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2009年2月26日 (木)

「年越し派遣村」をつくった全国ユニオンの鴨会長

 派遣切りなどで仕事も住むところもなくなった人たちの駆け込み寺となった「年越し派遣村」。それを企画し、NPOなど多くの協力者と一緒に運営したのが全国コミュニティ・ユニオン連合会(略称、全国ユニオン)である。加入者は3300人程度にすぎないが、その知名度や社会への影響力は無視できないものがある。最近、会長の鴨桃代さんが語った中から、一部を紹介する。

1. 全国ユニオンの春闘は「ともに生き、働く09春闘」である。賃上げ原資3%相当額を確保し、非正規労働者の雇用確保と正規労働者との格差是正に充てる。また、緊急ワークシェアリングとして、かつ長時間労働をしている正規労働者のワークライフバランスを確保するため、仕事の減少に対しては、正規労働者を雇用調整助成金を使って一時帰休させ、その穴埋めとして非正規労働者が働く。そうしたやりかたで正規、非正規が共生することを目指す。この方針には組織内部にも異論があった。しかし、例え、賃上げがとれなかったとしても、正規と非正規がともに闘えたという連帯を成果として残せないか、それが次の闘いの力になると考えた。

2. オランダ国営放送から24日にインタビューを受けた。その際、派遣切りなどに対して「なぜ日本の国民はゼネストを起こさないのか」とたずねられた。私は日本の労働者はダメだとあきらめきってはいない。命をつなぐ年越し派遣村には1700人のボランティアが集まったし、カンパも5千万円を超えた。カンパの物資は使い切れないほどだった。この問題が働く人、生活する人に目に見える形で伝わったのだと思う。京品ホテルの闘争では、5万人を超える署名があり、たくさんカンパがあった。ホテル前では通りがかりの人から「頑張ってください」とか、「あなたたちの闘いには夢があります」という声があった。理不尽なことは許さないという闘いに共感が高まっている。

3. 「年越し派遣村」には総合相談窓口をつくった。「村民」は仕事、住まい、健康、多重債務など、さまざまな問題を抱えているからで、労組だけでは受けられない。労組も縦割りだったのかなと反省した。彼らが次の仕事を見つけるまでにはカネと時間と住まいが必要だ。それが整っていないと、「自立して仕事をしたいけれど、それができない」と彼らは訴えていた。私もそこまでわかっていなかった。残ったカンパを彼らの生活保護と就労支援のための基金に充てたい、それには国も企業も出してほしい。それでいろいろな方面に設立を働きかけている。

4. その後も「派遣村」に行きたいという声は止まらない。福岡県や愛知県にないのかという地方からの声がある。地方でもやれるというところではやっている。それに、シェルターが足りないから、役所につくってくれなどとお願いしている。

5. 「派遣村」ではホームレスの人は私たちを試してきたという気がした。善いひとぶってつくったのではないかと。「偽善の村」だと大きな声で走り回った人がいた。ホームレスの人たちは自分なりの生活をつくっていて、何が何でも仕事をしたいとは思っていない。「あんなに上司から命令されて働きたくはない」と言う人もいた。でも、ホームレスの村民が生活保護を受け、住居を確保したのは、彼らにとっては、そこからの新たな踏み出しになったのではないかなと思う。

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明るい経済ニュースが読みたい

 1月の貿易収支の赤字が過去最大で、赤字は4カ月も続いている。輸出の猛烈な落ち込みのせいだ。株価もバブル崩壊後、ほぼ最低の水準にある。‥‥エトセテラ、エトセテラ。連日、日本経済をめぐる暗い話ばかりで、いささか気が滅入る。少し明るい材料はありませんかね。

 ハイ、無理に探せば、ありますよ。まず、いくらか円安になってきました。輸出産業にとっては愁眉を開くことになります。もっとも、相手国市場の需要が減ったままでは、輸出の数量は出ませんが。

 原油、石炭、鉄鉱石、小麦等々、輸入原材料もひところの高値が嘘だったように下がっています。政府の小麦売り渡し価格が4月から下がると、パンが下がりそうです。小麦を使った他の食品も値下がりするかもしれません。

 銅地金、すず地金の市況は若干、反転してきましたし、大型液晶パネルの値下がりがとまったといいます。いずれも一時的かもしれませんが。また、海運市況は一部で持ち直しています。中国の鉄鋼生産の回復によるようです。

 日本経済新聞の23日付け朝刊の1面アタマで、「金属や化学 減産幅縮小」と報じていました。対中輸出の回復で、ポリエステル原料、アルミ電極箔、自動車エンジン向け特殊鋼鋼材などの生産稼働率を上げたか、これから上げるという話です。

 そう言えば、民主党が09年度政府予算を今年度内に成立させることにしましたね。ほかの野党は審議不十分と反対しているとのことですが、民主党としては、予算を通せば、麻生政権も解散するしかないと読んでのことでしょう。とりあえずの国内景気対策がこれでやっと前進です。

 公的資金で株式相場を支えようという話もあります。銀行が保有する事業会社の株式が値下がりすると、含み損が発生して自己資本に食い込むから、自己資本規制を守るためには融資を減らさざるをえない。そこで、これ以上、株式相場が下がらないようにするためにも、銀行の保有する株式を買い上げようということらしいですが。

