、株主は三番目」、「変化の原動力は若い世代にある。ネット産業にとって唯一といえる資本は、人間の頭脳だ。」(アリババ・グループ会長兼CEOの馬雲氏)。

 「日本企業は戦略の実行力は優れているが、多様な意見や考え方を戦略としてまとめる力は弱いようだ。」、「経済危機や人口減少に伴う市場の縮小に対し、政府の支援を待っていてもダメだ。」(IMD学長のジョン・R・ウェルズ氏)。

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民間準拠せぬ東京都の技能労務職員の給与

 地方公務員の給与水準は民間準拠を基本とするとされているが、過去、民間よりかなり高かった。近年、各地方公共団体は厳しい財政事情もあり、地方公務員の給与水準を徐々に民間レベルに近づけてきたが、自動車運転手、電話交換手など技能労務職員に関しては民間よりまだかなり高い。このため、財務省の財政制度等審議会の建議や政府の経済財政改革の基本指針2007などにおいて民間水準にまで引き下げるよう求めてきた。

 東京都の人事委員会が7月に行なった技能系従業員(技能労務職員)に関する民間給与実態調査の結果をみると、都内民間事業所の月額給与は33万8915円(平均年齢49.6歳)だった。国家公務員は32万0623円(同48.9歳)。それに対し、都職員は38万9066円(46.1歳)とかなり高い。民間より約15%高いことがわかる。これに基づいて、都の人事委員会は10月16日の勧告で「調査結果を参考とし、見直しを行っていくことが必要」と述べている。

 このため、11月27日付け日本経済新聞によると、都は都労働組合連合会との間で平均8%引き下げることで合意したという。都議会にそれに基づいた条例改正案を提出するそうだ。しかし、驚いたことに、2010年4月の新規採用者から改定後の水準を適用すると書いてある。いまの職員(来年春に都に就職する者を含めて)は8%削減の対象ではないということだ。民間より約15%も高い給与を1円たりとも下げないというわけである。民間準拠なんてどこ吹く風で、既得権益を退職するまで放さないことを意味する。

 そんな合意をした都の幹部たちは、労使関係を良好に保つことを優先し、納税者や都民の利益を二の次にしている。とんでもない輩だ。財政放漫は許しがたい。

 それはさておき、2010年3月までの新規採用者と2010年4月以降の新規採用者との間に賃金レベルの断層ができるが、賃金体系として将来、連続的なものにするのか、しないのか。するとしたら、どうやるのだろうか。2010年4月以降の新規採用者でも民間よりかなり高い給与だから、彼らにしても、さらに民間に近づける必要がある。そのあたり、都は都民に説明する義務がある。

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2008年11月26日 (水)

事故米不正流通で指摘された農水省の大欠陥

 政府の「事故米穀の不正規流通問題に関する有識者会議」が25日、原因の究明と責任の所在の明確化についての報告書を発表した。農林水産省の欠陥をこれだけはっきりと指摘した政府関係文書は初めてではないか。報告書には「農林水産省は解体すべき」との意見もあると述べている。供給者側の発想にこり固まり、食の安全という消費者の側に立つ目線を全く欠いた組織では、解体も当然のような気がする。

 検証の総括において、深因は①農水省には、自分の職務が国民の「食の安全」につながっているという自覚や責任感が欠落していた、②農水省は、目先の仕事をこなしていればよいという官僚主義的体質である、と指摘。BSE対策は終了したと考え、BSE問題の反省のもとに食品の安全を農水省最大の課題と考えて、それぞれの部局で自らの業務を改革して類似の事態の発生を防止しようという取り組みが行われなかった、と述べている。

 一連の流れにおいて「消費者のことは全く考慮されていない」と報告書は言い切っている。財政負担を少なくするため、事故米穀を廃棄せず、早期処分を優先させ、汚染米が食用に流用されるのを防ぐための有効な手段を何一つ講じなかった。

 報告書は責任の所在について①農水省総合食料局の局部長等の幹部職員の責任は最も重い、②これまでに事故米穀に関する業務に何らかの形で携わったすべての職員に強く反省を求める、③組織上の統括者である歴代の大臣、事務次官をはじめとする本省幹部に対しても強く反省を求めたい、④地方農政事務所の幹部職員、特に所長の責任は重い、としている。

 そして、農水省の今後の取り組みについて、「厳正な処分を行うべきである」、職員一人ひとりの意識改革など全省挙げての意識改革を求めている。その際、民間企業の企業行動基準のようなものを設定するとか、監査指導組織を設けることとかを列挙している。

 この報告書は縦割り主義の問題や食品安全に関わる厚生労働省との業務の有機的な連携を欠いているなど、霞が関のさまざまな欠陥にも言及している。

 以上、紹介したように、役所の報告書にない歯切れの良さがある。もっとも繰り返しのようなところもあり、長過ぎると思う。

 私見によれば、責任の追及については、政府の下すペナルティは概して軽い。それだから、心を入れ替えることなく、また、失敗を繰り返すのである。それに、霞が関の官僚は退職したらいっさい責任を問われないというのはどうにも納得できない。せめて名前ぐらい公表するとか、天下り先から追放するぐらいはすべきだろう。現役の官僚に良心があれば、そのぐらいのことをしないと、国民に顔向けできないと思うはずだ。

