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2010年6月23日 (水)

菅首相の消費税引き上げ提起

 参議院選挙を控え、菅直人総理大臣が消費税の引き上げを含む税制改正を積極的に訴えている。財政再建が急務だという首相の認識は正しいが、選挙前ににわかに消費税引き上げを争点に仕立てたことや、ただ漠然と消費税引き上げを主張していて、消費税増税による税収を何に使うのかなどの中身があいまいであるなど、疑わしい点が少なくない。

 財務大臣になってからの菅氏は財務官僚の“洗脳”もあり、財政健全化をちょくちょく唱えるようになった。ギリシャの財政破綻をめぐる国際会議に出て、菅氏は財政再建の必要性を強く実感するようになったようだ。しかし、菅氏が総理大臣になる前の民主党は、昨年の総選挙のマニフェスト通り、子ども手当をはじめとするばらまきを行なって、国の財政悪化に拍車をかけた。鳩山首相以下、民主党国会議員のほとんどが次の衆議院選挙がある2013年まで消費税引き上げは考えないとしていた。

 それが、菅氏が今月4日に後任の首相になったとたん、自民党案の10%を参考にした消費税引き上げを前面に打ち出した。22日に発表された「財政運営戦略」は財政破綻を避けるための財政再建を柱に据えている。これは、どう見ても、昨年のマニフェストとは大違いだ。首相の首をすげかえただけで、これほど極端に選挙民(国民)への約束を変えてしまうのは、相当、問題だ。本来なら、衆議院も解散して改めて信を問うべきかもしれない。それでなくても、民主党の国会議員の大半は自らの見識もなく、党幹部から「右向け」と言われれば右を向いている。国民としては、それがとてもこわい。

 毎年の財政赤字を減らし、累積した国債残高を減らすには、歳出をカットする、税収を増やすしかない。そのためのものさしとして、いついつまでに基礎的財政収支(プライマリーバランス)をどれだけ改善するか、同じく公的債務残高の対GDP比をいついつまでにどこまで下げるか、などが使われる。

 そのやりかたは国によってまちまちだが、日本経済新聞によると、英国政府は消費税に相当する付加価値税の税率を来年1月1日から2.5%引き上げる、子ども手当を3年間停止する、公務員の賃上げを2年間凍結する、その一方で法人税率を2014年までに28%から24%に引き下げると22日発表した。

 これに対し、菅内閣の財政運営戦略では、国および国・地方の基礎的財政収支に関して、財政収支赤字の対GDP比を遅くとも2015年度までに2010年度の半分に減らす、および、遅くとも2020年度までに、黒字化する。2021年度以降、国・地方の公的債務残高の対GDP比を安定的に低下させるという。西欧諸国に比べると、のんびりした手の打ちようである。

 内閣府の試算では、名目経済成長率が1%台半ばで推移すると、自然増収だけでは2015年度での赤字半減の目標達成に約5兆円足りない。20年度の黒字化に約22兆円足りない。これは、消費税率で、前者は約2%、後者は約8~9%に相当すると言えよう。

 しかし、民主党政権の財政運営戦略を読むと、本気で2020年度黒字化などに取り組む姿勢とは思えない。第1に、一般歳出の半分以上を占める社会保障関係の歳出のムダを徹底的に減らす必要があるのに、民主党政権は毎年1兆円増えるのを当然視し、そこに切り込む姿勢を欠いている。社会保障を聖域視するのと、既得権擁護のせいだ。

 第2に、2011年度の新規国債発行額が10年度予算(約44兆円)を上回らないように全力をあげると言う。なぜ「下回るように全力をあげる」と言えないのか。2011~13年度の基礎的財政収支対象経費についても、前年度当初予算規模を実質的に上回らないこととするとしており、「実質的に下回ることとする」と言っていない。ばらまきで膨らんだ歳出および国債増発を継続すると宣言しているのと同じだ。これでは、国債発行残高がどんどん大きくなり、財政危機が深刻化するのは必定である。菅内閣へのバトンタッチで民主党政権に対する世間の支持率は再び高くなったが、日本の将来を任せられるか、不安がある。

 菅内閣は税収を増やすため、個人所得税率の引き上げを目指している。それも必要だが、それ以上に、規制の撤廃・緩和で企業活動の活性化を図り、経済成長を達成するほうが財政再建には効果が大きいだろう。

 自民党が消費税10%にと提起したのを受けて、菅首相はこれを参考に、超党派で消費税引き上げ協議をしようと提案している。しかし、消費税増による歳入を何に使うのか、菅首相は言っていない。国債発行額の削減に充てるのか、年金制度改革の財源に充てるのか、地方主権改革の財源に使うのか。

 民主党が消費税引き上げ論議を選挙の焦点に置こうとするのは、昨年のマニフェストで約束した財源捻出ができなかったことなどについて野党から責められないように争点をずらし、選挙民をたぶらかすようなものではないか。消費税選挙になったから、それは見事に成功している。しかし、歳入・歳出改革を含め、これまでと今後の日本のありかたについて、民主党政権はきちんとした説明もしないまま、選挙で勝つことしか頭にない。選挙がすめば、全く違うことを言い、実行する危険性は十分ある。 

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