 銀行が事業会社の株式を持っていれば、すでに経験したように、不景気になると、株価下落→融資縮小ということになるのははっきりしているのですから、銀行による事業会社株式保有を禁止しておかなかった政府の大チョンボですよ。とにかく、株価がこれ以上下がるのを止めようということですね。

 海外の企業をこの際、買収しようという意欲的な日本企業もあります。電機業界では、日本の高技術を生かした製品を海外で売り出そうという動きも出ています。

 厳しい経済状況にあることは間違いないし、破綻する企業がこれからも相次ぐでしょう。けれど、意識的に明るい動きに注目し、報道してゆくことも景気をよくするために必要だと思いますね。

 ひとこと付け加えたいのですが、オバマさんは議会演説の中で任期中に財政赤字の削減を行なうと言いました。野放図な財政支出のツケは日本のほうがはるかに深刻ですから、日本でケインズ経済学の時代だなどと調子に乗って、無節操な歳出ふくらましをやるのは困りますよ。 

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2009年2月23日 (月)

春闘における労働運動指導者の悩み

 今年も春闘のシーズンに入った。経済の急激な落ち込みに直面して、賃上げか、雇用かの選択を迫られる個別労働組合も少なくない。このため、賃上げの旗を振る労働組合の指導者たちの悩みは深い。有力な産別組織であるゼンセンUI同盟のリーダーの話を聞いて、それがよくわかった。彼らの話を以下に。

 マクロ経済の面から考えると、外需依存でやってきた日本経済がこれ以上、内需を落としたら、景気はスパイラルに落ち込む。したがって、内需の落ち込みを止めるため、最低でもかなめの賃上げを実施しなければならない。他方、ミクロの面からは、働く者にとって、物価上昇に見合う賃上げ、即ち、物価上昇率プラスαが欲しい。

 しかし、多くの企業の経営が悪化したため、雇用か、賃金かの話が出てきた。さらにワークシェアリングの話も出てきている。報道では賃上げが悪いことのような記事ばかりだ。マクロ的には賃上げは必要だが、個々の労働組合が「我が社、我が労組は賃上げ要求を断念する」ということでは、日本経済はデフレスパイラルに陥る。合成の誤謬をおそれる。

 こういう時期になると、便乗型の企業が結構出てくる。経営がそれほど悪くもないのに、雇用は守るが、賃金カットをするというようなことをする。

 ゼンセンUI同盟傘下で、実際にストライキをうつ構えがあるのは少ない。いまの状況でストをうつのは会社の減産体制に協力するようなものでもある。

 労働時間短縮はまず年間2000時間をなくし、1800時間を達成することが我々の要求だ。サービス残業がなかなか直らない。そのためにも、総実働労働時間をこれ以上にしないという形で攻めないと進まない。

 これまで、労組は職場の問題点を突き詰めてこなかった。残業をゼロとして必要な適正要員を確保することはその1つだ。残業が雇用のバッファーだという考えはなくす必要がある。

 不況がくるたびに、企業別労働組合の弱さが出る。産業別労働組合組織も、単純に企業別労組を集めただけだし、そうした産別を集めたのが連合だから、それも弱さだ。これは大きな課題だ。  

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2009年2月22日 (日)

地球温暖化問題と原子力発電の役割

 1月に開催された日経環境シンポジウム(主催=日本経済新聞社、特別協力=経済産業省資源エネルギー庁)の基調講演および議論の要約を新聞紙上(2月22日付け日本経済新聞朝刊)で読んだ。「核燃料サイクルが切り開く未来~原子力発電の環境性と経済性を考える~」という題のシンポジウムで、もっぱら原発推進の話だが、茅陽一氏(地球環境産業技術研究機構副理事長兼研究所長)の基調講演の内容もそうだが、議論のほうもいささか偏っているのではないか。

 茅氏は、2050年には産業革命以前に比べて2℃以内の気温上昇にとどめるというEUの提案は不可能であると論証し、先進国が温室効果ガスの排出量をいまの半分に減らし、途上国は省エネに努めるぐらいの結果になりそうだと予想する。そして、CO2排出量が発電、鉄鋼、運輸、民生の4部門で8割近い先進国がCO2を削減するには、どの部門でも電気をどう作るかがカギになるという。いろいろな発電法があるが、基幹は原発だと述べ、日本における原発の老齢化、新設、稼働率や、核燃料サイクルの確立を課題として挙げている。

 地球温暖化対策として、一般に、省エネとともに、再生可能エネルギーへの転換が唱えられる。事実、太陽光、風力といった非化石燃料エネルギーへの投資が少しずつ増えてきている。しかし、増え続ける世界のエネルギー需要の太宗をまかなうのは依然、石油、石炭、天然ガスといった化石燃料である。そこで、世界的に、CO2を排出しない原子力発電を見直す動きが出てきた。西欧、北欧でも。ジェームズ・ラブロックが2006年に出版した『ガイアの復讐』で原子力発電を未来のエネルギー供給源だと述べたが、世界もその方向に一歩踏み出したのは間違いない。

 しかし、原発については、安全性が高いといっても、万一この狭い日本で大きな事故が起きたら、人が住めない地域が相当広いのではないかと懸念せざるをえない。地震多発国だけに、原発はもっとも日本に不向きではないかとも思う。いままで無事だったから、将来とも安心だとは言えない。手放しで原発礼賛するのはどうか。