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2008年11月24日 (月)

経済財政諮問会議に提示された消費税上げ率

 11月20日の経済財政諮問会議で、民間議員4氏が中福祉・中負担の社会保障制度を実現するためには、2015年度でいくら公費が必要か、そして、社会保障に投入する公費は現行の消費税を含め、すべて消費税で賄うとしたら、税率は何%になるか試算した結果を提示した。

 2008年度当初予算は27.0兆円(年金8.1兆円、医療12.0兆円、介護3.9兆円、少子化3.0兆円)の公費を投入する。現在の消費税5%による税収は13.2兆円(消費税率1%で2.6兆円の税収)であるから、消費税の税収だけで社会保障費を賄うとしたら、13.8兆円足りない。(社会保障に投入される公費をすべて消費税で賄うと仮定すると、現在の消費税率5%に約5.3%上乗せし、10.3%にしなければならない計算になる)

 2015年度になると、社会保障のために投入する公費は43.5~44.3兆円に達するという。そのためには、08年度に比べ、基礎年金の国庫負担を2分の1に引き上げるために3兆円程度(その時点の消費税率の1%程度に相当)、高齢化の進展や社会保障の強化のために7.6~8.3兆円(同2.3~2.5%)、次世代への負担先送り拡大を止めるために3兆円程度(同1%程度)、これまでも安定財源が確保されないままに給付してきた公費の財源を確保するために13.8兆円(同4.2%)の追加源資が必要になるとしている。

 すなわち、財政を社会保障部門と非社会保障部門とに二分し、社会保障部門の歳入はすべて消費税税収で賄う(消費税の税収はすべて社会保障部門の歳入に充てる)という仕組みを想定する。その場合、2015年度には、消費税1%の税収が3.3兆円に増えるが、それでも、消費税率をいまよりも8.3~8.5%引き上げなければならない。トータルの消費税率は13.3~13.5%となる。食料品などに対して軽減税率を設けるなどを考えると、基本の消費税率は15%ぐらいになるという試算のようだ。

 活力と安心が両立する中福祉・中負担の社会を実現するには、上記のような財政上のステップが必要だというのが民間議員の見解だ。現在の政治・経済・社会状況においてはすぐに実現するとは考えにくいが、国民が給付と負担の両方を真剣に考えることは焦眉の課題である。

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2008年11月23日 (日)

年金の世代間格差についての吉川洋教授の意見

 厚生労働省の元事務次官および夫人に対する殺傷事件の背後に、世代間格差が内在する現行年金制度への不満があるのではないかという憶測もされている。

 たまたま社会保障国民会議の座長を務めた吉川洋東大教授の記者会見が21日にあり、年金制度について「私は、若い人たちが損しているということはないという考えだ」と語った。

 同氏は、賦課方式の年金制度では、「初期の加入者は自分が積み立てた年金保険料の8倍も受け取るなど大変なボーナスを得る。それで世代間格差が生まれる」と述べ、いまの年金制度に世代間格差が存在すること、そして制度としては問題があると語った。

 しかし、では、若い人たちがいまの年金制度に加入すると損かといえば、「私は経済学者として甘いといわれるが、税が入っているから、損ではないと考える」とし、さらに次のように語った。「技術進歩で所得が上がる。年2%の経済成長なら、35年で所得は倍になる。若い人たちは私より実質収入が2倍になる。年金だけをみると、トランスファー(所得移転)が起きて若い人たちは損しているが、経済的に生活は私の世代よりはるかに向上する。だから、結果オーライだと私は考える」。

 また、会見で、財政再建については、社会保障の分野と、その他(非社会保障)の分野との2つの部門に分けて区分管理するのがよいとし、「消費税は社会保障部門の安定財源だと考える」と語った。

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2008年11月20日 (木)

社会保障国民会議の最終報告

 11月4日に発表された「社会保障国民会議 最終報告」を読んだ。年金、医療、介護などの問題点をどう改革すれば国民が安心できるセーフティネットになるか、を議論し、まとめたものという。社会保障制度は、政権が野党に移るたびにくるくる内容が変わるのは好ましくない。そういう観点から、福田首相のとき、民主党など野党にも参加してもらうつもりで社会保障国民会議を設けたが、野党が応じなかったといういきさつがある。

 とはいえ、社会保障国民会議では縦割りを排し、現在の社会保障制度が抱える課題や欠陥を列記し、それらを是正するためにどうすべきかを網羅的に書いている。それはそれとして理解できるが、制度改革の中身を個別・具体的に書いているわけではないので、説得力に欠けるうらみがある。

