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2008年12月31日 (水)

原敬記念館と大慈寺に寄る

 最近、岩手県盛岡市に用があって行ったとき、原敬記念館を訪れた。原敬(はらたかし、1856~1921年)が子どもの頃に住んでいた場所に記念館がある。一通り見て、いまの日本に、これほどの人物が総理大臣だったらなあ、とつくづく思った。

 原敬総理大臣は1921年(大正10年)11月4日、東京駅頭で暗殺された――といえば、日本史の授業で学んだのを思い出す人もいよう。「国会開設100年」という特集記事(1990年11月25日付け日本経済新聞朝刊)には、日本の政治家10傑のトップに原敬が挙げられている。ちなみに2番が吉田茂、3番は伊藤博文である。原は初の政党内閣を組織した平民宰相で、かつ白河(福島県)以北出身の初の大臣経験者でもある。

 記念館の展示によると、「原敬が目指したもの」として、①朝敵の汚名を冤ぐ、②藩閥の打倒打破と政党政治の確立、③国民生活の向上、④民主化の推進、⑤外交の転換、⑥皇室の民主化、が挙げられている。

 ①と②は幕末から明治時代への歴史を色濃く反映したものだが、③以降は現代の政治家が目指すべき目的と基本は変わらない。例えば、③では、高等教育機関の増設、鉄道・通信・港湾・道路整備による地方振興、結核予防法などの制定、職業紹介所、労働組合などの立法化、第一回国勢調査の実施など、④では大正天皇の病状発表(情報公開)、陪審法案の提出(裁判への国民参加)など、⑤ではアメリカ重視、中国との関係改善、シベリア撤兵など、⑥では皇太子外遊の推進、宮中の改革、皇室財産の国民への還元など。

 展示で印象に残ったのは、第一に彼の多様なキャリアである。司法省法学校(のちに東京大学法学部に)を退学させられたあと、郵便報知新聞社、大東日報といった新聞社にいて、それから外務省に入り、通商局長、外務次官などを歴任した。パリ駐在から戻った農商務省参事官のとき、動物の乱獲を憂い、森林を国家永遠の財産とし、水源の涵養など国土保安および伐採の禁止を目指して調査のための特別会計を設けるよう訴えたことがある。そして外務省を退いたあと、大阪毎日新聞社社長や大阪北浜銀行頭取も務めた。衆議院議員になったのはそのあとである。著書も多く、新聞社社長のとき、木下藤吉郎のペンネームでコラムを書き、単行本にしたこともある。

 第二に、暗殺の危険があったため、自分が死んだ場合の葬儀の仕方などを予め遺言にしたためていたことである。葬式は盛岡の大慈寺で行なうこと、墓石には名前だけを刻むことなど、質素な葬儀にするよう家族に書きのこした。大慈寺に行って墓に詣でててきたが、確かに、現職の総理大臣の墓にしては簡素であった。

 第三に、19歳のときから、凶刃に倒れた65歳のその日まで日記を書き続けたことである。遺言で日記は一切公表されなかったが、第二次世界大戦後、「原敬日記」として公刊され、貴重な研究資料となっている。彼は日記メモを毎日したため、あとで1週間分ないし10日分を日記帳に書き記したという。彼は大変な勉強家であり、読書量も桁外れだったようだが、日記も膨大な量である。

 政治家の死後、その業績をたたえ、人物をしのぶ記念館がどれだけ国内にあるか知らない。原敬の場合、亡くなってから80有余年も経つのに、記念館が存続している。では、現在から過去にさかのぼって戦後の歴代総理大臣を見たとき、何十年のちまで立派な記念館が残りそうなすぐれた政治家は果たして何人いるのだろうか。近年の総理大臣群像を思い浮かべると、寒心にたえない。

 しかし、悲観ばかりしていても仕方がない。あすに期待しよう。現代日本が直面する危機を突破できる政治のリーダーシップをいかに確立するか、それが2009年の主要な課題の1つだが、それに向けて政治はようやく胎動を始めたようだから。

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2008年12月29日 (月)

社会保障給付費の大きさ

 社会保障制度を通じて国民に給付される金銭またはサービスの総額を示す「社会保障給付費」(ILO基準)は2006年度に89.11兆円だった。国立社会保障・人口問題研究所が11月に発表したもので、対国民所得比は23.9%。国民1人当たり69.7万円である。

 「社会保障給付費」を部門別にみると、年金が53.1%を占め、次いで医療が31.5%。介護対策は6.8%だった。

 給付費を機能別に分けると、「高齢」が50.1%と半分を占める。次いで「保健医療」が30.8%。以上の2つだけで全体の80.9%に達する。ほかには、「遺族」7.2%、「家族」3.4%、「障害」2.9%、「生活保護その他」2.6%、「失業」1.4%、「労働災害」1.1%、「住宅」0.4%。

 「高齢者関係給付費」(年金保険給付費、老人保健(医療分)給付費、老人福祉サービス給付費および高年齢雇用継続給付費を足したもの)は、62.23兆円で、「社会保障給付費」に対する割合が69.8%に達した。

 一方、社会保障財源をみると、収入総額は104.37兆円。社会保険料がその53.8%に当たる56.20兆円(事業主拠出27.0兆円、被保険者拠出29.2兆円)で、公費負担は31.07兆円で29.8%を占めた。

 研究所の発表には、ILO基準とは少し違うOECD基準の「社会支出」(2005年)で日本と欧米諸国とを比較したデータが添付されている。それによると、国民所得に対する社会支出の比率は日本が26.2%なのに対し、米国は20.3%と低いが、スウェーデン42.3%、フランス40.7%、ドイツ36.7%、英国28.2%と西欧の国はいずれも日本より高い。

 しかし、政策分野別社会支出の対国民所得比をみると、日本は「遺族」がフランスに次いで高いのに加え、「高齢」で日本は12.3%と、フランス、ドイツ15.2%、スウェーデン13.5%に近い。半面、「障害、業務災害、傷病」、「保健」、「家族」、「積極的労働政策」、「失業」、「生活保護その他」は概して比率が小さい。