 太陽光、風力には出力が変動するという難点があるので、調整用のバッテリーなどが必要だ。しかし、発電効率の向上、バッテリーの改善などで、再生可能エネルギーのコストが下がる可能性がある。再生可能エネルギーについて、現状の問題点ばかりあげつらうのは当を得ない。

 このシンポジウムでは、エネルギー需要の増大を当然視しているように思われるが、今後、大事なのは、いかに省エネ・省資源を徹底するかである。需要を減らすにはどうすればよいかを経済社会のテーマにしなければいけない。都市のありかた、住宅のありかた、交通システムのありかた等々、検討すべきことが多々ある。小宮山宏東大総長が自宅の省エネ実績を触れ回るように、既存技術を使うだけでもエネルギー需要はかなり減るし、温室効果ガスの大幅削減は可能である。それに技術開発を促すインセンティブが必要だ。

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凄い迫力、モサド前長官

 先週、イスラエルの特務機関、モサドの長官だったハラヴェイ(Efraim Halevy)氏の会見に出た。約40年間、モサドに身を置き、1998年から2002年まで長官だったという。その経歴から、どんな人物か見てみたいと思った。あとで、知ったことだが、佐藤優氏がインテリジェンスの基本哲学を教わった恩師だとか。

 第一印象は、鋭い目付きと冷酷な表情。もし、相対(あいたい)で会ったら、それだけでこちらがおどおどしてしまいそうな冷たい雰囲気だった。冷酷無比という言葉がぴったりかもしれない。1948年の建国以来、中東のアラブ世界の中で、孤立しながらも生き抜いてきたイスラエルの歴史、それを暗闇で支えてきたモサドの“親分”らしい人だった。彼の話を一部紹介すると――

 ①東西冷戦の始まった時期に誕生したイスラエルは、1951年に西側世界に立つと決定。中東戦争ではすべて勝利した。エジプト、シリアなどの敵対国はソ連や中国などから軍事援助を受けていたから、イスラエルはグローバルに情報収集のため活動しなければならなかった。また、イスラム系のテロは世界中に広がっているから、それに対してイスラエルの力をみせつけねばならない。

 建国当時、どこの国もイスラエルの生存権を認めてくれなかったから、イスラエルが生き残るために、国家予算の30~40%は軍事予算に充てられた。国民は普通の生活を享受し、同時に安心して暮らせる。これは建国以来の功績の一つである。

 ②アラブ諸国の団結は強固だった。我々はこの団結を壊し、イスラエルへの理解を得ようとしてきた。そこで1950年代に、アラブ諸国を飛び越えて、アフリカ諸国などと国交を持つようにした。モロッコとは1960年代に秘密に国交を持った。1977年にエジプトがそれまでの路線を転換し、一枚岩のアラブ圏を壊すことができた。これが大きな突破口になった。我々は建国時に、一枚岩を壊したいと思った、それが実現した。それで潮目が変わり、アラブの個別の国と交渉し、共通する利害で結び付くことができるようになった。

 ③パレスチナが国家としてやっていけるかは彼らにかかっている。パレスチナ運動ほど外国の援助を受けているところはない。ハマスは22年前にアラファトの腐敗に対抗して生まれた。そもそもは社会的観点からハマスはできた。パレスチナはいま2つに分断されているが、一体化して国家的なentity(実体)ができるなら、初めてイスラエルとの間で和解のプロセスが始まる。パレスチナの内からのそうした情熱がない限り、それは無理だ。

 ④(オバマ大統領は米国がアフガニスタンに1万7千人増派するが、それは成功すると思うか、の質問に対し)アフガニスタンは、パキスタン北西部にもあてはまるのだが、主権不在である。英国の委任統治領だったときもそうだった。ロシアがいたときも、いる前も同じ。いま、ソマリアの一部なども主権不在だ。イスラエルとパレスチナの間でも、主権不在のところはある。そうした主権不在のままを受け入れること、そこから未来のカギが生まれてくる。

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2009年2月18日 (水)

大阪府の09年度予算案

 橋下大阪府知事が発表した09年度予算案の一般会計は歳出・歳入が3兆391億円、前年度比3.9%増だった。歳出の中で注目したいのは、①人件費が8586億円で2.4%減、②国直轄事業負担金は要求額から建設系20%、維持系10%カットして387億円とした、③中小企業向け制度融資は4619億円と1375億円増やした、の諸点である。

 一方、歳入では、①府税は前年度当初予算より17.7%減って1兆1514億円、うち法人二税は38.3%も減って3315億円になる、②地方交付税は67.6%増えて2850億円になる、③府債も17.7%増の3148億円で、うち臨時財政対策債は1607億円で102.1%増である、④減債基金は09年度末残高が7000億円、などが目に付く。

 経済危機が府の財政再建にブレーキをかけたような感じだ。公債残高は09年度初4兆9526億円で、08年度初の4兆8684億円より842億円増える。これは一般会計の分だけで、特別会計に5404億円、企業会計に3985億円の府債があり、合わせると5兆8915億円に達する。

