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2009年9月27日 (日)

格差と再分配、『誰から取り、誰に与えるか』(井堀利宏著)から

 「格差と再分配の政治経済学」という副題の付いた『誰から取り、誰に与えるか』(09年7月刊)を読んだ。財政学の学者で、啓蒙書もたくさん書いている井堀利宏東大大学院教授の新刊本である。ちょっと記述がていねい過ぎてくどく感ずるところもあるが、いまの経済政策を考えるうえでとても参考になる。

 国民1人ひとりや世帯の間には、あるいは地域の間には、所得や資産の多い少ないの差がある。そのため、社会保障などにより所得や資産の再分配が行われているが、現代の日本では、それが十分ではないとして、「格差」という視点からその是正が社会や政治の問題になっている。では、どのような格差が問題なのか、本当に格差が拡大しているのか、どこまで是正すべきか、再分配政策はどこまで有効なのか、コストや弊害はないのか。といった観点から、公平性、効率性の両面を踏まえ、どのような再分配政策が望ましいのかを同書は展開している。

 井堀氏は、再分配の原則として①対象の設定、②期間の設定、③経済的制約の考慮、の3つを挙げている。①については、再分配を受けるべき弱者は誰か、それを特定するのは非常に難しい。また、ある時点で弱者と認定されたとして、その後、ずっと弱者であるとは限らない。再分配を受けるのが既得権化したり、弱者を偽装する者をきちんと排除するのは容易ではないという。

 ②については、「再分配政策の目的は、単に弱者を救済することではない。弱者が自立した経済生活ができるように、スキルを身につけて、自力で経済力がつくのを支援することである」として、期限を設定することを求めている。受給者が安住せず、給付の打ち切りに備えて努力するように仕向けるためである。

 ③は、再分配政策による弊害(コスト)、すなわち、求職のための自助努力を阻害したり、一生懸命働くのをやめて再分配政策に依存するようになったりするというマイナスの影響を考慮して、再分配政策の規模、対象、期間などを決めるべきだとしている。

 また、再分配政策の主要な課題を挙げ、それらの改革の方向を提示している。公的年金制度を個人勘定積立方式や個人勘定賦課方式(自分の子供から給付を受ける)に変えること、地方交付税制度を縮小し、国から住民に直接渡し(個人勘定交付税)、住民から地方税として納める方式に改めること、納税者番号制度や社会保障個人勘定を導入すること、などである。

 このほか、興味深い指摘が随所にある。そのうちの2つを紹介する。「1980年代以降、農業世帯の所得はサラリーマンの所得を上回っている。生活水準で見て現在最も豊かな地域は、北陸3県など地方の農業地域である。他方で、埼玉県や千葉県など首都圏は、劣悪な住宅事情なども考慮すると、全国で最も生活しにくい地域になっている。これは過疎地方の既得権が既成事実化し、税金の使い方に大多数の有権者の民意が反映されていない結果である」。全くその通りである。

 また、親による子供の虐待事件が多い背景の1つとして、井堀氏は、親が子供を育てる明確な経済的動機を失ったことも大きいのではないかと、次のように述べる。親が利己的に行動する場合、昔は、子供をきちんと育てれば、親の仕事を手伝わせたり、親の老後の面倒をみてもらえるという見返りがあった。しかし、家庭と仕事場が離れたことや社会保障制度の充実などで、子供に老後の面倒をみてもらわなくてもすむようになった。その結果、親としては子供をきちんと育てるメリットが乏しくなった、と。うーん、そうかなあ。 

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