 これだけで断定的な言い方はできないが、日本の社会保障は欧米に比べると、遺族向けと高齢者向けに重点が置かれているようにみえる。 

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2008年12月27日 (土)

「明けましておめでとう」とは書きにくい

 年賀状を出す時期だが、「明けましておめでとう」と書けるような展望は開けていない。それどころか、この危機の底の深さをいっそう強く感じる。

 一般の暮らしで一番大きい買い物はおそらく住宅、二番目がクルマだろう。金額が大きいから、ローンの利用が多い。ローンは将来の所得を当てにする、需要の先食いである。しかも、ローンの供与の条件は傾向としてゆるくなってきた。そうやって、住宅・不動産業界も、自動車業界も、そして金融業界も、成長を遂げてきた。米国でも、西欧でも、日本でも。

 したがって、住宅・不動産、自動車、金融の分野は販売、部品・材料などの関連産業を含めると経済全体に占めるウエートが非常に大きい。そのため、それらの産業が縮小に転じると、そのマイナス連鎖は経済社会に大きな打撃となる。しかも、世界最大の経済規模を持つ過剰消費国、米国が急速に不況に突っ込んだため、日本、中国など対米輸出依存度が直接、間接に大きい国の経済は輸出減の影響をもろに受けている。

 必要なものを必要なときにだけ調達するというカンバン方式のもとでは、末端の需要、販売動向がもろに短時間のうちに生産段階に反映される。溜めというか、バッファーがない分、一気に経済全体が萎縮する。

 一将成って万骨枯る。日本では、下請け企業などにしわよせが行く傾向が強い。金融機関は金融機関で、自己資本比率の低下を懸念し、不良債権の発生を恐れて、取引先を安易に切ろうとする。

 個人消費は食品などの必需品を別にして、いま買わねばならないものは少ない。クルマなどは買い替え時期を延ばせばいいということになりやすい。企業も設備投資の凍結、延期など巣ごもりを始めている。

 したがって、いまは公的部門が財政、金融の面で経済の極端な縮小に歯止めをかけるのは大事だ。とともに、企業がいまこそチャンスと将来性のある事業分野に取り組むという企業家精神の発揮を期待する。政府がそれを支えるために必要な規制緩和を推進したり、中長期の経済社会発展ビジョンを示してそれに沿った経済対策を打ち出すことも欠かせない。

 この未曾有の危機においても、明るいニュースがある。非正規労働者の雇い止めで失業し、住むところを追われる人たちにNPOが救いの手をいち早く差し伸べたことだ。人は年末・正月休みだからメシを食わないですむわけではないし、まともに寝るところも要る。お役所仕事では、ややもすると、福祉サービスは土日祭日は休み、夜間も休みということが多い。それだけにNPOが労働、福祉の分野で弱者を護る最前線に立っているのはありがたい。

 派遣の失業者などを雇おうとする企業や、一定期間に限って雇用する自治体が現れたことも明るいニュースだ。サービス業などでは、人手不足で思うように事業を拡大できない企業も少なくなかった。労働条件はいいとは言えないかもしれないが、それを厭わねば、結構、働き口はあるのだ。従来、そういった企業は募集しても誰も来てくれないので、たいていあきらめていた。

 カンバン方式のように、大企業はともすれば減産、即、雇用調整ということで非正規雇用を切るのを当然視していたようにみえる。社員に対しても、かつてのように労使関係を大事にしていた時代と異なり、ドライな発想をする人事労務担当幹部が増えている。だが、彼らには、CSR(企業の社会的責任)とは何かを改めて、この時点で考えてほしいと思う。個々の企業が個別最適を追求し、その結果、日本社会全体が不最適になるのは避けたい。

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2008年12月24日 (水)

社会保障関係費だけで税収の半分占める

 政府は24日の閣議で2009年度予算案を決定した。また、消費税引き上げを軸とする税制抜本改革に向けた「中期プログラム」を決めた。08年度第二次補正予算案でも言えることだが、09年度予算案はとにかく景気対策だということで、あっちこっちの要求を鵜呑みにしたような大盤振る舞いとしか思えない。

 社会保障関係費は14%増の24.8兆円という。その規模は一般歳出51.7兆円の実に48%、つまり約半分を占めるほどに大きい。また、社会保障関係費は税収46.1兆円の54%に相当する。税収の半分超を社会保障に充てるほどの超福祉国家になったと言うべきか、それとも、国民の税負担があまりに少ないと言うべきか。どちらにせよ、極端にアンバランスだという感じがする。

 医療、介護など社会保障分野では国民の不安をかきたてる出来事が多い。したがって、政治がそれに対応するのは当然だが、歳出予算を増やせば解決するという単純な問題ばかりではない。それに、社会保障関係分野の人たちは概して既得権益を守り、改革に強く反対する。高齢化などで、今後も毎年1兆円近い財政支出増が続いたら、日本の国家財政は急速に行き詰まるだろう。負担なくして受益なし、という財政の基本を国民に理解してもらうことが政治の急務である。

 国債の新規発行は33.3兆円という。しかし、財政投融資特別会計から4.2兆円、外国為替資金特別会計から2.4兆円をそれぞれ一般会計に繰り入れるというのは、国債を発行する代わりのやりくりだから、それらを新規発行とみなせば、トータルの実質新規発行は約40兆円ということになる。たったの1年間にである。補正予算を組むようなことにでもなれば、もっと膨らむ。将来世代にそれほどのツケを回すというふうに考えると空恐ろしくなる。

 したがって、「中期プログラム」に2011年度からの消費税率引き上げを書き込んだのは、自民党にもまだ良心があるのだなという評価もできる。もっとも、具体的にどういう経済状況になったらどれだけ引き上げるのかが明確でないから、評価できるといっても、所詮たかが知れている(自民党が政権の座からすべり落ちる可能性が高まる一方だから、同党が1年以上先のことを云々してもほとんど意味がないけれど)。

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2008年12月21日 (日)

労働組合基礎調査結果から

 最近、厚生労働省が平成20年労働組合基礎調査結果の概況を発表した。労働組合の退潮トレンドは依然続いている。それが、非正規労働者の雇用縮小など深刻な事態に労組がほとんど取り組んでいない事態と無関係ではないことがわかる。

