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2009年9月29日 (火)

「派遣」についてのアデコ(日本)会長兼社長の話

 派遣ビジネスなどの人材サービスで世界のトップクラスにあるアデコグループ。その日本法人であるアデコ(株)のマーク・デュレイ会長兼社長の講演を聞いた。アデコのフランス、米国のビジネスと日本でのビジネスとを比較しながらの話は参考になった。

 3国とも、人材派遣ビジネスが売り上げの9割前後を占めるが、フランスは派遣の売り上げのうち86%が製造業だという。ちなみに日本では事務系の派遣が80%に達し、製造業は7%にすぎない。

 また、派遣による就業期間の平均をみると、日本が17.5ヵ月であるのに、フランスは0.5ヵ月と短い。フランスでは1日だけという派遣が26%で、2日~1週間の派遣が35%だという。そして、派遣スタッフの募集のやりかたが、フランスではもっぱら派遣会社の店頭に張り出される求人情報とのこと(日本の街の不動産屋が張り出している物件広告を想像したらいい)。パリなどでは街のいたるところに張り出されているという。ロンドンでも同様だそうだ。

 フランスでは均等待遇原則が1981年に立法化されており、派遣先の社員と同一労働同一賃金が認められている。加えて、同年に労働組合と派遣業界団体が締結した労働協約により、職業訓練や年金積み立てなどとともに、住宅ローンが組めるようになったという。

 さらに、失業保険の給付期間が過ぎても、あるいは保険に加入していなくても、国庫が全額負担して失業手当を6ヵ月給付する、という二重のセーフティネットが敷かれている。

 こうしたフランスや米国の雇用システムを踏まえて、デュレイ氏は日本について、次のような指摘をした。①いま論議されている方向だと、製造業は海外に移転し、国内は空洞化する。IT化などにより、同じ仕事を一生続けることはできなくなるから新しい能力を身につける必要があるし、親の介護などで毎日働くことはできなくなることもあるから、それに合わせた仕事が必要になる。

 ②労働者派遣法を変える前に、正社員を中心とした雇用システムを変える必要がある。雇用形態、年齢、性別による差別、格差をなくし、同一労働同一賃金に改めるべきである。社会保険には2ヵ月未満の業務であっても即、加入するようにさせねばならない。そのためには社会保険番号をもとに手続きを自動化すべきである。エンプロイアビリティを高めるために、誰にも職業訓練の機会を提供する必要があるし、労働者も「受けたくない」などとわがままを言わないようにさせなければならない。

 デュレイ氏の講演は流暢な日本語なので話がわかりやすかった。彼が本論から脱線して話したことの1つは、「正規雇用」と「非正規雇用」というのは正しくない言い方という点。法律を守っていたら「正規」である、正しくは「常用雇用」、「非・常用雇用」と表現すべきである、と。また、日本語の「人材派遣」(英語だとヒューマンリソース・ディスパッチ)と英語の「テンポラリー・スタッフィング」とは意味が違う、と。

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2009年9月27日 (日)

格差と再分配、『誰から取り、誰に与えるか』(井堀利宏著)から

 「格差と再分配の政治経済学」という副題の付いた『誰から取り、誰に与えるか』(09年7月刊)を読んだ。財政学の学者で、啓蒙書もたくさん書いている井堀利宏東大大学院教授の新刊本である。ちょっと記述がていねい過ぎてくどく感ずるところもあるが、いまの経済政策を考えるうえでとても参考になる。

 国民1人ひとりや世帯の間には、あるいは地域の間には、所得や資産の多い少ないの差がある。そのため、社会保障などにより所得や資産の再分配が行われているが、現代の日本では、それが十分ではないとして、「格差」という視点からその是正が社会や政治の問題になっている。では、どのような格差が問題なのか、本当に格差が拡大しているのか、どこまで是正すべきか、再分配政策はどこまで有効なのか、コストや弊害はないのか。といった観点から、公平性、効率性の両面を踏まえ、どのような再分配政策が望ましいのかを同書は展開している。

 井堀氏は、再分配の原則として①対象の設定、②期間の設定、③経済的制約の考慮、の3つを挙げている。①については、再分配を受けるべき弱者は誰か、それを特定するのは非常に難しい。また、ある時点で弱者と認定されたとして、その後、ずっと弱者であるとは限らない。再分配を受けるのが既得権化したり、弱者を偽装する者をきちんと排除するのは容易ではないという。