 その意味では、政治家がこの報告を有効に生かしてくれるかが肝腎だが、報告の発表をもってハイ終わり、というようなことになっているような気もする。

 「給付の裏側には必ず負担がある。」と報告に書いてあるように、社会保障制度改革の最大のポイントは、増大するサービス需要を賄う費用をどこの誰が払うかである。誰に払わせるかであると言っても同じことだ。とともに、既存の制度を効率化して、ムダを最小限に抑えることである。それには既得権益を持つ組織や人の抵抗を排さねばならない。そこはまさしく政治の出番である。

 その一番重要な点について最終報告はほとんど触れていない。読んでいて、物足りなかったのはそのせいだろう。

 ところで、厚生労働大臣の諮問機関である社会保障審議会の年金部会が、年金制度改革に向けた中間報告を19日にまとめた。これは基礎年金の拡充をめざして4案を提示している。さらに、より多くの高齢者が基礎年金を受け取れるようにとの制度改定を提示している。しかし、それには保険料や税負担の引き上げが必要であるが、国民の誰にどれだけ負担させるかについてははっきりしない。

 社会保障制度に対する国民の不満は高まる一方である。しかし、国民に対して、フリーランチはないこと、金持ちからふんだくればいいといった短絡的な発想では国民経済の発展はないこと、現役層から高齢層への所得移転が行き過ぎると日本の将来は暗いこと、等を政治はきちんと国民に理解してもらわねばならない。そのための努力がまず先だと思う。

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2008年11月18日 (火)

『日本は財政危機ではない!』が暴く官僚の腐敗

 小泉内閣と安倍内閣で郵政民営化、公務員制度改革などの改革プランを描いて、その実現に奔走した高橋洋一氏は財務省出身とはいえ、省益に立たず、彼の信じる国益に沿った諸改革を実現しようとしてきた。そして霞が関の官僚機構に忌み嫌われ、排斥された。

 同氏の新刊本である『日本は財政危機ではない!』は、日本の「官僚内閣制」の実態を主として財政の視点から明らかにしたものである。本書のエッセンスは241ページの以下の文章に示されている。

 「財務省をピラミッドの頂点とする官僚機構にとっては、議員内閣制など無きに等しい。彼らは与えられた権限を拡大解釈し、官僚による官僚のための政治を行ってきた。」、「官僚は大臣や族議員を取り込み、思いのままに操って、自分たちに都合の悪い政策はつぶし、利権につながる政策だけを実現させてきたのだ。」 

 同氏は「霞が関埋蔵金50兆円リスト」を挙げて、消費税増税云々の前にやるべきことが多々あることを指摘している。また、本書では、年金制度改革などについて、独自の視点で改革の方向を示す。それらの改革案は、経済学の理論を踏まえ、かつ霞が関官僚や政治の仕組みと実態を十二分にわきまえたうえでの具体策だけに、納得することが多い。

 霞が関の中枢にいる官僚たちの中には、自分たちの権益を守るため、平気でウソをついたり、インチキ文書をつくって地方自治体に流したりする者もいる。そうした実態も本書に書かれている。

 高橋氏は「終章  道州制で変わる日本の財政」で、「私が理想としているのは、「道州制を目指し、平時では市場原理ベースの社会、非常時に強い国」である。」と述べている。国の役割が道州に移れば、小さな中央政府になり、「中央レベルの官僚内閣制も自然消滅するだろう。」という。

 そして、「現在の不況や財政の破綻は、日本の国力が落ちたからではない。取るべき政策が、十分に採用されていないことに起因しているからだ」とも指摘する。

 本書198ページ以降で、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に関して、ことし5月の経済財政諮問会議で民間議員から出された提案を批判している。高橋氏によれば、GPIFはグリーンピアなどで巨額のムダづかいをした年金福祉事業団が看板をすげかえただけ。同じ運用スタッフが業務を手がけ、前と同じように運用を丸投げしているという。「そんな厚労省の役人の天下りのためだけにある不要な独立行政法人が経済財政諮問会議を取り込み、もっともらしい理由をつけ、給料の値上げや(横浜への)移転の中止を要求している。」と厳しく批判している。

 このブログの5月25日付け「公的年金基金運用体制のありかた」では、この諮問会議のグローバル化改革専門調査会の報告を取り上げ、西欧の国々並みに運用成果を上げるようにすべきだと書いた。しかし、本書の「東京に住んでいる天下りのOBたちが通勤時間が長くなるのは嫌だというので、移転中止を求めているという話も聞いた。」、「これは私を含めて、霞が関に関係のある人間ならみんな知っている話」などといった裏があっての報告書だったとすると、私も考え直す必要があることになるが‥‥。

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2008年11月15日 (土)

見栄っ張り、日本

 ワシントンで開かれる金融サミットを前に、中川昭一財務・金融担当相がIMFのストロカーン専務理事、世界銀行のゼーリック総裁と相次いで会談した。それぞれの会談において、日本政府は金融危機に対応して、巨額の資金を提供する意向を表明したという。先進国で突出して財政状態がひどいのに、何かあると、すぐ、カネを出しますという日本の悪い癖がまたぞろ出た。