 平成20年6月30日現在、民間労組に公務員等労組を加えた労組数は2万6965、組合員数は1006.5万人、雇用者数に対する組織率は18.1%だった。

 うち、労働組合法に基づく労働組合員は825.7万人。組合員1000人以上の労組に所属する労組員は487.7万人で、雇用者数に対する推定組織率は45.3%に達する(郵政公社の民営化を含む)。しかし、100~999人の労組に所属する労組員は193.2万人だが、推定組織率は13.9%にすぎない。それより小規模の労組の組合員は27.3万人しかおらず、推定組織率も1.1%とわずかだ。

 また、パートタイム労働者の労組員は61.6万人で、短時間雇用者数に対する割合はたったの5.0%である。日本の労働組合活動が中小企業にはほとんど普及していないこと、および非正規労働者も労働組合活動から疎外されていることがわかる。

 企業内組合で、かつ大企業中心という日本の労働組合は徐々に組織率が低下し、影響力が低下している。今回調査の5年前の平成15年調査結果をみると、労組数は2万9745あった。組合員数は1053.1万人で、組織率は19.6%である。それと比べると、平成20年は明らかに退潮を示している。 

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中長期の視点に乏しい?経済対策

 政府が今年度第二次補正予算案および09年度予算案をほぼ確定した。日本銀行は政策金利引き下げなどの対策を19日に決定し、実施可能なものは即、実施に移した。世界および日本の経済情勢は、ついこの間までとはうって変わってしまったから、景気のスパイラルな下降を食い止めるために、需要の創出および資金供給の円滑化は欠かせない。

 とはいえ、景気刺激策が十分吟味されたものか、気になる。巨額の財政赤字累積を忘れて、将来の世代に大きなツケを残すことは絶対にまずいからだ。

 日銀は政策金利引き下げやCPの買い取りなどとともに、毎月の国債買い入れ額をこれまでの1兆2千億円から1兆4千億円に増やした。だが、その点について白川日銀総裁の記者会見ではほとんど説明がなかった。記者から突っ込んだ質問もなかったようだ。

 金融市場調節方針の変更として、日銀は月々の国債買い入れ額を2002年10月30日にいまの1兆2千億円に増やした。それまでは1兆円だった。さかのぼると、2001年12月19日にはそれまで月間6千億円だったのを8千億円に引き上げている。時系列でみると、買い入れ額は増加のトレンドを示している。

 今回の変更により、日銀の国債購入は年間16兆8千億円にのぼる。08年度(予算の第二次補正後)、09年度(当初予算)とも、約33兆円の新規国債発行を見込んでいるので、そのほぼ5割に相当する。これまで、日銀は買い取った国債を市場で売ったりしているから、保有残高はことし9月末現在で65兆円余にとどまっているが、売るに売れないような金融情勢にならないか、素人ながら気になる。

 国の予算案は、大雑把に言えば、税収の2倍の歳出を組んでいる。必要不可欠な歳出もあるが、どちらかといえば、目先の景気てこ入れや選挙対策に偏っている。将来の日本財政に一段と重い負荷をかける内容となっている。今後の日本が活力ある持続可能な経済社会となるための先行投資という発想がほとんどないし、歳出のムダを削減するという努力もなかった。

 社会保障と言うと、黄門さまの印籠みたいになっているが、医療にしても介護にしても、もっと節減できる部分がある。それには口をつぐんで、国の負担を増やせば万事うまくゆくというような主張が目立つ。また、それがまかり通る。各論でムダを排除する必要がある。ムダについて個人的な体験をあげれば、医薬分業で、薬局で支払う調剤技術料だとか薬学管理料とかが高いのに驚く。同じ薬を継続して使うときも、薬剤料以外のそうした費用を同じように払わねばならないようになっている。

 国民生活の安心を確保するには、年金、医療、介護、生活保護や雇用などのセーフティネットをきちんとしなければならない。しかし、社会全体としては、自助、共助、公助の三位一体で取り組むのが望ましい。何でも政府におんぶする、要求するというのは社会の公正さ、活力維持などに反するし、大きな政府、高い税負担につながる。財政健全化を図るうえで考えるべき問題点である。 

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2008年12月20日 (土)

子どもの貧困と税額控除

 『子どもの貧困―日本の不公平を考える』(阿部彩著)を読んだ。日本の政治が無視してきた子どもの貧困について、貧困の定義、その数値的把握の仕方、どうやって貧困をなくすべきか、などを詳しく述べたものである。

 先進国における貧困を「相対的貧困」という概念(手取りの世帯所得の1人あたりを並べ、その中央値の50%=貧困線=以下を貧困と定義する)でとらえ、子どものいる世帯の貧困率を把握する。また基本的な衣食住、就労などのニーズや、交友、娯楽などといった「社会的に合意された必需品」が与えられていない「相対的剥奪」の状態を示す剥奪指標をもとに、子どもに保障すべき最低の生活を見出す。本書は主にその2つをもとに、日本の子どもの貧困が深刻な状況にあることを浮き彫りにしている。

 そして、「日本版子どもの貧困ゼロ社会へのステップ」(11ステップ)を提案している。その中で「現役世代の中でも、子どもを育てていたり、貧困線を下回る生活をしている世帯に対しては、せめて、負担が給付を上回ることがないように、税制、公的年金、公的医療保険、介護保険、生活保護を含めたすべての社会保障制度で考慮すべきである」としている。

 子どもの貧困に対する具体的な処方箋として、「子どもの貧困削減を目的とした所得保障の制度を考えるとき、給付つき税額控除は有力な候補である」と述べている。所得控除が金持ちほど減税額が大きくなるのと違って、税額控除にすることは平等であり、かつ控除しきれない分は、マイナス納税ということで現金給付するので、低所得者には救いとなるわけだ。