 ところで、国直轄事業負担金については、橋下大阪府知事がカットを言明し、新潟県の泉田知事も北陸新幹線工事に関する追加負担要求には納得できないと発言するなど、波紋が広がっている。最近の地方分権改革推進委員会では、露木委員(神奈川県開成町長)が「これらの知事の発言が地方自治体が財政難の中、直轄負担金の支払に苦しんでいるのを如実に示すものだ」と指摘、緊急ヒヤリングを実施するよう要望した。

 これについては、1998年の地方分権推進委員会第5次勧告では次のように述べているのを想起したい。「公共事業は国と地方との明確な役割分担の下で実施されることが必要であるが、地域づくりのための公共事業が地域のニーズに即したものか否かを最も的確に判断できるのは、地域住民であり、地方公共団体であるといえる。したがって、(中略)地域住民に身近な行政主体である地方公共団体が、住民の意見を踏まえ、自らの判断に基づいて事業を選択し、決定することができる仕組みを基本としていかなければならない」。この趣旨に照らしてどうかがキーポイントではないか。

 もう一つ、大阪府の予算説明で目についたことを挙げると、国所管法人に対する財政支出については、「府が支出する負担金等が国の職員及びOBの人件費に充当している場合は事業費の一部を削減するとともに、会費については予算計上を見送り、その他は人件費相当の30%を削減」という。くわしいことはわからないが、橋下知事の指示によるものだろう。

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中長期の視点を忘れがち

 自民党の末期症状には国民もあきれ果てているだろうが、解散・総選挙のことしか念頭になさそうな民主党などの野党に絶望している国民も多いことだろう。経済が危機的な落ち込みを続け、雇用・生活不安が高まる一方なのに、政治は完全に機能を停止したままだ。米国が依然、金融機関の不良資産やGM・クライスラー救済などの問題を抱えながらも、経済対策を着実に進めているのをみると、民主政治が根付いている国とそうでない国との差を感じざるをえない。

 日本では超目先のつまらない政争関連の出来事ばかりが大きなニュースとして報道されている中で、日本経団連が中長期の視点に立った社会保障制度改革および少子化対策についてそれぞれ提言を発表したのは、ちょっと新鮮に思えた。メディアの扱いは小さいか、ないしは無視だが、いま、日本が緊急に打ち出さねばならない経済危機対策の重要な柱となるテーマを扱っている。

 提言「国民全体で支えあう持続可能な社会保障制度を目指して――安心・安全な未来と負担の設計――」は、昨年に経団連が出した2つの提言をもとに多少、内容を変えたものである。高齢者の総人口に占める割合がさらに上昇し、現役世代に過度に依存するいまの社会保障制度は持続不可能である。そこで、2025年度を最終目標に、中福祉中負担で国民が安心し信頼できる、制度横断的な社会保障制度の改革を目指したものという。

 緊急課題への対応と社会保障制度の基盤整備をはかる改革の第1段階(2009~2015年度)では「少なくとも消費税率5%分の財源を確保する必要がある」とし、年金の税方式への完全移行や介護・高齢者医療の公費負担割合を上げる第2段階(2016~2025年度)では、「社会保障国民会議のシミュレーション結果をもとに試算すれば、2025年度で追加的に必要となる公費は、現状に比して消費税率換算で12%程度必要になる」としている。

 制度改革の具体的な提案内容については、提言を読んでいただくとして、官庁の縦割りを超えた発想は評価できよう。

 もう1つの「少子化対策についての提言――国の最重要課題として位置づけ、財政の重点的な投入を求める――」は、騒がれる割に少子化対策が成果を挙げていない現状に危機感を抱いたところから出された。政府の「措置」の仕組みをやめて、保育を必要とする人たちが必要とする施設・サービスを選択し、利用できるように制度を改革するよう求めている。

 設置費用として新たに約1兆円、運営費用に年間7千億~8千億円出せば、潜在的な待機児童の解消ができるという。また、子育ての経済支援として、小学校卒業まで一律月額2万円の支給を提案している。そのための追加費用は2兆~2兆4千億円と見込んだ。次世代育成支援は公費での対応が基本だとし、追加的な費用は将来的には消費税引き上げにより安定財源を確保すべきだとしている。

 少子化が進むと、経済成長が抑制されるし、財政・年金制度の持続は不可能になる。それでは、日本の将来は暗い。そこで、経団連は自らはワーク・ライフ・バランスを積極的に推進するとともに、政府に対しては国の最重要課題として少子化対策に取り組むよう求めているものだ。いまの政治があまりにもお粗末なだけに、この時点で、とても貴重な提言だと思う。

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2009年2月14日 (土)

『外交の力』と著者田中均氏の話から

 田中均氏といえば、小泉首相(当時)の北朝鮮訪問と拉致被害者の帰国とを実現させた外務省の担当者である。日本外交のあるべき姿について、退官後の3年間、海外に毎年20回ぐらい行って議論し、それをもとに書いた外交論が『外交の力』(2009年1月刊)だという。それをなぜ書いたか、そこに込めたメッセージは何か、について、田中氏は記者会見で話もした。

 同書を読んでの感想を一言で言えば、日本の外交を担う外交官に、こんな愛国者、憂国の士もいるのだなというある種の感動である。いまの時点で言えば、「いたのだな」ということになる。と同時に、世界が多極化するなど内外環境が激変したにもかかわらず、現在の日本社会はあまりにも内向きであり、従来型の受身的な外交が国益を害していること、そして、そのことに政治も国民も気付かずにいることに、田中氏が危機意識を抱き、どう改革すべきか提案しているのにも大筋、納得した。