 IMFに対しては、新興国への緊急融資などに充てる原資として、日本の外貨準備から最大1000億ドルを貸し付けるという。1兆ドル弱ある日本の外貨準備高は、それに見合う国債(約100兆円)を発行して得たカネでドルを買った残高である。だから、IMFへの融資の上限1000億ドルというのは、国債約10兆円を発行して得たカネで購入した外貨(実際には米国国債がほとんど)である。しかも、融資とはいえ、返済条件いかんでは、そう簡単には返らない。

 したがって、国の財政状況が日本よりもはるかに健全な西欧主要国でさえ、申し出ないような巨額の融資を日本一国で提供すると言う前に、世界各国に分担してIMFに貸し付けるように働きかけることのほうが、日本国民の利益につながるのではないか。

 英国のブラウン首相は日本がカネを出すのに賛成し、産油国にも出してもらえたらいいとの意向を表明したようだが、英国自身がIMFに融資するとは言わなかった。国益を考えてのことだろう。

 また、中川大臣は世銀との間では「途上国銀行資本増強ファンド」(仮称)を設立することで合意し、国際協力銀行が20億ドル、世銀グループのIFC(国際金融公社)が10億ドル、合わせて30億ドルの資金を3年間に提供することになったという。これも、他の国々と共同ではなく、日本単独でカネを出すという話だ。

 いいことだから、カネを出したらいいというのは、国際社会では、いい鴨にされるだけだ。個人レベルで考えてもすぐわかることだが、やたらカネをばらまく奴は尊敬されない。カネをばらまくことが外交だと勘違いしている外務省は、いまだにODA(政府開発援助)の予算が減ったことに不満を言っているようだ。しかし、財政再建が急務になっている国、日本の外交は、知恵(戦略的思考、構想力、行動力、組織力など)で勝負するしかない。頭の切り替えが日本の政治家、官僚に求められている。

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2008年11月12日 (水)

分裂症気味の政治

 ここ数日、メディアが伝える政治の主要なテーマは定額給付金である。2兆円の配分方法をめぐって与党内にさまざまな意見が出た。まず先にバラマキ方針があり(政治のリーダーシップ?)、言い出した以上、初志貫徹をということでここまできた。政府・与党は、所得制限をするか否かは、配る実務を担う自治体の判断に押し付けた。

 受け取れる人は年間所得1800万円(税務上の定義。給与だと2074万円に相当)を下限とする(常識的には上限とすると表現すべきではないか)と政府は言っている。ということは、年収2000万円ぐらいまでの国民には給付金を受け取ってほしい、そして是非、消費に充ててほしいということを意味している。だが、一方で、09年度予算をめぐって、国の財政がいかに大変か、をメディアは伝えている。

 政府は、基礎年金の国の負担を09年度までにいまの3分の1から2分の1に上げると約束しているが、その原資、約2兆3千億円(毎年)を手当てするメドがつかなくて困っている。また、雇用保険に対して毎年、国庫が負担している1600億円を09年度はゼロにしたいと主張している。国の社会保障費が放っておけば毎年、約1兆円増えるため、政府は毎年2200億円相当をカットする方針をとってきた。そこで、保険財政に余裕がある雇用保険に目をつけたわけだ。

 しかし、緊急経済対策を必要とするほどに景気が後退し始め、失業増などの雇用問題がこれから大きな社会問題になるのは明らか。それなのに、雇用保険への国庫負担をなくすという発想は正気の沙汰とは思えない。

 法人税が予算を大きく下回り、また赤字国債を追加発行せざるをえない。財政危機にあるこの国の財政をみれば、2兆円の給付金の財源はもともとない。しかもこのバラマキの事務的作業に1000億円かかるという(ちなみに、年金記録問題への対応で、07年度125億円、08年度139億円の補正予算を組んでいる)。それらは皆、将来世代に負担を先送りすることになる(国・地方の長期債務残高だけで800兆円余にも膨らんでいて、いつ破綻してもおかしくないほどだ)。

 ブラウン英国首相が、この危機に対処するため世界各国が財政出動することを唱えている。それだからといって、日本が自国の経済実勢や自らの財政事情をわきまえずに、野放図に景気対策を実施するのは適切とは言いがたい。現政権のもと、財政に対するタガがはずれ始めたようである。

 それにしても、以前書いたことだが、日本がいま国際的な責務として求められているのは、バブルの経験を生かした世界経済危機脱出プランをまとめて早く世界各国に提示することだ。 

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2008年11月10日 (月)

自治体の監査を機能させよ

 先週、会計検査院が発表した07年度決算検査報告は、中央官庁や地方自治体など公的機関のカネの使い方が不適切な実態を指摘した。地方自治体では今回調査対象にした12道府県で裏金づくりや架空発注などの不正経理が行われていたという。

 8日付け読売新聞朝刊の特集『ずさんな「公金」意識』の中で、増島俊之聖学院大学教授(元総務事務次官)は「監査は当事者自らが組織内の不手際を明らかにするのが筋。今回、自治体の不正が、外部の手でやっと明らかにされたのは、自治体の監査の仕方が、いかに手ぬるいかを物語っている」と論評している。