 ところで、この給付つき税額控除は、イギリスなどで実施されており、日本では、民主党が低所得者対策の目玉として税制抜本改革アクションプログラムに盛り込んでいる。この制度を導入するには、世帯単位の課税制度に改めることや、納税者番号が不可欠であるという。藤井民主党税制調査会長は「納税者番号制度は金持ち対策ではない。いまは社会保障からこぼれてしまう人がいる。それへの対策だ」と、18日に日本記者クラブで開催された津島自民党税制調査会長との討論会で述べている。納税者番号と社会保障番号とを共通にするということらしい。

 その討論会で、津島氏は、自民党も党内に納税者番号の早期導入を考えるプロジェクトチームを設けることを決めたと言い、「税額控除で引き足りないところは現金給付するということも民主党と同じ考え方だ」と語った。

 本書の結論は「すべての子どもが享受すべき最低限の生活と教育を社会が保障するべきである」というもの。給付つき児童税額控除はそのための有力な手段というから、政治がそれに一歩近づくような流れは歓迎してよかろう。 

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2008年12月17日 (水)

齊藤誠一橋大教授「首相はボーナスを返上すると言ったらよかった」

 金融・経済危機に日本(政治、企業など)はどう対応するのがいいのか。12月17日、言論NPOが開催した会議で、発言者3人のうちの1人、齊藤誠一橋大学教授の話を聞いて、なるほどと思うことが多かった。

 日銀短観を新聞などが大きく扱っていたが、齊藤教授は「従来の指標にあまり反応しないほうがいい。マクロでみると悲観論しか出てこない。しかし、一つひとつ丁寧に見ていく必要がある。円高で購買力は高まっているなど、ポジティブな面も見ていくべき」と語る。そして「この時点で消費税引き上げを言うのはセンスがない。一方で減税などをやっているのだから。納税者番号の導入など公平な徴税の制度基盤があれば、マイナス納税もある。そうした公平性、公正性のあるプランを提示するほうが、個別利害の対立が避けられる」と指摘した。

 今日の非正規雇用をめぐる問題については、「非正規雇用を認めたのは(雇用形態の)多様化の1つだった。しかし、それと合わせて正規雇用の解雇法制に手をつけるべきなのに、それをしなかった。同じ待遇にしないままだったから、調整時にはまずいことが起こる」と問題点を挙げた。

 現在の危機にどう対応するか。「前例のない事態に直面したとき、本当のプロではない学者や前例踏襲の役人などを(審議会などに)集めても意味がない」とし、NPOなどで本当のプロが関わっていくようなことをしないと課題の解決はできないと述べた。

 米国では、議会が金融危機対策に関して、関係者の責任を厳しく追及している。これに対し、齊藤教授は「日本は一方的な被害者だという受け止めで、関係者の責任を棚上げしてしまっている」と指摘。「(金融バブルの発生には)日本のゼロ金利や量的緩和など金融政策の不節制にも責任がある。天から降ってきた災害というのではなく、原因と結果などをきちんと追究し、責任を追及すべきだ。政策を総動員するというのなら、議会は責任ある立場にいた人を呼び出してそうするのが当然だ」という趣旨の発言をした。

 これからの日本経済について、同教授は「今後、しんどいだろう。経営者は給与を返上し、陣頭に立たねばならない」と述べた。そして「失業者がこれだけ出てきているとき、国民が痛みを受け入れるように、政治も、行政も、労組幹部も、経営者も頑張っている姿を見せなければならない。ところが、頑張っている姿がみられない。麻生さんはボーナスを返上すると言ったらよかった。でも彼はそうしなかった。」と指摘した。

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2008年12月15日 (月)

法人企業統計が示す日本企業の財務体質改善

 世界的な金融・経済危機に遭遇したとはいえ、日本企業は過去数年の好況などで財務体質が向上してきているので、全般的には、そう簡単にはへばらないのではないか。法人企業統計調査の平成19年度調査の結果をみると、そう思う。

 19年度の経常利益総額は53兆4893億円、前年度比1.6%減と減少に転じ、平成14年度以降の景気上昇に区切りをつけた。製造業が0.4%増だったが、非製造業が3.2%減だった。一方、売上高総額はかろうじて0.9%増だった。製造業は4.7%増だったが、非製造業が0.7%減となった。また、当期純利益総額は25兆3728億円で18年度に比べ2兆7922億円減った。

 しかし、自己資本比率をみると、平成15年度に28.3%だったのが、毎年、上昇し、19年度には33.5%に達した。製造業だけだと19年度43.8%(15年度40.7%)、非製造業は28.5%(同22.5%)である。

 また、資金需給は、調達をみると、過去数年、減価償却などによる内部調達が100%を超えている。つまり、外部から資金を調達する必要がないどころか、借入金など外部資金を減らしたということである。自己資本比率の上昇はその表れでもある。

 興味深いのは、付加価値に占める人件費の比率だ。平成19年度は69.4%で、18年度より0.1%ポイント上がったが、平成14年度の73.7%、15年度の71.6%に比べ下がっている。支払利息の比率も平成14年度に4.2%だったのが18、19年度には3.3%に下がってきている。それとは逆に、営業純益の占める比率は一貫して上昇。14年度8.2%だったのが19年度は14.0%にまで拡大した。

 また、純利益を配当金と内部留保にどう配分するかの比率については、平成19年度は配当金に55.3%、内部留保に44.7%、配分した。18年度は配当金に57.6%、内部留保に42.4%の割合だった。

 景気の下降局面に入り、しかも世界同時不況に突入したため、企業の収益状況は激変した。だが、日本の企業の基礎体力は以上のように強化されているので、まともに資金繰りがつけば、そうそう簡単にアウトにはなるまい。もちろん、以上の話は総論であり、各論では、もともと弱い企業は早々に淘汰される公算が大だと思う。 

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2008年12月14日 (日)

自民党税制改正大綱のいい加減さ

 自由民主党が12月12日に発表した平成21年度税制改正大綱を読んでいたら、「第 二  税制抜本改革の全体像」の中で、「われわれは経済活性化と財政健全化の両立を図っていくべき責任を有する与党の矜持として、来るべき税制抜本改革の具体的な道筋を以下のとおり示す。」というくだりにぶつかった。