 第二次世界大戦後の日本は国家安全保障を米国に大きく依存してきたために、日本は独立国家としての生き方を真剣に追求してこなかった。言い換えれば、日本の政治指導者や外務省などの官僚は、せめぎあう世界の中で国家、国民の安全を守り、国民生活の安定、向上を図るためにどうすべきかを、自分のアタマで考えてこなかった。しかし、日本を取り巻く環境は様変わりした。そこで、田中氏は、日本がこれからの世界の中で、そしてアジアの中で、どういう戦略のもとで、どういう生き方をするのかを国民や政治家に議論してほしいと訴える。集団的自衛権の見直しや、東アジアでの経済連携など、課題は多々ある。

 そして、外交政策の基盤を強くするため、米国の「外交問題評議会」のような、党派色がなく、常に官民が交流し議論する民間組織をつくることを提案している。また、政府に「国家安全保障補佐官」の設置も提案している。メディアに対しては外交報道の抜本的な見直しを求めている。同書はメディアが「事実を客観的に公正に報道するよりも、センセーショナルな見出しを打ち、専門的知識のないコメンテーターたちを登場させる」と述べ、「政局」より「政策」に通暁した記者の養成が望ましいと指摘している。

 原則論としては、田中氏の指摘に賛成する。だが、外務省については、これまでも、外交を担う政府組織としてはいかがかと思う問題点がときおり表面化している。“機密漏洩”の西山事件のように、米国で公開された公文書にも書かれていて、しかも日本の外務省の当時の局長が近年認めたにもかかわらず、外務省がいまだにしらをきるという事例などをみると、外務省のほうにも相当、問題があるといわざるをえない。田中氏が直接、そうした出来事に関わっていなかったとしても、著書で古巣の重大な欠陥を指摘するのを避けているのが、同書の価値を減じることは否めない。

 それでも、同書のすぐれた点は高く評価したい。会見も、きわめて説得的だった。 

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2009年2月12日 (木)

怒らない国民

 郵政民営化をめぐる麻生太郎首相の発言が野党の批判を招いているばかりか、与党である自民党の内部にも波紋を巻き起こしている。小泉純一郎元首相、中川秀直元幹事長ら郵政改革に関わった人たちは首相を公然と批判するようになっている。首相の支持率も下がり続けているが、自民党内には、麻生氏を引き摺り下ろして4人目を選ぶという賭けに出る勇気もない。自民党の議員にしてみれば、首相の口にフタをしたいような気持ちではないか。

 一方で、民主党の小沢一郎代表は議会を欠席して、都内を選挙対策で回ったりしていたという。それも、ちょっとひどい。政権交代なら次の総理大臣になる立場のリーダーが、こういう自分中心の人では、いま一つ、民主党の人気が上がらないのも当然だ。

 100年に一度の世界経済危機といわれ、正規、非正規を問わず、雇用カットが毎日のように報じられているのに、この危機に適切な対応をすべき政治が完全に空白状態である。それなのに、国民は目にみえる形で怒りの行動を示していない。米欧で行なわれるようなデモはほとんどない。かつて私たちが学生だった何十年か前には、政治に対する抗議の学生デモが当たり前のように行われていた。いまは、それとは全く違う。果たして、いまの国民は怒っていないのか。

 2010年3月卒業予定の大学生の就職環境はことし3月卒予定者とは様変わり。その先、2011年3月卒については、もっと厳しい就職環境になる可能性が高い。そうだとすれば、正社員になるチャンスは相当に減る。非正規雇用であろうと、仕事に就ければよしとしなければならないかもしれない。

 そうした暗い将来を考えたら、若者は立ち上がって、政治に注文して当然だと思うのだが、いまのところ、そんな気配は全然ない。最近、有名私学の学生(2年)と話したとき、「デモをするとか、そんなことは誰も考えてはいない」と言っていた。

 豊かになり、ゆとりができたのか、日本の社会が成熟したというのか。いまや、通勤電車や長距離列車、航空機などが事故や異常気象などで動かなくなっても、乗客は怒らない。仕方がないじゃないかとそれを受け入れる。しかし、それと一緒に、社会に対し、日本人は怒るべきときに怒ることをもしなくなったように思える。受身的には、自分自身のできる範囲で対応策、自衛策を講ずるが、問題解決をめざして皆と一緒に働きかけて事態を変えようという能動的な行動には出ない。

 民主主義はたまたま行なわれる投票において1票を投じるだけで終わりというものではない。いまの国民は、メディアの政治批判(それが適切かどうかという問題もある)を見聞きして、なんとなく満足しているようにも思える。それでは、日本の政治はダイナミックには変わらない。国民の政治に対する意思表示の方法は投票のほかに、デモとか、NPOによる活動などいろいろある。外交にしても、内政にしても、国民がもっと自らの考えを見える形で示すことが日本の将来をよくするはずだ。 

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2009年2月11日 (水)

御手洗キヤノン会長のわきが甘かった?