 監査委員の制度がほとんど機能していないのは、自治体の議会の議員が兼ねるケースが多いという事情に加え、監査委員事務局のメンバーも同じ役所の人間だからである。そうした欠陥のある制度を誰がつくったかといえば、責任の一端は総務省にある。その意味では、増島氏のような“戦犯”が他人事のように論評するのは許せない。

 大企業にも内部監査の組織がある。監査役監査を補佐する事務局はどの会社にもあるが、銀行など一部の大企業には、それとは別に検査部などという、支店などをチェックする組織がある。これらの内部監査組織も社員が配属され、不正経理などに目を光らせている。身内だから適当に見逃すというようなことは皆無ではないだろうが、そうそうはない。カネの面でのでたらめは会社の経営を揺るがしかねないからである。

 これに対し、公金をいくらムダ遣いしても、自治体はつぶれない。カネが足りないといえば、総務省など国が何とかしてくれる。そうした甘えが自治体の議会議員にも職員にもある。住民の多くも、国が何とかしてくれると思っている。そこが企業と自治体との違いだ。そうした自治体の甘えの構造を断ち切る必要があろう。

 ところで、公認会計士が自治体をチェックする包括外部監査が1997年の地方自治法改正で義務付けられ、日本公認会計士協会などでは業務分野の拡大だとして、これを歓迎した。しかし、地方自治体の経営を適正化するうえで、いまの監査委員、監査委員事務局、および包括外部監査の組み合わせが十分か検証する必要がある。会計士協会に課せられた課題の1つではないか。

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2008年11月 9日 (日)

社会保障制度の綻びに対する経済界の懸念

 日本経済団体連合会の月刊誌「経済Trend」は11月号で「今こそ税・財政・社会保障の一体改革を」という特集を組んだ。いろいろな立場の人たちが登場していて参考になる。

 経団連は先頃、消費税引き上げを含む一体改革に関する提言をまとめた。それに関連したこの特集を読むと、「特に社会保障のほころびは、国民の不安を招き、国全体の閉塞感につながり、ひいては経済成長を阻害する大きな要因になります」(張富士夫日本経団連副会長・、トヨタ自動車会長)との認識に立っている。そこで、「日本が目指すべき将来像を明確に示し、その下で税制や財政、社会保障制度の改革を一体的、連続的に進めていく必要がある」(大橋光夫日本経団連評議員会副議長・昭和電工会長)としている。

 特集号を読みながら、「この人はこんなことを言っているの」と思いつつ、私が横線を引いた個所の一部を抜き書きすると――

 古川元久民主党税制調査会筆頭副会長=「特に担税力の高い人や企業ほど容易に国境を超え、納税する場所さえ選択する時代になっている。」、「消費税については、税収はすべて社会保障以外に充てないことを法律上も会計上も明確にする。」

 吉川洋東京大学教授=「医療費には効率化の余地があることは事実だが、大きく見れば先進国で医療費がGDPの成長率より高い伸びを示すのは、医学・医療技術の進歩を反映したものだから、医療費そのものの抑制を自己目的化することは正しくない。」、「EUに加盟する条件の一つが「消費税率15%以上」ということの意味合いを、われわれ日本人はもっと真剣に考えてみる必要があるのではないだろうか。」

 土居丈朗慶應大学准教授=「消費税の負担は逆進的ではなく、(生涯)所得に比例的になると理解するのが正しい。」、「(深刻な逆進性を持つ)社会保険料に代えて消費税で社会保障財源を賄えば、逆進性の緩和につながる。」、「所得控除を税額控除に換えつつ、給付付き税額控除を導入して低所得者に配慮する方法があろう。」

 山重慎二一橋大学准教授=「社会全体で高齢者を支える社会保障制度の下では、子どもたちが、社会全体に大きな便益をもたらす存在(公共財)になるという認識は重要である。」、「自分は子どもを持たなくても、他の人が子どもを生み育ててくれれば、社会保障制度を通して、老後の生活は保障される。だから、無理して結婚して子どもを育てる必要はない。そう考える人たちが少しずつ増えてきたことが、未婚化、晩婚化、そして少子化の一因と考えられる」、「子育ての支援のための費用負担を社会全体で、たとえば消費税のような形で、広く求めることが望ましいのである。」

 富田俊基中央大学教授=「(国債金利など)マーケットは将来の財政事情を先読みしている」、「国際金融市場はわが国財政に懸念を抱き、日本の債券にリスクプレミアムを求めているのである。」

 森田富治郎日本経団連副会長・第一生命保険会長(座談会での発言)=「所得税において各種控除制度を極力、税額控除方式へと組み替え、子の数によって累進的に増加する税額控除制度を創設することで、中低所得層の子育て世代に減税となるような集中的な支援を行うことが必要です。」

 津島雄一自由民主党税制調査会長(座談会での発言)=「無駄なことをやってはいけないけれども、必要な時は財政が出動して必要な仕事は行う。これまでこの財政の機能を少し軽視し過ぎていたと思います。」、「少子化対策が一番成功しているフランスでは、その対策に約10兆円使っていますが、日本では5兆円にも達していません。」、「特別会計全体で見ると、資産と負債の差額が68兆円あり、それを使えばよいということですが、黒字だけ集めると68兆円あっても、負債も考えると、実は289兆円の赤字になっています。」

