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2009年2月 5日 (木)

『責任に時効なし~小説 巨額粉飾』

 もう消滅してしまったが、鐘紡という会社に取材に行ったことが少しある。伊藤淳二社長(のちに会長など)に単独取材したことが二度あるし、大阪にあった染色工場に、閉鎖の少し前に工場見学に行ったことがある。伊藤氏と会ったとき握手したら、その手が柔らかでぽってりしていて、いささか気持ちが悪いと思ったのが鮮明に記憶に残っている。

 伊藤氏は労働組合と組んで権力の座に上った。日産自動車の川又克二氏がやはり労組と結託して会社を経営していたのと同様、労組を抑えられないままだと、会社は合理化などにおくれをとる。小説『責任に時効なし』は、その鐘紡が伊藤氏の時代に始めた決算粉飾を30年にもわたって続け、ついに会社が崩壊するにいたる、すさまじい粉飾の歴史の物語である。

 著者の嶋田賢三郎氏は鐘紡の経理担当役員として2004年まで在籍し、トップが粉飾決算を指示するのに抵抗し続けた。だから、一旦は粉飾決算の責任を問われ検察に逮捕されたものの、最終的には起訴されなかった。その自らの苦闘を小説の形でまとめたものだから、500ページを超す長編ながら飽きさせなかった。

 鐘紡の粉飾決算では公認会計士・監査法人が関わっていた。もともと一般に、公認会計士はクライアント(顧客企業)を個々に持っていた。しかし、顧客の無理を聞かざるをえないために、粉飾決算が起こりやすい。そこで、監査法人の制度ができた。だが、監査法人が上場会社の監査をすべて担うようになっても、粉飾決算を容認する監査法人が完全にはなくならない。

 大々的な粉飾決算が表面化したら、会社は間違いなく倒産する。一方で、企業は粉飾を始めたら、大体がやめられなくなる。だから、会計士・監査法人にしてみれば、ひとたび粉飾決算を容認したら、引くに引けなくなる。そうした苦悩が始まる。

 したがって、粉飾決算を主題とする本書は、当事者しか知らない事実をもとにして書かれているだけに、ドラマティックである。

 印象に残った文章を引用すると――

 「粉飾は1970年代から始まり、その後ほぼすべての部門におよび、燎原の火のように蔓延していった。決して一握りの者だけの犯行ではなかった。」

 「通常、粉飾は直接的、間接的かは別として、経営トップが示唆、要請、あるいは指示するもので、それに異を唱えれば左遷か村八分になる。だから、粉飾は必然的に組織的なものになる。」

 「粉飾は自己愛的で人間の業の要素を多分に持つ。「自己保身」と「倒産しない限り捕まらないという固定観念」、粉飾の動機は至極単純で人間臭くしかも自己本位的である。」

 「たとえ時効が成立しても、過去に犯した罪の責任は何人たりとも、それから逃れることはできません。だからこそ、真実の解明と歴史的な背景事情を白日の下に晒すことが必要」

 「時効はあくまでも法律上、刑事罰を適用する場合にのみ意味があるだけだ。時効であるからといって事実を闇に葬ることは決して許されない。」

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