« イスラム世界と民主化 | トップページ | 経済危機で最も打撃を受ける先進国は日本というIMF予測 »

2009年3月21日 (土)

砂原和雄著『炎の森へ』を読む

 若い頃、私と同じ公社住宅に住んでいた新聞記者が、定年後、作家になった。砂原和雄氏である。彼が昨年11月に出版した『炎の森へ』を読んだ。日本長期信用銀行の破綻直前に、陶芸家をめざして銀行をやめ、笠間で修業を始めた実在の男性をモデルにした小説である。

 50歳になったら、陶芸家になる道に進もうとしていたのが、勤め先の長銀が経営危機に陥ったため、転進の時期が3年ほど早まった。銀行の同僚だった人たちの人生が銀行の破綻によって大きく変わらざるをえなかったのに比べ、自ら、第二の人生を主体的に選んだ主人公は、並大抵ではない苦労を重ねつつも、積極的に道を切り拓いていく。

 長銀で共に働いた仲間たちにとって、主人公は「われわれ仲間の心のシンンボル」(元頭取の言葉)とも言えるだろうが、著者は、そこに、世間一般の中高年にとっての“希望の星”を見出して作品を書いたことがよくわかる。

 作品から離れるが、高齢化・長寿命化した我が国では、定年などで仕事を終えた高齢者たちの生き方が個人的にも社会的にも大きな問題となっている。同じ高齢者といっても、質素に暮らすだけの収入や資産がない人もいれば、豊かでぜいたくな日々を過ごしている人もいる。また、街を歩いていると、身体が不自由で歩くのも大変な人をよく見かける。それに、老夫婦の片方が病気などで苦しみ、元気なほうがそれを支えるのに疲れて余裕をなくしてしまうという話も知人、友人から聞くことがちょくちょくある。

 高齢者が健康で、意欲的な生活をおくるには、さまざまな条件をクリアせねばならないが、その一つは、定年のない仕事に就いている人は別として、仕事とは別の生き甲斐というか一生続く趣味、楽しみを若い頃から持つことだ。社会貢献の活動もいい。それは人生を彩り、時には仕事を助けることもある。情けないことだが、自分が年をとってみて初めてそれを実感した。山登りが好きだとか、俳句が好きだとか、絵を描くのが趣味だとか、地域の子供の野球チームで世話をするとか、いろいろあるだろう。

 かつて三井銀行の頭取を務めた小山五郎氏は絵を描くのが趣味だった。仕事でおもしろくないことがあっても、家でキャンバスにむかうと、心が落ち着いたという。彼のおじさんが著名な仏文学者で、テニスが趣味だったが、身体をこわし、テニスができなくなった。そのおじさんが「テニスができず退屈。その点、五郎くんがうらやましい。健康を害しても絵は描けるから」と言ったそうだ。

 さらに余談をすると、かつて通産省OBで政府系金融機関のトップに就いた人は老後を考えて俳句を趣味にしたという。なぜなら、「寝たきりになっても、退屈しないのにうってつけと考えた」と語っていた。私の同世代の知人で、口もきけず、手足も動かせない状態になった人は、妻の手助けで、まばたきだけで字を選び、俳句を詠んでいた。数年前に亡くなったが、最後まで前向きに生きた人だった。

 仕事も趣味もプロ並みというすぐれた人はそうそうはいない。若い頃から、趣味に生き甲斐をおぼえる人は、職場では必ずしも歓迎されない。二兎を追う者一兎を得ず、ということもあるからだ。だから、著者の砂原氏にしても、「封印」していた自分のやりたいもう一つのことを、60歳になってからやり始めたのだろう。

 高度成長の時代やバブル崩壊後の長期経済停滞などを経て、2000年以降に高齢者の仲間入りをした人たちの中には、砂原氏のように、いきいきとした第二の人生をスタートした人が少なくない。また、長生きで、60歳代や70歳代で若々しい人がたくさんいる。彼らは、スポーツであっても、かなりの能力を持続している。少子高齢化のもとで、現役世代にお世話にならない高齢者が増えるのは、社会を変えることにもつながるように思う。

|

« イスラム世界と民主化 | トップページ | 経済危機で最も打撃を受ける先進国は日本というIMF予測 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 砂原和雄著『炎の森へ』を読む:

« イスラム世界と民主化 | トップページ | 経済危機で最も打撃を受ける先進国は日本というIMF予測 »