 ②については、「再分配政策の目的は、単に弱者を救済することではない。弱者が自立した経済生活ができるように、スキルを身につけて、自力で経済力がつくのを支援することである」として、期限を設定することを求めている。受給者が安住せず、給付の打ち切りに備えて努力するように仕向けるためである。

 ③は、再分配政策による弊害(コスト)、すなわち、求職のための自助努力を阻害したり、一生懸命働くのをやめて再分配政策に依存するようになったりするというマイナスの影響を考慮して、再分配政策の規模、対象、期間などを決めるべきだとしている。

 また、再分配政策の主要な課題を挙げ、それらの改革の方向を提示している。公的年金制度を個人勘定積立方式や個人勘定賦課方式(自分の子供から給付を受ける)に変えること、地方交付税制度を縮小し、国から住民に直接渡し(個人勘定交付税)、住民から地方税として納める方式に改めること、納税者番号制度や社会保障個人勘定を導入すること、などである。

 このほか、興味深い指摘が随所にある。そのうちの2つを紹介する。「1980年代以降、農業世帯の所得はサラリーマンの所得を上回っている。生活水準で見て現在最も豊かな地域は、北陸3県など地方の農業地域である。他方で、埼玉県や千葉県など首都圏は、劣悪な住宅事情なども考慮すると、全国で最も生活しにくい地域になっている。これは過疎地方の既得権が既成事実化し、税金の使い方に大多数の有権者の民意が反映されていない結果である」。全くその通りである。

 また、親による子供の虐待事件が多い背景の1つとして、井堀氏は、親が子供を育てる明確な経済的動機を失ったことも大きいのではないかと、次のように述べる。親が利己的に行動する場合、昔は、子供をきちんと育てれば、親の仕事を手伝わせたり、親の老後の面倒をみてもらえるという見返りがあった。しかし、家庭と仕事場が離れたことや社会保障制度の充実などで、子供に老後の面倒をみてもらわなくてもすむようになった。その結果、親としては子供をきちんと育てるメリットが乏しくなった、と。うーん、そうかなあ。 

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2009年9月24日 (木)

新大臣を無視した国交省、厚労省のホームページ

 霞が関の官僚たちが鳩山新政権をどう受け止めているのか。試みに、いくつかの省のホームページを見てみたら、これが実におもしろい。

 国土交通省のホームページで「大臣会見」をクリックすると、11日の金子大臣(自民党・公明党の連立政権)会見が最新。それ以後、大臣会見の情報はない。そして16日に金子大臣が辞職したという短い情報が載っている。前原新大臣がいついつ就任したという情報はない。フォトニュースで、就任した前原大臣の顔写真を載せているのが唯一、新大臣の就任を伝えるのみで、就任あいさつも記者会見も一切載っていない。18日付けで副大臣人事の発表を伝えているが、そこにも前原大臣の名前も発言も載っていない。無論、八ッ場ダムの八の字もホームページにはみられない。

 厚生労働省のホームページも長妻大臣の就任に対して冷淡な扱いをしている。18日に大臣交代の写真を載せているが、新大臣のあいさつは載せなかった。そして19日に長妻大臣のプロフィールを掲載したが、履歴書同様の内容で、新大臣が何を言ったか、何をしたかを全く取り上げていない。

 では、中央官庁は一切、新大臣を無視しているかというと、そうではない。農林水産省のホームページを例にとると、17日に赤松新大臣の就任会見をくわしく載せており、18日の会見も同様に載せている。そして、19日に、新大臣が築地市場を視察したという発表もしている。総務省のホームページも原口新大臣の16日の会見に続いて、17日、18日の会見も概要を載せている。

 霞が関が官僚主導を批判してきた新政権をどう受け止めているかは、とても興味深いテーマだが、ホームページにこれほど露骨に彼らの心情が表われるとは正直言って驚いた。

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企業の先行き見通しはとても厳しい

 日本政策投資銀行の調査研究誌『調査』の第100号(09年9月)に大企業(資本金10億円以上)を対象とした「企業行動に関する意識調査」の結果が載っている。それによると、日本経済の今後の見通しは相当に深刻だ。