 そして「税制抜本改革の道筋」として8つのポイントを挙げている。①高所得者の税負担引き上げや低所得者世帯の税負担軽減、金融所得課税の一体化、②法人所得の課税ベース拡大と実効税率引き下げの検討、③社会保障に消費税全額を充てることを明確にし、消費税率引き上げを検討する、④自動車関係諸税の総合的見直し、負担軽減、⑤相続税の課税ベースや税率構造の見直し、⑥納税者番号制度の導入、⑦税源の偏在性が小さく、税収が安定的な地方税体系の構築、⑧税制全体のグリーン化。

 この「第二 税制抜本改革の全体像」は、通読すると、消費税を持続可能で堅固な社会保障制度の主要な財源とみなし、「制度的準備を整えた上で、経済状況の好転後、速やかに税制抜本改革を実施する必要がある。」という点を最も強調していることが明らかである。

 一方、「第一 平成21年度改正の基本的考え方」のほうは、国民生活を守り、今年度からの3年間のうちに景気回復を最優先で実現するという決意のもと、「大胆かつ柔軟な減税措置を講じる」という。そして住宅取得減税、エコカーの減免税、海外子会社からの利益還流への益金不算入、中小企業の法人税率引き下げなどを実施すべきだとしている。

 ところで、平成20年度の補正予算や21年度の予算で、政府は大規模な景気対策を実行しようとしている。他方で、税収は見込みを大幅に下回る結果になりそうなため、国債発行残高は20年度以降、猛烈な勢いで増えそうだ。財政再建路線は棚上げされたも同然で、金融市場において国債価格が暴落し、金利が急騰するといった危機的な状況が起こるという不安もないではない。

 それだけに、プライマリーバランスの黒字化という目標を常に意識し、それへの実現ステップを国民や市場に明示することが求められる。つまり、増税策等(社会保険料引き上げを含む)の具体的な中身や実施時期を国民に示すことだ。しかし、自民党の税制改正大綱は、どういう経済状況になったときに、消費税を何%にするかなど具体的な数字については全く触れていない。ましてや、財政健全化の第一歩にすぎないプライマリーバランスの黒字化や、GDP比の国債残高の比率の引き下げ目標などにも言及していない。100年に一度の危機とはいえ、将来の日本の経済社会のあるべき姿を想定もせずに、ただカネを使えばいいというものではない。

 大綱が、今後の税収を見積もることもなく、また、ムダな歳出を抑えるよう求めもせずに、お気楽に「大胆かつ柔軟な減税措置」なるものを並べ立てている点にもいい加減さを感じる。選挙での劣勢が色濃くなればなるほど刹那的になり、バラマキに走るということだろう。責任政党なんて言えた義理かと思う。

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「居眠り磐音」の著者の思い

 友人、知人に小説「居眠り磐音」の熱心な読者がいる。佐伯泰英の書き下ろし長編時代小説『居眠り磐音 江戸双紙』のシリーズで、すでに27冊の単行本(文庫版)が出ている。何でそんなにおもしろいのかと思い、一冊目を読み出したら、止まらなくなった。もともと子供の頃、時代小説をよく読んでいたせいもあるだろう。

 剣の達人ながら、人間としての優しさにあふれた磐音(いわね)が苦難を重ね、大きく成長していく。武士・町人、金持ち・貧しい人々、彼が関わるさまざまな人々との善意あふれる交流と、彼を殺害しようとして次々に現れる武術者との緊迫した戦闘とがないまぜになって読者を引き込む。ときには退屈することもあるが、ちょっとひまになったときとか、疲れたなと思ったときに読むとリラックスする。

 その人気作家、佐伯氏がシリーズ第23巻の『万両の雪』に「あとがき」を書いている。そこに、時代小説に転じたときの気持ちをこう書いている。「絵空事、嘘とすぐに分かる物語でもいい、浮世の憂さを晴らす読み物を書こうと思った。 父が倅を、娘が母を、女が男を、人が人を信じられる世間を描写しようと思った。 読後に一時の爽快感を得られるような物語を書こうと思った。」

 その部分の少し前のところでは、「陰湿きわまりない閉塞感に満ちた日本社会は過酷にも希望なく一筋の光明すら望めない。」と書いている。そんな社会のリアリティを映すような作品は、それが「人間の魂に触れ、肺腑を抉るものであったとしても」、彼にとっては書く価値がないと言っている。

 いま、この時期、この作家の作品が多くの人々に読まれる理由がわかったような気がする。

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2008年12月13日 (土)

盛況だったエコプロダクツ展

 ことしもエコプロダクツ展(会場は東京ビッグサイト)を見てきた。例年と違って土曜日(13日)に行ったので、家族連れが多かった。

 エコプロ展は毎年行くたびに変化している。今回は、展示会場が昨年よりも広くなり、東展示場の6つのブースを全部使った。出展者の数もかなり増えた。NPO・NGO/大学教育機関だけで出展者数はゆうに100を超えていた。そのほか、「食から始まるエコライフ」のコーナー、リサイクル関係の業界団体ばかりを集めたコーナー、三井住友銀行の取引先を集めたコーナーなど、ユニークなコーナーがあった。また、シンポジウム等の催事が盛りだくさん用意された。環境が名実ともに国民に根付いた表れだろう。

 意表をついた展示は王子製紙グループ。古紙といっても、いろいろありますよと、種類ごとに大きく束ねてドーンと四方に置いた。古紙含有率を偽っていた事件を反省し、古紙がどんなものかを知ってもらおうというものだ。段ボールのレンゴーも段ボール古紙を併せて展示していた。

 原料が古紙100%の紙製パネルでつくったお棺が展示されていた。これはすばらしいアイデア商品。表面は白木でつくったようにしている。バージン木材を使わない、省資源につながるリサイクル商品のすぐれものだ。

 全体についていえば、リサイクル、リユースなどの循環型経済に該当する展示、水の浄化、省エネ、バイオなどの展示に加え、温室効果ガス削減などに関係する製品や技術などの展示もあり、バラエティに富んでいた。

 ただ、展示の中身をみると、パネルによる説明が多くなり、あっさりした展示が大半という印象を抱く。新技術による装置などをいくつも並べて目を引き付けるというのは至って少なかった。どうやら出展企業はどこも予算を抑えられているらしい。