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2008年11月 7日 (金)

パナソニックが三洋電機を傘下に

 パナソニックが三洋電機を買収する。その昔、それぞれの創業者である松下幸之助さんや井植歳男さんと記者会見で会ったことを思い出した。1960年代の終わり頃のことだ。激しい競争を繰り広げながら、両社とも成長していた。パナソニックは松下電器ならぬ「真似した電器」などと言われていたが、販売店網では抜群だった。三洋は家電分野でシャープなどと並んで二流とみられていた。

 あれからおよそ40年。パナソニックは我が国有数の企業になった。海外事業の展開も常に先頭を切ってきた。しかし、三洋は“ミニ・松下”の道を歩み、電気せんたく機を除けば、家電製品のどの分野でも一流になれなかった。そして、太陽光発電(太陽電池)、リチウムイオン電池の分野に早くから取り組んできたおかげで何とか生き延びている。両社の違いはさまざまな要因に基づくだろうが、1つ言えるのは、パナソニックのほうがかなり早く同族経営から脱したことである。

 40年ぐらい前、三洋とシャープは二流のメーカーで、三洋が少し大きかった。しかし、シャープの創業者、早川徳二氏は同族経営をよしとしなかった。それで、後継社長のとき、半導体メーカーのノースアメリカン・ロックウェルと提携し、半導体分野に乗り出した。このタネまきが、いまの液晶テレビ事業につながっている。

 バブルおよびその後遺症を経て、さまざまな業界で、日本の企業は合併、買収などの再編を経験した。最近はデパート業界などが再編の嵐に直面している。伸びきった戦線を維持するだけの費用を賄えなくなったということである。その意味では、再編整理が遅れている業界で同じ現象が起きるのは必定である。パナソニック―三洋電機は、日本の新たな産業再編の大きな導火線なのかもしれない。 

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「Gum Busters」を見た

 最近、都内の駅前広場近くで「Gum Busters」の作業を見かけた。歩道などに黒く張り付いているチューインガムのごみを熱い蒸気と熱水のようなもので溶かし、除去している作業員がいて、その背中には「Gum Busters」と大きく書かれていた。もう1人が区役所総合支所の表示板を持っていたから、区役所が街の美化のためにやっているのだろう。

 「Gum Busters」の機械装置は1998年にオランダで開発され、事業化されたらしい。その後、欧州の諸国に広がり、日本や米国でも事業が営まれているという。捨てられたガムは道路を汚すので、どこでも困っているから、除去専用の機械ができたのはいいことだ。とはいえ、除去作業の費用を税金で賄うのは釈然としない。

 ガムメーカーは、噛んでいたガムを吐き捨てないで、包装紙などに包んでから捨てるようにガム愛好家にお願いしている。しかし、現実は、街の道路のいたるところに吐き捨てられている。先日は、駅の構内で、駅員らしい人がいちいち削り取る作業をしていた。そうした目で街を歩く際、下を見たら、黒くこびりついたガムが多いことに驚いた。

 家電リサイクルなどにみられるように、廃棄物の処理・処分にかかる費用はユーザーが負担するのが原則。実際にユーザーの1人、1人から直接、処理・処分の費用をいただくのが難しい場合には、メーカー・販売の業者からいただいて、その代わりにメーカーなどは販売価格に費用を上乗せするというのが基本的な考え方である。そして、適正に始末しなかった消費者を処罰することも必要である。

 いちいち捨てる現場で摘発するのは事実上不可能だとすれば、自治体はガムのメーカー・販売業者から除去費用をもらい、業者は販売価格に費用を上乗せするのが妥当である。私、ガムを売る人、あなた、ガムを捨てる人、というのが当たり前になっていて、自治体が税金で「Gum Busters」を雇い、ごく限られた道のガムを除去している状況はどこかおかしい。自治体は問題を提起したらどうか。

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2008年11月 4日 (火)

1日に301億円、国・地方の長期債務残高が増える

 財務省が10月31日、ホームページの「日本の財政を考える」を更新した。その中で、国および地方の長期債務残高が1日に301億円、1時間に13億円、1分間に2093万円、1秒間に35万円増加するというデータを載せた。

 07年度末(08年3月末)現在の国・地方の長期債務残高は767兆円だった。これが08年度当初予算によれば08年度末(09年3月末)に778兆円になる見通し。そこで、一定の速度で残高が増えると仮定した場合に、1日、1時間、1分、1秒のそれぞれごとに残高がいくら増加するかを示した。補正予算で建設国債などの発行で長期債務が膨らめば、増え方は急ピッチになる。