 売り上げが金融危機以前のピーク水準に回復する時期はいつかとの問いに対し、「2011年度」という回答が19%、「12年度以降」というのが22%もあった。製造業に限ると「12年度以降」は26%に及ぶ。そして、「回復しない」というのが製造業で13%、非製造業で14%もある。

 業種別にみると、非常に厳しい見方をしているのは輸送用機械と鉄鋼である。輸送用機械では「12年度以降」が45%、「回復しない」が21%。鉄鋼は「12年度以降」42%、「回復しない」が23%となっている。非製造業で暗い見通しを示しているのは運輸と建設・不動産である。運輸は「12年度以降」が22%、「回復しない」が17%であり、建設・不動産もそれぞれ23%と16%である。

 比較的、回復が早そうな業種であっても、危機以前のピーク水準に「回復しない」という回答が8%~15%もある。

 また、中期的な設備投資計画の修正状況については、「修正あり」63%で、その内訳は「2割以上減額修正(予定を含む)」が28%、「多少減額修正(予定を含む)」が24%、「総額は修正しないが、内容を見直した(予定を含む)」が9%、そして「増額修正(予定を含む)」が2%である。

 製造業をみると「2割以上減額修正」が45%に達する。顕著なのは、輸送用機械の71%、電気機械の55%、鉄鋼の53%、化学の40%で、食品は5%にすぎない。非製造業の場合、「2割以上減額修正」が16%で、業種別では卸売・小売の24%が目立つ。

 そして、中期的な設備投資計画額を減額修正する地域(3つまでの複数回答)をみると、日本が圧倒的に多い。製造業か非製造業かを問わず、また製造業の中の素材か加工・組立かを問わず、100%近い企業が日本における設備投資を減らすと回答している。北米、中国、アジア(中国、インドを除く)における設備投資を減らすとの回答もあるが、多くても20%弱にとどまっている。

 一方で、企業が中長期的に取り組んでいる事業分野は何かとの問いに対し、省エネ/新エネ/温暖化対策という回答が50%弱で一番多かった。太陽光発電、エコカーがそれに続く。以上と比べると割合はかなり低いが、福祉/医療/ヘルスケア、バイオ関連などが挙がっている。しかし、これらの有望分野に、日本経済全体をプラス成長させるだけの牽引力を期待するのは無理だ。

 したがって、このままでは日本経済の先行きは全体として縮小傾向をたどると予想せざるをえない。鳩山新政権の経済政策には企業の競争力の強化などという問題意識はないが、それでは結果的に、雇用も生活もいまより厳しい状況に追い込まれるのではないか。政策投資銀行の調査結果をみていると、そんな気がする。

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2009年9月23日 (水)

『経営にカリスマはいらない』(森一夫著)で知る企業経営の難しさ

 日本の高度成長時代、大企業の経営トップはなんと楽だったことか。社長としての任期中に形相が変わるほどの深刻な経営課題に直面するのはまれ。基本的には、「おみこし経営」で、下から持ち上げてくる決済案件に承認のハンコを押していればよかった。

 これに対し、現代の日本企業10社を例に、経営刷新の過程を描いた『経営にカリスマはいらない』(森一夫著、日本経済新聞出版社)を読むと、国内市場をベースに発展してきた日本の企業が、技術革新とグローバル化、IT化などで激化する世界競争に直面して、どうやって戦える企業に変身したか、そのために経営トップがどのようにリーダーシップを発揮したか、その苦闘の様子がわかる。

 同書によると、「固定観念、前例、因習、慣行など、様々なしがらみに迷わされず、発想にワクをはめる呪縛を断つ経営が、集団の個々の力を解放する新しい日本型経営の進むべき道である。偶像を不要とする、人間の人間による人間のための屈託のない経営が、いま企業を革新する」という。

 そして、乱世に必要な経営者の条件は次の5つだという。①現場で血となり肉となる仕事を十分にやってきている、②失敗経験など、修羅場を経験している、③傍流を歩んだり多様な仕事をしたりして、複眼的なものの見方を身に付けている、④仕事を通して感動的な体験をしている、⑤損得、金銭を超えた価値観を養っている。