 コンサルタント会社「大光」の大賀規久社長が法人税法違反で逮捕された事件は、同氏がキヤノンの御手洗冨士夫会長(経団連会長)と親しかっただけに、メディアで大きく取り上げられている。この事件に関して、御手洗会長は会社としても個人としても関与を否定した。だが、ここで問題にしたいのは、御手洗会長のわきが甘かったのではないか、というトップの自己規律である。

 偉くなるにつれて、いろいろな人が寄ってくる。あれこれ頼んでくる。友人や家族などのつてで頼みごとが舞い込んでくる。それらに応じていると、いい人だと言われる。ちやほやされ、ますます人がたかってくる。商売によっては、そうした人脈がものを言う。これに対し、公私を峻別する人は無理な頼みごとには応じないから、企業などでは融通がきかない人だとみられがちだ。大きな組織では、大体、偉いさんの意向は絶対だから、下の者は、たとえ、おかしいなと思っても、上を諌めるのは至難である。

 しかし、偉い人は組織の階段を上がれば上がるほど、やってはいけないことというのをきちんとわきまえる必要がある。そして、トップといえども間違うことはあるのだから、組織の中に、それをトップに指摘し、改めてもらうチェック機能を内蔵しておくのが望ましい。企業で言えば、コーポレートガバナンスの重要な機能である。

 そうした観点で、大賀氏逮捕にいたる経緯をみると、御手洗氏が第三者のいる公的な場面において大賀氏と同席するなどというのは、公私混同もいいところである。それを御手洗氏が容認していたから、会社の下の人も、第三者も、大賀氏を特別視したのだろう。それが今回の事件の主な背景である。こんな人がキヤノンのトップや経団連会長の座にあるとは。経団連の会員会社のトップは御手洗氏の言い訳を容認するのだろうか。

 余談だが、御手洗経団連会長の叔父で、キヤノンの創業者的なトップだった御手洗毅氏は、長い間、社長、会長の座にあり、とてもおっかない人だったらしい。役員といえども、御手洗毅氏と口をきくときは緊張したらしい。そうした社風はその後、大きく変わったと思っていたが、どうだろう。

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2009年2月 8日 (日)

「無利子非課税国債」という提案も

 自民党の一部議員が呼びかけて「政府紙幣」や「無利子非課税国債」などの実現をめざす議連を10日に開催するという。安倍元首相も最近、無利子非課税国債のような思い切ったことをやる必要があると語った。野党でも、亀井国民新党代表代行が、無利子非課税方式で100兆円のファンドをつくれと主張しているようだ。ただ、これらの人たちは、政府が使うカネを増やせば増やすほどいい、と思っているフシがあるから、彼らの言う通りにしていたら、大変なインフレになりかねない。

 「政府紙幣」については、先日このブログで取り上げた。「無利子非課税国債」は、利子ゼロだが、税務当局が相続税の対象資産とはみなさない国債のことだという。償還期限については議論されていない。創設すれば、相続税がたくさんかかるような資産家が節税のために購入することが想定される。

 こうした奇策がぶちあげられるのは、次のような理由だろう。即ち、日本の国家財政がひっ迫していて、現在の経済危機に対応するのに必要な財政支出も容易ではないので、“埋蔵金”のように、どこかから財源をみつける、ないしひねり出さねばならない、というものだ。「政府紙幣」の場合には、与党が好きなときに好きなだけ出せるし、利子がないから、国家財政に負担にならないというものである。もちろん、今年の9月までに衆議院選挙があり、劣勢の自民党としては、大盤振る舞いをしてでも何とか挽回したいという事情があるのは明白だ。

 しかし、どうも気になるのは、新たな財源探しが優先しているのではないかという点である。それより前に、まず、現状をどう認識し、当面および中長期に、どういう対策をとることが望ましいのか、それに必要な財政支出はいくらぐらいか、そして、それには税収とそれ以外にそれぞれいくらぐらい要るのか、をはっきりすべきではないか。そうすれば、国会でもメディアでも、この危機の脱出策の中身を議論できる。と同時に、財政健全化についても、意識を高めることになろう。

 相続税をかけない「緑の国債」を発行し、環境対策に資金を充てるという案が民主党の議員から出ているという。このように、与野党こぞっての議論があっていい。

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2009年2月 5日 (木)

『責任に時効なし~小説 巨額粉飾』

 もう消滅してしまったが、鐘紡という会社に取材に行ったことが少しある。伊藤淳二社長(のちに会長など)に単独取材したことが二度あるし、大阪にあった染色工場に、閉鎖の少し前に工場見学に行ったことがある。伊藤氏と会ったとき握手したら、その手が柔らかでぽってりしていて、いささか気持ちが悪いと思ったのが鮮明に記憶に残っている。

 伊藤氏は労働組合と組んで権力の座に上った。日産自動車の川又克二氏がやはり労組と結託して会社を経営していたのと同様、労組を抑えられないままだと、会社は合理化などにおくれをとる。小説『責任に時効なし』は、その鐘紡が伊藤氏の時代に始めた決算粉飾を30年にもわたって続け、ついに会社が崩壊するにいたる、すさまじい粉飾の歴史の物語である。

 著者の嶋田賢三郎氏は鐘紡の経理担当役員として2004年まで在籍し、トップが粉飾決算を指示するのに抵抗し続けた。だから、一旦は粉飾決算の責任を問われ検察に逮捕されたものの、最終的には起訴されなかった。その自らの苦闘を小説の形でまとめたものだから、500ページを超す長編ながら飽きさせなかった。