 同省は昨年8月初めにデジタルカウンター方式でいわゆる借金時計を公開した。しかし、アクセスが殺到し、すぐにサーバーがパンクしたため、その後はやめていた。今回の開示は、それに代わるものという。しかし、なかなかホームページの中を探しても見つからない。「日本の財政を考える」の中に「財政データ集」があるが、その2つ目の項目「国の借金状況は?」の最後にある「我が国の借金(国及び地方の長期債務残高)について」がそれだった。全く目立たない扱いである。

 いわゆる借金時計は、日本では財部誠一氏がホームページで「日本の借金時計」というデジタルカウンター方式のものを開示しているほか、ネットの「リアルタイム財政赤字カウンタ」がある。東京タワー4階の「感どうする経済舘」には「日本経済の足音時計」というのがある。また、高知県のホームページを見ると、「高知県借金時計」がある。

 米国やドイツにも借金時計がある。いずれも巨大な財政赤字の実態を一般市民に訴えるためのものである。米国の借金時計の一例をあげると、ネット上、「Babylon Today」というホームページの中にある「U.S. National Debt Clock」というデジタルカウンターがある。Babylonというのは、腐敗、堕落の都市という意味かと想像する。

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2008年11月 3日 (月)

医療保険のムダや不正

 「医療崩壊」で、医療費が低いことに原因があるかのような意見が出ている。低医療費犯人説だ。しかし、ことはそう単純ではない。朝日新聞の10月31日朝刊の特集「医療費むしばむ架空請求」は、医療機関の医療保険に対する不正請求が多いことを具体例を挙げて指摘している。

 治療してもいないのに、あたかも治療したかのように政管健保(10月から協会けんぽに組織替え)など保険運営者に不正に治療費を請求する。そうした医療機関による不正は、公金を詐取する行為だから刑事犯罪である。それを防ぐには、政管健保、国民健保などがきちんきちんと保険加入者にどこの医療機関でいくらかかったかの明細を定期的に送り、確認してもらうことが欠かせないし、レセプト(診療報酬明細書)を審査する社会保険診療報酬基金などがもっと厳しくチェックする必要がある。そして、不正が露見したら、刑事罰を課すようにしなければならない。

 しかし、不正が明らかになっても、社会保険事務局や市町村は医療機関に厳しい態度をとらないという。それに、厚生労働省の天下り先である支払基金のレセプト審査はかねてより甘いといわれている。支払基金の審査料はレセプト1枚につき114.20円、調剤57.20円もするが、コンピュータでオンライン化すれば、コストが大幅に下がるはずだし、不正請求を発見しやすくなるが、医師たちの抵抗でいまだに出来上がらない。

 医療機関の間をオンライン化すれば、1人の患者が別の医療機関に行ったとき、すでに受けた検査を繰り返して受けることは要らないだろう。また、医者にかかった経験がある人なら、大抵、飲み残し、使い残しの薬品があるだろう。医療機関は検査も薬も多く出す傾向がある。

 医者の口からは医療費抑制政策への批判が出る。しかし、不正請求などがまかり通り、かつ、検査漬け、薬漬けで診療報酬をかせぐいまの医療および医療保険制度のありかたを反省することなく、あたかも医療費を高くすれば問題が解決するかのような発言は、いわゆる業界エゴでしかない。ムダや不正などをうんと減らせば、病院の医師などの給与をもっと上げることができよう。

 いまは、国家試験で資格を取得することで、特権を得たようなつもりでいる医師たちが多いらしい。だが、本来は、医業を営む免許(一般の人たちには医業をやらせないということ)を国家から付与された見返りに、国民に奉仕する義務が伴うと考えるべきだろう。医は算術ばかりでは免許制をとっている意味がないと思う。

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2008年11月 2日 (日)

日本一の個人投資家の“哲学”を表した『花のタネは真夏に播くな』

 株価が途方もなく低い水準にある。こんなとき、株式投資に関心のある方には、「日本一の大投資家竹田和平が語る旦那的投資哲学」という副題が付いた『花のタネは真夏に播くな』(水澤潤著、08年10月10日刊)を一読するのを勧めたいような気がする。私自身、こんな破天荒の人物がいるとは全く知らなかったのだが。

 竹田和平という人は「まえがき」によれば、「今では『会社四季報(二○○八年夏号』で確認できるだけでも百四社もの株主欄に名前が載っている」という日本一の大投資家だそうだ。そして「株が、株であるというだけで叩き売られている今の時代ほど、投資に適した時はないと竹田さんは言う」とのこと。世界経済危機のいま、この時点でもそう言っているのかと疑いたくなるが、本書を読んだ限りでは、それは変わっていないと受け取れる。

 ここでは、読んで強く印象に残った個所を紹介する。

 企業の社会貢献(メセナ)活動について、竹田さんは「会社が株主に配当すべき金を使って社会貢献するなんて、本末転倒もはなはだしい話です。社長が引退してから、自分の身銭で社会貢献すべきなのです」と言っているという。私はCSR(企業の社会的責任)の一環として社会貢献活動をそれなりに評価しているが、経営トップが引退したあと、社会貢献活動をすべきだという意見には大賛成だ。