 なるほどと思う。変身しきれない多くの日本のビッグビジネスについても、こうした経営革新を遂げていってほしいと願う。

 ところで、このようなビジネス界のニーズに沿った教育、人材育成がこの日本で行われているのだろうか。試験問題に対して、いち早く正解を書けるようになるだけでは、受験競争に勝ち抜くことができても、上記のような人間力を備えた人物になるのはなかなか難しい。

 いま、日本の大学および学生の質が低すぎるとして問題になっているが、民主党政権のもとで、世界の大学の実情を踏まえ、思い切った教育改革を推進してほしいと思う。

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2009年9月19日 (土)

藤井財務相の発言から

 鳩山新内閣では主要ポストの1つが財務大臣だが、就任したばかりの藤井財務相は17日の記者会見で財政健全化について次のように述べた。

 「日本の財政状況は先進国で最も悪い。しかし、財政のために経済をつぶしてはいけない。さりとて野放図でいいとは全然思っていない。財政の正常化のために長期目標を立てる。これは国家戦略局の大きな仕事だ。

 これまでプライマリーバランス(基礎的財政収支)だけを言っていたけれども、GDP対比の借金総額も大事な基準だ。それらを含めて財政再建の目標を立てなければならない」と。

 また、藤井財務相は特別会計の埋蔵金について、「ストックの埋蔵金は借金の返済に回すべきだ」とし、フローの埋蔵金については、財源として使うことを考えなければならないと語った。

 経済危機だからといって、財政の危機のほうを忘れてもらっては困るが、その点、藤井財務相は旧大蔵省の出身だから、財政問題の重要性は十分わかっているようだ。

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高額医療費のデータに驚く

 民間企業の健保組合1500弱で構成する健康保険組合連合会が今月11日、08年度(07年11月~08年10月)の高額医療給付に関する統計を発表した。1人の患者の1ヵ月の医療費で最も多かったのは2841万6300円。2番目が2298万8970円。3番目は2123万1110円である。1ヵ月間の医療費が2000万円を超えたのは5件、1500万円以上2000万円未満が23件だった。

 月額が1000万円以上の件数は134(前年度140)。誤解を招くおそれがあるが、1ヵ月に1000万円というのは単純に年率換算すれば1億2000万円。医療費が高いとか、安いとかは判断しかねる話だが、金額を知ると、正直言ってちょっと驚く。

 過去に1人当たりの月額が最も多かったのは02年度の4007万3310円。次いで07年度の3762万9030円だった。その内訳を知りたくなる。

 医療の技術進歩に伴い、単価の高い治療が保険診療に採り入れられてきた。そのために高額の医療費がかかっても、健保組合がプールした拠出金で大半をまかなう「高額医療給付に関する交付金交付事業」に申請すれば支払ってもらえる。08年度はそれによって980億円を交付したという。

 ただ、05年度を境に1人1ヵ月100万円以上の医療費がかかった件数が増加傾向に転じているのが気にかかる。

 民間の健保は政府からいっさい補助金を受けていない。逆に、社員と会社から集めた保険料のうち4割強を高齢者医療制度などに拠出したりしているため、財政が窮迫するところが増えている。事実、いくつもの組合が解散している。

 民主党中心の政権の誕生で、医療、介護などを充実しようという流れが強まった。医療費が今後、大幅に増える可能性が強い。だが、制度の設計いかんによっては、負担の重さに民間健保がへたることもありうるし、国・地方自治体の負担もかなり増えることが予想される。

 医療費については、効率化や不正撲滅など必要な課題がいくつもあるが、これまでほとんど手がつけられてこなかった。新政権はそこにも改革のメスを入れるべきだろう。さもないと、財政赤字が拡大するのではないかと思う。 

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鳩山民主党政権のすべりだし

 政権交代がこんなにテレビや新聞などのメディアを面白くするとは思いもしなかった。メディアの報道を見聞きするのがこのところの最大の楽しみである。ジャパン・パッシングだとかナッシングだとか言っていた外国も鳩山新政権の発足による変化に注目しているという。新政権がエンジンを動かし始めたいまになってみると、自民党がそのまま政権を握っていなくてよかったという思いがする。