 近年、大企業などの展示ブースでは、クイズに答えてもらうと、景品をプレゼントするというところが増え、ことしはそれが軒並みだった。簡単な質問への答えを展示から見つけるため、大人も子供もそれだけを探してパネルを見て回っている。そして、説明員がどこそこに答えが書いてあると教えたりしている。

 しかし、そんなことで環境についての適切な知識を得ることにつながるだろうか、考えてしまう。おおぜいの一般市民がエコプロ展にやってくることはすばらしいことだ。せっかく来てくれた人たちが環境問題について適切な知識を得て帰ったかを何らかの方法で検証して、次回に生かすということを主催者は考えてほしい。

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2008年12月12日 (金)

働く者同士の共感もなくなっている

 雇用調整が広がりをみせている。自動車、電機などの業界が目立っているが、製造業にとどまらず、第三次産業にも波及しそうな気配だ。

 いまのところ、雇用調整は主に非正規雇用の労働者が対象だが、希望退職募集の形で正社員においても一部始まった。今回の景気後退の特徴は、国内の民間消費も民間設備投資も軒並み縮小し、明るい産業分野が見当たらないこと、それに加えて、世界同時不況のため輸出も減っていること。したがって、企業の努力だけでは当分の間、経済全体の好転は望みにくい。

 それだけに雇用調整ではじき出された人たちが再就職するのはとても難しい。「板子一枚下は地獄」という言葉はまさしく現代日本の実態である。雇用調整は企業が生き延びるために必要だとしても、企業のトップは、いまの時期にやめざるをえない人たちもまた生きていかねばならないことにどれだけ思いを致しているのだろうか。

 メディアは「‥‥○○○人を削減する」などと伝える。だが、人員削減という言葉は「削る」などと、およそ血の通った人間にはふさわしくない表現のように思えて仕方がない。切り捨てられる労働者に対する思いやりがほしい。

 大企業には労働組合がある。多くの労組は正社員のみから成る。彼ら、社員で労働組合員である労働者は、同じ職場で働いている非正規雇用の人たちを同じく労働者の仲間と思わないのだろうか。企業内組合ゆえに、会社第一で、いまこそ、会社を守るために、非正規雇用の人たちを切り捨てるのはやむをえないと割り切っているのだろうか。

 夢みたいなことを書く。非正規雇用を減らす企業の社員労組は、派遣であれ、期間工であれ、会社の都合でやめざるをえない人たちが寮を出る期限を延ばすように会社に交渉するとか、転職の支援をするとか、働いた仲間のために何かやってほしい。連合のようなナショナルセンターは、そうした連帯意識を持つよう個々の単組および組合員に働きかけるぐらいはして当然だ。

 中央政府、地方公共団体で働く人たちは民間と違って失業の心配がない。給与水準も概して高い。だから、政府は公務員の給与を不況の間、1割ないし2割カットして、その分で失業者を雇ったらどうか。森林の下枝伐採などの人手がなくて環境保全上、困っているし、農業は人手不足で廃業する農家が相次いでいる。そうした人手が足りない分野に、応援に行ってもらうのがいいと思う。

 日本国民は長い間の習性で、政府を批判し、政府にやってもらうことばかりを要求してきた。だが、財政悪化で、政府に頼ることは最小限にとどめざるをえない。上記のように、助け合うことが欠かせない。企業で働く者も政府で働く者も、あるいは失業者も、同じ労働者という連帯感でつながることで、社会が安定し、安心した暮らしができるのではないか。

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2008年12月10日 (水)

斉藤東証グループ社長の話から

 サブプライムローンから始まった世界の金融・経済危機について、斉藤惇東京証券取引所グループ社長が10日の会見で語った中から、興味深く思った部分を抜き出してみる。

・金融工学によって、最も効率性の高い市場をつくることができる。そのときには、利益はゼロになるはず。ところが、それで一番もうけていた。透明性が全くなかった。我々はディスクロージャーを徹底していく。それに関連して言えば、第三者割り当て増資はおかしい。いま当局と話し合っている。

・エンロン事件などで米国はSOx法(企業改革法。厳しい内部統制などを求めた)を制定した。しかし、ディスクロージャーがなっていなかった。子会社をつくって不良債権を移していた。米国はまずそこを正すべきだ。

・レバレッジを30倍も効かした経済を急に冷やすと大恐慌になるおそれがある。米国政府はそのことをよくわかっている。それで財政資金を大量に投入している。

・この金融危機は住宅ローン債権の相対取引から発生した。透明性がないという異質性が問題を引き起こした。だから、今回、東証はクリアリング(決済)機構をつくりたいと手をあげた。

・相対取引をやったことがこれほど大きなコストを払うことにつながった。市場集中が必要である。それで誰か監視している者がいなくてはいけない。東証は透明性と流動性を確保する。透明性によって情報の非対照性をなくす。

・米国は銀行が企業の株式を持つことを禁止している。日本はそれが許されているが、日本も禁止すべきだ。銀行・証券が投信子会社を持つのもおかしい。投信はさわかみファンドみたいなものが正しい。

・保護主義の傾向がはっきりしてくるだろう。日本は政府系金融機関を民営化など再編したが、むしろ国際協力銀行のような半官半民の金融機関を生かしていく必要がある。今後、世界中に、国際協力銀行みたいなものができるのではないか。

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2008年12月 7日 (日)

世界経済危機と地球温暖化問題とを考える

 12月1日からポーランドのポズナンで、気候変動枠組み条約の第14回締約国会議(COP14)および京都議定書の第4回締約国会議(MOP4)が開かれている。ポスト2012の温室効果ガス削減の枠組みを2009年末までに設定するための具体的な枠組みづくりが目的である。しかし、世界金融危機が世界同時不況を引き起こしつつあり、それが地球温暖化対策にも複雑な影響を与えている。

 単純に考えれば、世界経済が不況になることは温室効果ガスの排出量の増加テンポを緩和するか、減少をもたらす。地球温暖化を懸念する立場からすれば、歓迎すべき現象である。いまでも、人口数や各種資源の消費量が多過ぎることが温暖化の原因なのだから、ここで経済発展を一休みし、温室効果ガスの排出量を減らす方向へと転換する、神から授けられたチャンスと受け止めてもよさそうなところだ。