 竹田さんは、「お金持ちというのは、みんなから感謝されたいと思っています。ありがとうと言ってくれるのなら、お金は使いたいのです。お金持ちが喜んでみんなのためにお金を使える方向に税制を大きく変えるべきです」、ところが、いまの日本は「政府自身がネズミ小僧をやっている」、「本物のネズミ小僧は民間人でしたから庶民は拍手し感謝したのであって、政府がネズミ小僧をやっても国民は誰も感謝しないでしょう。福祉なんて、相手が政府なら、施してもらって当たり前だとみんなが思います。お金をもらっても感謝がない。もっとよこせと不満ばかりを言うようになります」、福祉は民間がやるべき仕事であり、政府はプレーヤーを兼任するのでなく、審判の立場に戻るべきだ、と語っている。

 ものを言う株主は絶対悪だという宣伝が国民全体に刷り込まれ、それを一番喜んでいるのは「官」だとみる竹田さんはこう言っているという。「株主が口を出すのは悪であって、監督官庁の御指示によって会社が動くのが正しいというような、刷り込まれてしまった意識の下では、日本の景気は、永遠に回復しないかも知れません」。

 以上のほか、「上がってよし、下がってよしの株価かな」などという竹田さんの発想や、会社、株主、政府などについての彼独自の見解も興味深い。

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2008年11月 1日 (土)

「生活対策」等の経済対策で感ずること

 麻生内閣が10月30日、「生活対策」と銘打った新たな総合経済対策を発表した。翌31日には日本銀行が政策金利(無担保コール翌日物金利)の誘導目標を年0.3%程度に引き下げた。「生活対策」は事業費の規模が26.9兆円程度、“真水”の国費は5.0兆円程度という。それらをみて感じたことを書き連ねると――

 バラマキの最たるものである定額給付金は選挙対策としか思えないが、霞が関の各省庁も予算(カネ)が得られるというので、よくまあ、あれこれ総花的に対策を書き連ねていることか。世界的な経済危機が日本経済のどこにどう響いてきているのか、そこをきちんと詰めて検討した結果出てきた対策もあるが、そうでないものがたくさんある。

 円高というと、すぐ大変だという声が上がる。しかし、流通業界や旅行業界では円高メリットを還元するセールなどを始めている。また、原油値下がりなどでガソリンなどが安くなってきており、ひところ石油製品高騰で悲鳴をあげていた産業やマイカー利用者の負担は減る傾向にある。世界経済をおおっていた過剰な投機が急速に縮小した結果、ついこの間まで各種輸入品の価格高騰に苦しんでいた産業や消費者も一息つき始めているわけだ。経済対策はそうした経済情勢の変化を踏まえた内容になっていない。バージョンが1つ古いのである。高速道路料金の値下げなんぞはその1つだ。

 国・地方とも財政は危機的な状態が続いている。したがって、100年に一度の危機だからといって、いい加減なカネの使い方をしては困る。追加予算を組むとしても、今後の日本経済が直面する社会保障など中長期的な課題の解決に役立つことを優先すべきである。そして、規制の撤廃・緩和や地方分権の徹底などの構造改革、つまり中央省庁の役人がいやがる改革を実行すべきである。この国をどういう社会にしたいかの理念に裏付けられていない個別政策は国費のムダ遣いである。

 麻生首相は30日の記者会見で「大胆な行政改革の後、経済状況を見た上で3年後に消費税引き上げをお願いしたい」と述べた。しかし、「大胆な行政改革」とは具体的には何かわからない。消費税引き上げが必要なことを国民に言明したのは評価するが、いくつかの条件が付いた表現なので、増税が先送りになり、財政悪化状態がより深刻さを増すだけにならないか心配だ。

 「生活対策」の財源は赤字国債に依存しないという。しかし、財政投融資特別会計から国債整理基金特別会計に繰り入れて国債償還に充てるカネを使ったりするのだから、国の財政全体でみれば赤字国債の発行と実質は同じだ。そうまでして、政府が財政健全化にこだわっているという見方もできるが、それは多分に市場向けのポーズだろう。21世紀に入ってからの長い好景気の間、政府はプライマリーバランスの黒字化を一度も達成しなかったし、それ以前も、ずっと国債残高を積み上げてきた。ついでに言えば、08年度の税収が予算を5兆円程度下回ることになれば、赤字国債を発行せざるをえない。財政健全化とはおよそ逆のコースをひた走っているのだ。

 日本銀行はバブル崩壊後に史上かつてない超低金利を維持してきた。上記の好景気のときでさえ、デフレから脱却していないとの理由で、超低金利状態を当然視していた。このため、景気が悪化しても、政策金利を下げる余地がほとんどないままだった。日銀が市場金利をせめて2%か3%ぐらいにまで戻していれば、景気の調整弁として金利機能を使うことができただろうし、国民の金融資産の利息がもっと増えて、消費を促し、内需主導型経済に移行するきっかけを用意できたかもしれない。米欧の投資銀行や各種ファンド等が日本で調達した超低利資金をもとに不動産、株式、商品先物の投機を行なっていたといわれるだけに、日銀の硬直的な金融政策の罪は重い。 

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