 岡田外相が核持ち込みの密約について、調査報告書を11月までにまとめて提出せよと外務省の事務方に命じた。前原国土交通相が八ツ場ダムの中止を明言した。原口総務相は国から地方への補助金をやめて交付金を増やす方針を明らかにした。その他の新閣僚もマニフェストに盛った政策の実現を口にした。長妻厚生労働相はじめ、新政権の閣僚は官僚の振り付けを認めず、自分の考えを述べている。それも、十分に実態を知り、考えたことを語っている人が多い。だから、聞いていて、この政権はなかなかのものだと思う。

 ただ、亀井金融担当大臣あたりになると、民主党の政策とはちぐはぐと思われる発言が飛び出す。連立政権の問題点が早くも露呈したように感じる。もう1つ付け加えると、ある大臣が就任あいさつで職員に向かって「私は鳩山首相に一番近い」と強調していたが、アホかと言いたい。新内閣の閣僚は玉石混交というわけだ。

 一方、官僚支配打破をめざした民主党に対して官僚がどう出るか、多少、関心があったが、官僚側の卑屈さがのぞきみえた。選挙前、民主党の農業政策を批判した井出農水省事務次官は赤松農水相に「献身的に徹底的に新大臣を支えたい」と伝えたという(朝日新聞)。官僚は時の政権に忠実に仕えるものだとしても、自民党政権のもと、民主党を批判して間もない時期に、今度は民主党の政策実現に尽くすとよく言えるなあと思う。武士なら恥を知れと言いたい。

 また、民主党政権が温室効果ガスの排出量25%減の方針を打ち出したのを環境省が歓迎していることは明らかだが、小沢環境相を迎えての小林事務次官の歓迎あいさつにはびっくりした。そういう政策の実現をめざす小沢大臣を「お慕い申し上げております」と言ったからだ。霞が関では新大臣を迎えると、歓迎の言葉を述べる習慣があるのか知らなかったから、よけい驚いた。

 民主党が官僚による記者会見をやめさせるという方針を出したあと、じきに引っ込めたのはよかった。官僚が内閣・大臣の方針や意向を無視したり、反した発言をするのは許されない。それは当たり前のことである。しかし、内閣・大臣の方針などの枠の中で説明したりするのはむしろ必要なことだと思う。官僚支配の打破ということで気負いすぎたのだろうが、一歩誤れば、言論の自由、報道の自由を侵しかねない。民主党の中に、そうしたファッショ的な発想が潜んでいるという恐ろしさを垣間見たような気がする。

 お隣の国である中国では、新疆ウイグル自治区における暴動を報道することを認めない。権力者は支配体制を堅固に保つために、権力への批判を封じたがる。しかし、言論の自由や報道の自由は民主的な社会の重要なインフラである。民主党の政策には統制・規制を強めるものがあるが、統制的な発想が行き過ぎると、民主主義の根幹を傷付けることになりかねない。ここは要注意だ。

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2009年9月13日 (日)

目からうろこが落ちる書物『日本産業社会の「神話」』

 『仕事の経済学』などで知られる小池和男氏(元法政大学教授)がことし2月に出版した『日本産業社会の「神話」―経済自虐史観をただす』を読んだ。目からうろこが落ちるとはこのことだと思った。

 日本の社会には、三種の神器(年功序列、終身雇用、企業内組合)が戦後日本経済の発展を支えたという見方が強い。あるいは、会社第一主義とか仕事優先など、集団主義の社会だとも言われてきた。しかし、近年、それらの特殊日本的なものを米欧のように改めなければグローバルな競争に勝てないという見方が強くなっている。実力主義だとか成果主義の導入だとかはその表れだ。

 しかし、日本は特殊だというそうした通念が本当かを海外諸国と比較検証したのが本書である。こうした分野のデータも研究者もごく一部に限られているため、著者自身、慎重な言い方をしている部分もあるが、海外のあちこちで教えたり研究したりした成果を踏まえたうえでの問題提起なので、とても刺激的な内容である。その一部をピックアップする。

 米国に比べ、日本のほうがはるかに広い範囲の人に査定が適用されている。査定の結果は分散しており、日本における集団内の個人間競争の激しさを示唆する。

 日本人の仕事に対する満足度は、米国人に比べ低い。会社への愛着度も低い。仕事以外を重視する人の割合が高い。総じて会社をさめた目で見ている。

 米国のホワイトカラーのサラリーも勤続に応じた右肩上がりであり、定期昇給も広く普及している。世界の傾向は、高度な仕事は中長期重視のサラリーであり、それが社内資格給という長期重視のサラリー方式になってきている。それなのに、日本は短期重視へと逆行しつつある。