 しかし、おそらく、世界の多数はそうした見解に与しないだろう。収入減とか失業の増大のほうが人々の関心事であり、政治もそちらを重視するからである。EUは環境対策で世界をリードしてきたが、EU域内のイタリアは今回の世界経済危機に直面してEUが掲げる温室効果ガス削減目標に否定的な態度を示している。EUに加盟しているポーランドなどの東欧諸国も、排出量取引の導入などによる負担の大きさなどを考えて、やはり否定的であるという。

 COP14/MOP4があまり進展がないのは、このように当面の経済危機のほうが大きな政治的、社会的な問題になっているからだろう。しかし、経済か環境かのどちらをとるかの問題ではなく、経済も環境もと二兎を追うことが人類の将来にとって必要である。

 これまで、再生可能エネルギーの積極的な導入や、住宅、自動車、電機製品などの省エネ化などを進めれば、経済が発展しながら温室効果ガスの排出を大幅に減らすことができるといわれてきた。日本は環境と経済の両立を図る環境立国たるべしともいわれる。しかし、西洋文明の基本的な枠組みを維持したまま新エネ、省エネなどの環境対策とGDPの増加を図るという前提では、2050年までに温室効果ガスの年間排出量(絶対量)をいまの5分の1にまで減らすのは至難の技である。

 そこで思い出すのは、人口や経済ストックが増えも減りもしない定常状態のままで、環境負荷も小さいという、ハーマン・デイリーが提起した「steady-state  economy」という考え方である。彼の著書を読んでいないので、それがどの程度実現可能かわからないが、富の拡大を限りなく追求する現在の市場経済をどういう形にか修正していくということが環境問題の制約から必要だという気がする。

 現在の世界経済危機は、いままでの市場経済の仕組みを多少なりとも変えるきっかけになるだろう。できうれば、その改変に地球温暖化対策を組み込めれば最高である。オバマ大統領の米国が打ち出す新しい政策が、世界を巻き込んだ市場経済改革と地球温暖化対策とをリンクしたものならば、新年は希望に満ちたものになるが、それは初夢だろう。それはそうだとしても、いまの市場経済システム自体が絶対的な真理でもなんでもなく、もっとすぐれたシステムがありうる。それを模索し始めるときではないか。

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2008年12月 5日 (金)

派遣労働者たちの苦悩が読み取れる調査結果

 国内の自動車メーカーなどが非正規雇用の労働者を切り始めた。世界同時不況なので、雇用を打ち切られた人たちの転職は困難であり、政府、企業、労働組合などとしても、放置しておけない緊急の課題と受け止める必要がある。ワーキングプア問題は新たな段階に入ったと思われる。それを考えるうえで参考になるのではないかと思うのが、1ヵ月前に厚生労働省が発表した「平成19年就業形態の多様化に関する総合実態調査結果の概況」である。

 同調査は正社員か非正社員か、さらに非正社員をパートタイム労働者、契約社員、嘱託社員、派遣労働者(登録型、常用登録型)、臨時的雇用者、出向社員、その他に分けて昨年10月1日現在の就業形態を調べたもの。それによると、正社員以外の労働者の割合は37.8%。前回調査(平成15年)に比べ3.2ポイントも増えた。パートタイム労働者は非正社員の半分以上の22.5%(前回23.0%)を占め、派遣労働者が4.7%と4年前より2.7ポイントも上昇した。

 正社員・出向社員以外の労働者に現在の就業形態を選んだ理由(回答は3つまで)をたずねると、「自分の都合のよい時間に働けるから」43.0%、「家計の補助、学費等を得たいから」34.8%、「家庭の事情や他の活動と両立しやすいから」25.3%、などの回答とともに、「正社員として働ける会社がなかったから」との回答が18.9%あった。男性に限ると、23.9%と多い。さらに派遣労働者だけでは37.3%の人が「正社員として働ける会社がなかったから」を挙げている。契約社員も31.5%が同じ理由を挙げた。おもしろいのは、「組織に縛られたくなかったから」という理由を12.3%もの派遣労働者が挙げていたことである。

 正社員以外の労働者に対し、希望する働き方をたずねたら、「現在の就業形態を続けたい」人が68.8%、「他の就業形態に変わりたい」人が30.6%だった。ちなみに、派遣労働者は「変わりたい」が51.6%、契約社員も50.2%と高い。

 正社員以外の労働者で、「変わりたい」と答えた人たちの90.9%が「正社員」を希望した。なぜ正社員になりたいのか。その理由をたずねたら(3つまで回答)、「正社員のほうが雇用が安定しているから」80.3%、「より多くの収入を得たいから」74.1%の2つが圧倒的に多かった。

 「他の就業形態に変わりたい」と回答した人の割合を年齢階層別にみると、20~24歳が65.9%、25~29歳が57.9%と半分をかなり超えた。30~34歳では48.6%、35~39歳50.1%となっている。30歳代では「現在の就業形態を続けたい」人と「変わりたい」人とが拮抗している。40歳代となると、「現在の就業形態を続けたい」人の割合が一挙に上がり、40~44歳では72.9%に達する。

 一方、事業所調査の結果をみると、正社員以外の労働者を活用する理由(3つまで回答)として、「賃金節約のため」40.8%、「仕事の繁閑に対応するため」31.8%、「即戦力・能力のある人材を確保するため」25.9%が挙げられている。そして、正社員以外の労働者を活用するうえでの問題点(複数回答)として「良質な人材の確保」51.4%、「仕事に対する責任感」48.3%、「仕事に対する向上意欲」37.5%が挙げられている。

 平成19年9月の税込み賃金総額が派遣労働者の場合、10万円未満の人の割合が8.8%、10万円~20万円未満の人が42.2%、20万円~30万円未満の人は36.8%である。ほかの非正規雇用も同様に賃金水準は低い。安く便利に使いたいという事業所側の希望と、仕事熱心で良質な人材の確保というのはおよそ矛盾しているのではないか。バブル崩壊後の長期低迷による“就職氷河期”に社会に出た世代の苦悩や悲鳴がこの調査結果から聞こえてくるような気さえする。現在は、この調査のときより、事態は深刻である。彼らに速やかに何らかの救いの手を差しのべるのは、主として政府の責務であり、償いでもあると思う。

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2008年12月 4日 (木)

沈みゆく船のあがき?