 鐘紡の粉飾決算では公認会計士・監査法人が関わっていた。もともと一般に、公認会計士はクライアント(顧客企業)を個々に持っていた。しかし、顧客の無理を聞かざるをえないために、粉飾決算が起こりやすい。そこで、監査法人の制度ができた。だが、監査法人が上場会社の監査をすべて担うようになっても、粉飾決算を容認する監査法人が完全にはなくならない。

 大々的な粉飾決算が表面化したら、会社は間違いなく倒産する。一方で、企業は粉飾を始めたら、大体がやめられなくなる。だから、会計士・監査法人にしてみれば、ひとたび粉飾決算を容認したら、引くに引けなくなる。そうした苦悩が始まる。

 したがって、粉飾決算を主題とする本書は、当事者しか知らない事実をもとにして書かれているだけに、ドラマティックである。

 印象に残った文章を引用すると――

 「粉飾は1970年代から始まり、その後ほぼすべての部門におよび、燎原の火のように蔓延していった。決して一握りの者だけの犯行ではなかった。」

 「通常、粉飾は直接的、間接的かは別として、経営トップが示唆、要請、あるいは指示するもので、それに異を唱えれば左遷か村八分になる。だから、粉飾は必然的に組織的なものになる。」

 「粉飾は自己愛的で人間の業の要素を多分に持つ。「自己保身」と「倒産しない限り捕まらないという固定観念」、粉飾の動機は至極単純で人間臭くしかも自己本位的である。」

 「たとえ時効が成立しても、過去に犯した罪の責任は何人たりとも、それから逃れることはできません。だからこそ、真実の解明と歴史的な背景事情を白日の下に晒すことが必要」

 「時効はあくまでも法律上、刑事罰を適用する場合にのみ意味があるだけだ。時効であるからといって事実を闇に葬ることは決して許されない。」

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2009年2月 4日 (水)

湯浅誠氏(年越し派遣村村長)の話で知ったこと

 NPO法人自立生活サポートセンター・もやいの事務局長であり、日比谷公園に設けた「年越し派遣村」の村長を務めた湯浅誠氏が4日、日本記者クラブで「派遣村から見た日本社会」と題して話をした。「雇用のセーフティネットからこぼれる人が増えている。いまの日本は落ちやすく、一旦落ちたら昇れないという「すべり台社会」である。シェルターの確保など当面の貧困対策を行なうとともに、働けば生活できるようにするなどの防貧対策が必要だ」と語った。

 防貧対策として、①貧困の世代間連鎖を解消するため、教育・住宅にかかる費用を政府がもっと負担する、②非正規労働の拡大や派遣・期間工切りで、働いても生活できないから、労働で生活できるように派遣法改正などを行なう、③ほとんど機能していないつなぎ融資制度の要件を緩和し、雇用保険制度を有期雇用の実態に即したものに改める、④生活保護を利用しやすくする、の4つを挙げた。

 また、大量の失業者が出てくると予想されていることを踏まえ、湯浅氏は、3月までに緊急になすべきこととして、①シェルター(緊急避難所)と総合相談窓口の開設、②非正規労働者生活・就労支援基金の設置、③中途解約に対する派遣先責任(損害賠償)、④寮からの退去規制(借地借家法の適用)を挙げた。

 大企業が福利厚生で安く提供している社宅・寮とは違い、派遣会社が用意する寮の家賃は市場価格か、ないしは派遣会社のもうけを上乗せした金額になっている。したがって借地借家法が適用されるから、会社をやめたからといって、借家人はすぐさま退去することはない、と湯浅氏は語った。〔これを聞いて、私は、目からうろこが落ちる、という思いがした。〕

 湯浅氏によれば、「すべり台」から落ちた人には5つの選択がある。家族のもとに身を寄せる、自殺する、犯罪をおかす、ホームレスになる、NOと言えない労働者になる、だという。5つ目の「NOと言えない労働者」は、寮付きの求人であればとびつくため、賃金などの労働条件については要求できない。そのため、世の中の賃金水準を切り下げることになり、労働市場が壊れると言う。「家族のもとに身を寄せる」というのも、親が仕事から引退し、年金暮らしで医療費負担に苦しんでいたり、核家族化で頼りにくいなどの問題があるという。

 正社員の賃金を減らして非正規雇用に回せという意見がある。正社員の賃金は50歳台前半まで右肩上がり(あと急激に下がる)になっているが、湯浅氏は教育費や住宅費がかかるから支出も同様なカーブになっていると指摘。教育や住宅に必要なお金を個人が負担するというのを、西欧などのように政府が負担する形に改めることで、賃金カーブをもっとフラットにしていくべきだとの考えを表明した。〔これも傾聴に値する見解である。〕

 企業にとって非正規労働者は「とどのつまり人ではない。人と思っていない」。企業は非正規労働者を「企業の屋台骨を支えていく仲間ではない」と思っている。それは「日本が企業社会だという裏面だ」。そう語る湯浅氏は「しかし、横断的な外部市場が大量に生まれた。非正規雇用は1800万人から2000万人になっている。それを踏まえてどうするかを考えねばならない」と問題を直視するよう政府などに求めた。

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2009年2月 3日 (火)

またも浮上してきた「政府紙幣」発行構想

 苦しいときの神頼み? 国債を発行せずとも、「政府紙幣」を発行すれば、打ち出の小槌のように、財源を生み出せるから、その発行を検討すべきだという声が政界などの一部で上がっている。