 米国では、生産職場の職長に残業手当てがない。当然ながら、その上の人たちも手当てがない。大学新卒の正社員も最初から残業手当てがない。西欧の企業のホワイトカラーも同様。米欧とも、記録なしの残業、“サービス残業”をしている。

 ドイツなど欧州の多くは、法律上は労働組合でないが、実態は労働組合と同様の事業所従業員組織(1つの事業所に複数あることもある)を、法律で経営参加の組織として認めている。したがって、企業はそれらの組織の専従者や事務職員の給与や事務所費などを負担している。

 第一次世界大戦後、日本経済をリードした繊維産業では、政府のおかげなどという「神話」は何ひとつ当たらない。経営と技術ですぐれていたからだ。日本は研究開発では圧倒的に民間主導で、政府の経費分担割合は欧米に比べとりわけ少ない。創造的な研究開発ほどリスクが高いから、長い期間をもちこたえるには政府のカネをもっと投入しなければならない。

 真に創造的な研究開発は失敗のリスクが大きいから、そのコストは企業などの組織がとるしかない。成功したら、その担当者にはそこそこの報酬、失敗してもなお少ないながら昇給するという仕組みが欧米の製薬会社やシリコンバレーでとられている。巨額の成功報酬をというのは日本だけの話だ。

 高度な仕事をこなす人材を育成するには関連の深い業務分野で広く経験を積まねばならない。それにはおおまかな技能、仕事能力を反映する社内資格給が必須だ。それも範囲給が欠かせない。 

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2009年9月10日 (木)

榊原英資氏、民主党の政策へのオススメ

 民主党の有力シンパである元大蔵省財務官の榊原英資早稲田大学教授が9日、日本記者クラブで新政権へのリコメンデーション(お勧め)を語った。以下、会見から。

 マクロ経済政策の記述がマニフェストになかった。この1ヵ月ぐらいのうちに景気対策を打つべきだ。いまのままだと、年末から年始にかけて景気に二番底が来る。補正予算は増額修正すべきであり、無駄な歳出のカットは来年度予算以降でよい。

 景気対策の財源は国債の新規発行でまかなうしかない。どこかの歳出を削って財源を捻出するというのでは景気対策にならない。いまの金融市場では10兆円単位の新規発行を受け入れ可能だ。民主党の言う16兆円は新規国債発行でまかなえばよい。

 日本が危機的財政状況にあるとは思っていない。日本は世界最大の債権国、米国は最大の債務国である。したがって、日本は国債の50兆円から100兆円の新規発行は問題ない。中長期の財政規律は大事だが、何年先にPB(基礎的財政収支)が復活するという目標さえあればよい。時間をかけて借金を減らしていけばよい。

 第1期は増税をしない。無駄のカットをできるだけ行なう。第1期の4年間のうちに年金、医療の改革プランを議論し、作り上げる。そして、それを提示して選挙に臨む。勝てば、第2期に実施する。

 国家戦略局に法的権限を与えるべきだ。予算の大枠を決める権限、各省庁に指示する権限など。そして、各省の設置法を廃止すべきだ。民主党がやろうとしていることはある種の平和革命であり、設置法廃止はその重要な武器である。一方で、改革派の官僚ないし改革派になりうる官僚と組むことが大事だ。

 地方分権で最初にできることは、ひも付き補助金をやめること。ひも付きでない交付金の形で出せばよい。地方分権は基礎的自治体を中心に考えるべきだ。昔の藩の単位で“廃県置藩”がよい。いまも昔の藩の単位で伝統や文化がある。道州制は絵に描いた餅だ。

 国の行政のかなりの部分をこうした基礎的自治体に移すべきだ。年金は税でやるべきで、国が保険をやるのはやめたほうがいい。保険の本質は資産運用だが、厚生労働省にそのノウハウはない。文部科学省が教育行政をやるのはやめて、地方に分権したほうがよい。教育はユニークな学校が地方、地方にあってよい。多様なパスがあるのが望ましい。