 ここ数日間の新聞報道を読むと、財政のバラマキで選挙民のご機嫌をとろうとする与党・自民党の動きに歯止めがなくなったように思う。自民党政権の沈没が近いことを感じる。麻生太郎首相に代わって自民党を再建しようという志士はいない。いまの自民党を憂慮する有力議員の中には、民主党などの野党議員との連携をひそかに模索している人もいるらしい。無所属の平沼赳夫議員のもとに馳せ参ずる自民党議員も少なくないという噂を聞く。そうしたさまざまな動きのもとは、次期総選挙で落選したくないという思惑である。

 目下の与党の関心事は景気対策、それも財政出動である。並みの不況では終わらない経済の落ち込みに対しては、米欧と同じく、財政面からの景気刺激は必要だろう。しかし、巨額の財政赤字を抱える日本政府としては、将来の財政破綻を避けるための歯止めをいまからかけておく必要がある。

 第一に、財政による景気刺激策は将来の望ましい国家ビジョン(環境、エネルギー対策の強化、先端・基礎技術の開発、若者の職業能力の向上、食料の自給率向上など)に基づいたものに限る。第二に、いまだに中央・地方政府のムダが多いので、行財政改革を強力に推進すること。第三に、経済成長率や物価上昇率がいくらになったら財政刺激策をやめるか、予め設定しておくこと。第四に、同じく、経済成長率や物価上昇率がいくらになったら、消費税率をどれだけ上げるかの税制改正スケジュールを組み込むこと。

 原則もルールもなく財政支出を増やすというのは、確実に国を亡ぼす。国・地方政府は打ち出の小槌ではない。負担なくして受益なしという財政の基本を国民各位に理解してもらうことがいままさに重要である。

 小泉改革で国民の信任を得た与党・自民党が改革志向を失ったら、解散し総選挙を行なう義務がある。だが、どうも自民党は麻生総裁から平議員まで、改革にはソッポを向いている。その結果、霞が関の官僚たちの既得権益を存続させることにもつながっている。

 12月1日に政府の行政支出総点検会議が行政経費のムダをゼロにするための報告書を麻生首相に提出した。しかし、成果は会議の名称とは全く異なり、政府の公益法人向け支出が3500億円削減可能だという竜頭蛇尾のお粗末さ。政府の人員や予算のムダを洗い出すことがほとんどなかった。

 また、地方分権改革推進委員会は近く、国の出先機関の改革や国の地方に対する規制の見直しを求める勧告を行なうというが、各省庁は、地方公共団体に委ねるべき権限や予算をできる限り手放さないように頑張っている。これも大山鳴動ねずみ一匹のたぐいになりそう。

 政治が迷走すればするほど、官僚は自らの権益を守ろうとする。結果として、官僚支配の政治が続く。その意味でも、政治が国民の信頼を得られるようになることが望ましい。 

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2008年12月 2日 (火)

「蘇る玉虫厨子」

 法隆寺の国宝、玉虫厨子は飛鳥時代につくられた仏教芸術の最高傑作とされる。しかし、造られてから千年を超える長い歳月が経っているだけに、色や図柄は薄れ、玉虫の翅もほとんど失われている。

 これを復元しようと思い立ったのが中田金太という実業家。私財を投じて全国のすぐれた職人を集めて、数年かけて復元に成功した。映画「蘇る玉虫厨子」は、蒔絵師、彫師、塗師、宮大工、それにかざり金具師、それらの匠が自らの技術をかけて取り組んだ過程を記録したもの。日本の職人たちの仕事への情熱とハイレベルの技術とを画面で堪能した。

 国宝の復元とはいえ、本物に触れることは許されないので、蒔絵師たちは国宝の公開の際に丹念に見たり、写真や文献などをもとに、判読しがたい絵柄などを解読ないし、想像したりする大変な苦労を重ねた。図柄では、見えないものが見えてくるまでじっくりと写真などを見つめたりしたという。

 玉虫の翅は日本では一部しか調達できず、海外から大量に輸入したという。産地で翅の色が違うので、それを生かす工夫も必要だった。翅を細かく切り、1枚1枚貼り付けるなどの作業は気の遠くなるような細かい手仕事である。

 屋根は一枚の板から屋根瓦の形などを削り出すなど神経を集中する作業ばかり。漆塗りの漆そのものの作り方、塗り方なども、そこまでやるのかということばかりだ。

 復元された玉虫厨子は画面で見る限り、すばらしい出来栄えである。12月13日~21日、東京・上野の国立科学博物館で特別に展示されるそうだから、見てみたい。

 実は、復元された玉虫厨子は二基ある。一基は法隆寺に置かれる。もう一基は飛騨高山に収蔵されている。違いは、絵柄を玉虫の翅で描いたものが飛騨高山のもの、絵柄が漆塗りのものが復元した法隆寺のものである。

 法隆寺では、国宝、玉虫厨子が飛鳥時代につくられたとき、いかに華麗であり、また釈迦の教えを描いた荘厳なものであったかが参拝者にわかりやすくなる。国立科学博物館の展示は飛騨高山から持ってくるという。

 中田氏は完成前に亡くなったが、彼の貢献は非常に大きい。日本の職人の技術がすぐれていても、それを発揮し、次世代に伝承していくには、こうした高度の技術を要する作品をつくってくれという注文がないといけない。職人の1人は、こうした難しい注文を受けることで新しい技術を生み出すことができたと言っている。

 その意味で、中田氏のように文化を支えるお金持ちがもっと出てこないといけない。彼は飛騨高山の祭に使われる舞台を8基つくって寄付したり、私財を伝統文化の保存・振興に次々投じたという。国も、国宝をただ保護、保存するだけではなく、それらを生み出してきた技術および職人を育て、技術を伝承することが可能な仕掛けを工夫すべきだろう。 

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