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2008年11月29日 (土)

『貧困の現場』(東海林智著)

 毎日新聞の記者、東海林智氏の書き下ろし。日雇い派遣、名ばかり管理職、過労死・過労自殺、外国籍労働者搾取など、非人間的な労働・生活条件のもとであえぐ人々に密着取材し、ときには一緒に行動して、現代日本の暗部をえぐり、告発する書である。

 ワーキングプアといわれる人々の苦悩に共感し、貧困の現場を歩いた記録だが、具体的な内容については本書を読んでもらえればと思う。以下は私の感想である。

 住宅があれば、ぐっすり寝られるし、自分の持ち物を置く場所ができる。そして仕事も見つかりやすいという。人間らしく生きるのに、「住」は基本であることがわかる。

 派遣労働では職場がくるくる変わるので、人間関係ができない。それが孤独感を深めるという。「労働は商品ではない」のだから、人間らしい働き方や労働者の権利を大事にする必要がある。

 長時間労働、サービス残業、名ばかり店長など劣悪な労働条件のもとでも我慢して働く人々は真面目な性格なのだと思う。雇う側はそこにつけこんでいる。それが何とも卑劣だ。日本企業は家族的経営だとか人間尊重などの特徴があるといわれたこともあったが、実は、人権とか民主主義といった基本的な価値が日本の社会には根付いていないことを示しているのだろう。

 フランスでは、ホームレスはまずシェルター(住むところ)を求めるそうだが、日本ではまず仕事をくれというそうだ。日本の人たちは働くことに関して、単に生活を支えるためだけでなく、生き甲斐をも感じているのだと思う。日本経済の国際競争力が強いのと無関係ではないと思う。

 最後に注文。『貧困の現場』が取り上げている現実が生じてきた背景をバブル後遺症およびグローバルな視点で分析してほしかった。1995年に、当時の日経連が発表した提言「新時代の『日本的経営』」において、雇用の流動性と成果主義の導入が打ち出された。その後、それが実現したというわけだが、日本の企業がヒト、設備、債務の3つの過剰を抱え、ポスト冷戦およびIT革命のもとで、再生するには他にどのような選択肢があったのか。

 「おわりに」で、「労組は結果的に派遣法を許し、規制緩和も押し切られてきた。非正規労働者がどんどん増えていった時も自分たち正社員の雇用を守るのに必死だった。彼は「本当の意味で働く者同士の連帯がなかったんだろうな」とも言った」とある。「彼」とは現役を引退した労働組合の元幹部であるが、まさしく「彼」の言う通りだと思う。本書で書かれたほとんどの問題は、日本の労働運動が企業別の労組をもとにしていて、働く仲間同士という共感を欠いていることに根ざしているのではないか。その問題はいまも続いている。

 たまたま手にした『労働経済情報』2008年秋号の「巻頭言」(中野隆宣)は「企業別組合をヨーロッパ型の産業別組合に転換すべきだ」と主張している。日本の企業別労組は「欧米の尺度では御用組合なり従業員組織であっても労働組合ではない」、「日本の常識は世界の非常識」と述べている。『貧困の現場』の著者に、こうした視点での現場報告を書いてもらえればと望む。 

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