 後期高齢者医療制度の廃止に賛成だ。医療は保険制度でやるべきではない。医療目的税をとってやるべきだ。ただし、財政的に持たないから、混合医療制度を実施すべきである。歯医者でやっているように、これ以上の治療は自己負担してもらうというやりかただ。

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2009年9月 6日 (日)

国民医療費の数値を読む

 今月2日に厚生労働省が発表した平成19年度の国民医療費統計のデータをじっくり見た。総額は34兆1360億円。前年度よりも1兆0084億円も増えた。また、国民医療費の対国民所得比は9.11%(前年は8.87%)と過去最高になった。

 国民医療費は平成15年度が31兆5375億円だったから、4年間の年平均増加額を計算したら、驚くなかれ、約6500億円となった。増加の最も大きな原因は薬局調剤医療費の増加である。平成15年度に3兆8907億円だったのが、平成19年度には5兆1222億円に膨らんでいる。また、入院医療費の増加も目立つ。

 次に、34兆円余の医療費を誰が負担したかを見る。保険料が16兆7898億円(うち、事業主負担が6兆9241億円、被保険者負担が9兆8657億円)である。また、公費は12兆5271億円(うち、国が8兆4300億円、地方自治体が4兆0971億円)である。その他が4兆8190億円あり、うち患者負担が4兆7996億円である。公費負担は全体の36.7%(うち、国は24.7%、地方は12.0%)に達する。

 国民医療費を年齢階級別に推計すると、75歳以上が10兆0893億円と、全体の約30%を占める。70~74歳が4兆0847億円、65~69歳が3兆5698億円なので、65歳以上の高齢者の医療費だけで全体の52%に及ぶ。60歳以上で計算すると、国民医療費全体の60%余にもなる。

 ちなみに人口1人当たりの国民医療費(推計)は、75歳以上の高齢者の場合、平成19年度に79.42万円となっている。元気な老人も含めての平均でこれだけかかっている。70~74歳では59.01万円、65~69歳は45.54万円。年をとればとるほど病気になりやすいのは当然のこととはいえ、長寿化による医療費増は、それを誰が負担するのか、という深刻な問題を国民に提起する。

 保険料の引き上げか、自己負担割合の引き上げか、公費負担を増やすか。公費というと、天から降ってくると錯覚している人もいるようだが、公費の負担増にしても、どうやって賄うのか。そうした問題が控えている。医療費は増えて当たり前だという意見が強まっているが、誰が負担するのか、を考えると、いまの医療費の使われ方を洗い直し、ムダを徹底的になくすべきだろう。介護なども含めた広い視点で問題をとらえてほしい。

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2009年9月 3日 (木)

田中秀征氏の「鳩山ー小沢」論

 民主党を軸とする新政権がどんな政治を行なうのか、メディアの最大のテーマである。9月2日に日本記者クラブで行なわれた田中秀征氏の会見では、新政権を見るうえで興味深い視点がいくつか示されたように思う。田中氏は1993年の細川政権誕生のとき、細川総理大臣の特別補佐を務めたり、故宮沢喜一元首相と親密だったりした。以下はその一部。

・自民党が下野したのは細川政権誕生のときと今回の2回だけ。この2回とも、政治不信が背景にあったのは同じだが、93年も今回も、小沢一郎氏が演出した。ほかには共通点は見当たらない。今回は誰が党首であるかは投票の決め手にならなかった。自民党の構造が劣化したので、民主党の手を借りて自民党を倒したということだ。

・自民党は再生しない。政党にはすぐれた指導者と指導理念が必要だが、かさぶたのような人ばかりが選挙で残った。支持基盤は公明党に足腰を担ってもらってきたので、弱くなっている。自民党はご破算になっていくと思う。

・民主党は小沢さんが中心人物であることが問題点だ。いま小沢さんを上回る政治力を持つ人はいない。彼は戦後政治の歴史上、田中角栄らを上回る政治力を持っている。彼が鳩山(由紀夫)さんを盛りたて続ければ、(明治の元勲)大久保利通を越える業績を挙げるのではないか。

・小沢さんも、小泉(純一郎)さんも、地位には全く無欲だ。小泉さんは権力にも無欲だ。しかし、小沢さんは権力、実権にはどん欲だ。総理大臣にだってなりたくない人だが、党への残り方が問題だ。小沢さんを何とかできる人はいない。彼に自重していただくほかはない。