 自民党の菅義偉氏らが景気刺激策としてぶちあげているという。「政府紙幣」発行の意見は、米国の著名は経済学者であるスティグリッツ氏が2003年にわが国の関税・外国為替審議会で、デフレ克服策として提案したことがあるし、榊原英資氏なども唱えたことがある。最近では高橋洋一氏が提言している。

 「政府紙幣」は政府が発行する紙幣だ。日本銀行が発行する紙幣(日銀券)と同様に通用するが、単に紙切れとしての1万円札などを発行するコストしかかからない。国債を発行した場合には利子を支払わねばならないが、「政府紙幣」を発行しても利子は不要である。したがって、財政難だとか、財政健全化だとかといったことを気にしないで財政支出を増やせる。そこに目をつけたわけである。

 国債が増えすぎ、市場消化が難しくなった場合、日銀に国債を直接引き受けさせると言う形で、政府が財政支出の財源を確保するというやりかたも考え得る。だが、それは「通貨の番人」である日銀の独立性を侵すことになるし、国債発行により利子支払いが伴うから、国の債務が膨らむ。財政悪化が誰の目にも明らかになる。「政府紙幣」の発行は、そうした問題を回避できる。

 このように、一見すると、「政府紙幣」はいいことづくめのようにみえる。しかし、実体経済の規模が同じところに紙幣の量だけが増えるのだから、物価上昇につながるおそれがある。景気を刺激しようという目的で発行するのだから、わずかな金額ではないだろうから、当然、インフレの危険を伴う。今日の政治情勢をみると、一旦始まれば、発行量に歯止めが効かなくなる心配もある。

 しかも、政府は「政府紙幣」を回収するというような調節はしないから、日銀が日銀券の増減で金融調節することになるが、スムーズに行くかどうか。

 おぼれる者はわらをもつかむ。いまの世界的な経済危機をどうやって乗り越えるかを考えるとき、「毒食わば皿まで」といった、節度も何もない、ただ何にでもカネを使えば景気はよくなる、といった発想は人々の心を堕落させ、将来の日本を、あるいは世界をみじめな状態に陥れるのではないか。「政府紙幣」を議論することは結構なことだが、その直接、間接の効果や社会的な影響などを十分に検討すべきだろう。

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2009年2月 1日 (日)

アメリカ資本主義の問題点

 早稲田大学グローバルCOE《企業法制と法創造》総合研究所が1月31日に緊急シンポジウム「アメリカ発金融危機の総点検ーー日本からのメッセージーー」を開催した。報告者6人のテーマは多岐にわたったが、原丈人デフタ・パートナーズ・グループ会長の「公益資本主義と新基幹産業再生」に最も刺激を受けた。

 昨年の世界的な金融・経済危機以来、原氏は総合雑誌や経済週刊誌などに登場するようになった。米欧などで事業を行なうとともに、バングラデシュで途上国の経済発展に貢献するビジネスを展開するなど、独創的な事業家であり、「公益資本主義」という耳慣れない用語の提唱者でもある。シンポジウムにおける報告は、大半がこれまでの発言と重なっているが、じかに聞いたため、感銘することが多かった。その中から、アメリカ資本主義の問題点について述べたところを紹介すると――

 金融・経済危機については、証券化されていない不良債権の問題が今後出てくるし、ヨーロッパも不良債権問題が大きくなるので、次々に破綻が起こると指摘した。また、オバマ政権のメンバーもウオールストリート出身者だから、対症療法にとどまる、いずれまたバブルになることを憂慮していると語った。

 ウオールストリートの人々はこれまでのあやまちにこりず、また誤りをおかすだろう、今後、温室効果ガスの排出権取り引きなどでもうけようとし、日本が一番食い物にされるだろう、とも述べた。

 今回の危機を生み出した米国資本主義の問題点として、原氏は、「会社は株主のもの」という誤った考え、および時価会計、減損会計などを指摘した。新しい産業を創り出すには、長年にわたる研究開発および市場化のための資金が必要である。ベンチャービジネスの場合、そのリスクを引き受けてくれるリスクキャピタルおよびベンチャーキャピタルの存在が必要である。また、株式を公開している企業は、内部留保を蓄積して研究開発などに振り向けるのが望ましいという。

 ところが、いまやリスクをとらないベンチャーキャピタルに変質している。ヘッジファンドなどが企業の大株主になると、アクティビストが登場して、内部留保を吐き出せと言ってくる。彼らは、短期間に多くの利益を得ようとするから、新技術・製品の開発に力を入れることを好まない。それに、企業の経営者はストックオプションで個人的に莫大な利益を得ることが可能だが、在任期間が平均5年ぐらいだから、当面、会社の利益縮小につながる研究開発費などを減らそうとする。したがって、公開会社のストックオプションは百害あって一利なしである。原氏はあらまし、以上のように語った。

 日本はIT産業のあとの基幹産業を主導できうる力を持っている。それが実現できれば、税収が増えるので、税金を安くすることができる。そのためには、日本国内で、企業が研究開発に投じた費用を経費として落とせるようにする、個人が出資したときも税額控除などを適用する、という優遇策が望ましい。それを採用するよう、日本の財務省に提案しているという。 

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