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2009年3月 8日 (日)

ROE(株主資本利益率)の影響

 株式市場における投資のものさしは企業の経営に影響を及ぼし、経営のやりかたを変える。

 高度成長時代までの日本の株式市場では、株式配当は年1回、額面の1割が当たり前だった。額面はほとんどの企業が50円だったから1株につき年5円の配当である。増資するときは株主割当で、払い込みは1株50円という額面増資であった。株価がいくらだろうと、また、資本金以外の準備金など内部留保がいくらあろうと、株主から預かっているのは資本金だけと考え、1株当たりの配当は5円というのが常識だった。

 間接金融中心だったので、資金調達は主に銀行からの借り入れに依存していた。しかも、総資産に対する資本金の割合はきわめて低かったから、経営者は株主については、持ち合い中心の大株主のことしか頭に無く、株主総会もさっさとすませることぐらいしか考えなかった。

 その後、株式の時価発行が徐々に広がるが、それでも、まだ、配当は1株につき5円ないし若干の増配がほとんど。時価発行増資の払い込み価格と額面(50円)との差額は会社のもうけであり、株主のものだとは思わなかった。ついでに言えば、その延長線上で、上場企業は1980年代後半のバブル時には、時価発行のファイナンスで“資金コストがタダ”のカネを手に入れ、銀行借入金をせっせと返済した。優良貸付先を失う金融機関は不動産開発などにやたら貸しまくった。バブル期の高い株価をどう説明するかで、当時の証券会社は企業の土地などを時価評価した1株当たりの解散価値を持ち出したりした。 

 こんなことを思い出したのは、原丈人著『21世紀の国富論』を読んだからである。株価を決める要因は時代によって異なる。それが絶対的な真実ではないにもかかわらず、人々はそれを所与のものとして判断し、行動する。

 同書で問題としている1つがROE(株主資本利益率)である。原氏によれば、資本の回転率を上げる道具であるはずのROEそのものを目的にすると、分子の利益を大きくするのではなく、分母の株主資本(資産マイナス負債)を小さくするという考え方になりがち。人件費を減らし、資産を小さくするには、工場を持たず、外注がいいことになる。しかも、時価会計、減損会計の導入により、資産を持たないほうが地価や株価の下落による影響を受けなくてすむということになった。 

 ROEが株価と強い相関を持つようになり、「会社は株主のもの」という考え方をとると、企業経営にとって、株価が上がること、時価総額を大きくすることが至上命題になる。しかし、「リストラによってROEを上げ、メディア受けのするIRを駆使し、有力なヘッジファンドが株式を買えば、企業の時価総額は上がるかもしれません。しかし、その見返りとして大切な内部留保をヘッジファンドに配当金として分配してしまえば、、将来への投資が行きわたらず、企業や経済は競争力を失う結果となります」。原氏はそう指摘する。

 日本でもROEが投資判断の大きなものさしになってきているが、それが企業経営、ひいては産業の競争力に悪影響を及ぼしているという指摘はうなづける。

 日本にも大きな影響を及ぼしたヘッジファンドのような「にわか株主」については、すぐには持ち株を売却できないように制限するとか、長期保有する株主に多く配当する仕組みにするとか、封じ込め策を講ずるよう同書では提案している。

 ところで、時価会計、減損会計は投資者サイドに立ったルールであり、「リスクをとって新産業を創造する意欲をもつ事業家の視点からつくった会計基準ではありません」という。私もそう思ってきた。日本では、そうした重要な会計ルールの転換が何らの議論もなく、大蔵省(現、財務省)の判断で行なわれ、会計学者、公認会計士、経済界などから異論が全然出なかった。そうした反省をも込めて、日本の会計基準作成に関わる人たちは、望ましい会計基準とは何かを考え、それを世界に向けてもっと主張しなくてはならない。

 しかし、国際会計基準作成に関わる人によれば、「日本の主張を英語でどんどん発言し、欧米の人たちを説得できる人材がいない」と言う。国益を踏まえて米欧の人々と対等にわたりあえる人材を育ててこなかった弊害がこういうところにも現われる。いささか美化されたとはいえ、白洲次郎のテレビドラマが放送されている。白洲のような骨太の国際人を育てることは、こういう分野においても必要である。

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