・鳩山さんと小沢さんとはウマが合う。小沢さんは鳩山さんが大好きだ。鳩山さんは世論を見ている政治家であり、晴れがましい舞台が大好きだが、小沢さんは組織とか団体といった固定的なものを見ている人で、晴れがましい舞台は大嫌いときている。いつか、政治判断、政策判断で2人の間にズレが生じるだろう。

・民主党は成長戦略がない、配ることを重視していると批判された。私もそこが気になっていた。民主党は直ちに5ヵ年の経済計画を立てるべきだ。それには年金、医療などを含める。そうすれば、ばらまきをやらないですむ。希望が持てることになる。

・日本の官僚制度は政治的意思を持っている制度であり、他国に例をみない。最近は「官僚いじめ」といわれるが、そうではない。民が官僚にいじめられてきたのだ。それをやめろということである。これまでの政権は官僚に対する人事権を持たなかったから、全く求心力を生まなかった。

・霞が関に100人の政治家が入るから政治主導とは思えない。個室、車代などカネがかかるだけだ。100人は必要性から出てきた人数ではない。

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2009年9月 1日 (火)

新政権とムダ退治

 事前に予想されていた通り、民主党が大勝した。勝って兜の緒を締めよ、ということわざがあるように、これからの100日ないし年末までの4ヵ月のうちに、国民の多数がなるほどと思うような成果を挙げれば、新政権はしっかりと根を下ろすことになるだろう。

 民主党の代表や代表代行あたりに次ぐ幹部の人たちはよく勉強しているようで、政策論議がしっかりしている。ネクスト・キャビネット(影の内閣)に顔を連ねる人たちとも重なるが、彼らに政治を任せることにほとんど不安はない。自民党のほうが、そういう点では人材の層が薄い。

 しかし、民主党が、社民党などと連立をはかるにせよ、政権をとったら、すぐに閣僚に就くはずのネクスト・キャビネットを“白紙”にしたのは問題がある。16日の組閣までの間、日本の政治はほぼ機能停止となってしまう。100人の議員を霞が関に送り込むというのはいいが、そうであればこそ、スタンバイの態勢にあるネクスト・キャビネットをまず先行して送り込むことが必要ではないのか。そのあたりの基本的な方針変更は、民主党の指導層内部における対立抗争の兆しのような気もする。

 国民の1人として大いに関心があるのは、民主党がマニフェストに書いた個々の約束を実行していくうえで、官僚たちをどう使うかだ。ムダの排除と言うが、何がムダなのか、1つ1つ個別政策の要不要を追及していくやりかたは正当だが、検討の時間を踏まえると、成果は自ずと限られる。

 一方で、7兆円余の財源をひねり出せという大きな枠組みだけを財務省に命じたら、同省は各省庁の予算要求額を一律カットするという答しか出せないだろう。道路建設などを大幅に減らすにしても、ゼロにするわけではないとしたら、優先順位をどうやって決めるのか。地方自治体の要求などもある。補正予算の修正および2010年度予算の編成で、民主党がどんな方針を打ち出すか、また、それを貫くためにどういう手立てをとるのか、興味深い。

 ところで、北沢栄著『亡国予算 闇に消えた「特別会計」』(2009年5月)を読んだら、いろいろ教わった。主要先進国にはない特別会計の制度をやめて、一般会計一本に統合すべきだと提言している。それがムダの体系を生む資金源を制度ごと葬る改革だと述べている。予算を個別に見直す改革では、時間ばかりかかって部分的改革にとどまらざるをえないと言う。

 また、同書によると特別会計の埋蔵金は約50兆円あるという。また、特別会計の不用額(使い残し)の規模は92年度以来、ほぼ一定しているから、「特別会計から毎年、少なくとも10兆円規模を一般財源もしくは国債の償還用に継続的に活用できる」という。

 このほか、「埋蔵金」がらみで独立行政法人や天下り公益法人にも相当の埋蔵金があると指摘している。独立行政法人には2兆円超、天下り公益法人には少なく見積もっても10兆円規模の埋蔵金があるという。

 民主党の主張するムダの削減とか、埋蔵金の活用は、この『亡国予算』の論旨と共通している。そういう点でも、本書の内容は興味深い。

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