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2010年7月28日 (水)

歴史の見方を変える本『この命、義に捧ぐ』

 1990年代半ばのことだが、中国の福建省厦門(アモイ)に行ったことがある。そのとき、海を隔てて台湾の領土である金門島を眺める場所を訪れた。中国側から島を見たら、中国本土の解放を唱える檄文が横一列に一文字ずつ間隔を置いて掲げられているのが見えた。金門島は大陸から目と鼻の先にある島でありながら、台湾の領土なのである。

 かつて毛沢東の人民解放軍が蒋介石率いる国民党政府軍を台湾に追い落として中華人民共和国を建国し、さらに台湾征服をめざして厦門から金門島へ進攻しようとした。そのとき、激しい攻防が繰り広げられ、国民党政府軍は金門島に上陸した共産軍を撃滅し、勝利をおさめた。1949年10月のことである。以後、人民解放軍は台湾を制圧しようとしても、目の前にある金門島を攻略できなかった。

 「台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡」という副題が付いた本『この命、義に捧ぐ』(門田隆将著)は、金門島に上陸してきた人民解放軍を壊滅させた国民党政府軍の顧問として、旧日本陸軍の中将だった根本博が活躍したという事実を発掘したノンフィクションである。

 この本を読んで最も感動したのは、1945年8月15日に日本が敗戦した時、駐蒙軍司令官の根本中将は、上からの武装解除命令を拒否し、張家口などに住んでいた邦人の保護・脱出が完了するまで1週間近く、ソ連軍と戦ったことである。彼は、国民を守ることが軍の役目だという考えとともに、ソ連や中国共産党軍の本質をよく知っていたからだ。

 満州にいた関東軍は8月15日をもって武装解除した。その結果、多くの軍人がシベリアに送られ、悲惨な目にあった。民間人はもっとひどい目にあったりした。最近見た映画「氷雪の門」は、8月15日を過ぎてもソ連軍が樺太で日本人および人家などを攻撃し、樺太西海岸の真岡町にある郵便局で働く電話交換嬢たちが自害に追い込まれた事実を描いている。そうしたソ連軍などの無法な残虐行為と対比すると、根本中将の偉大さがわかる。

 根本は陸軍士官学校出身で、若いころ、南京や上海に駐在していたことなどから、蒋介石はじめ国民党政府軍の要人の幾人かとは信頼しあえる関係にあった。根本が植民地支配の発想を持たず、中国を対等に扱ったからである。1945年暮れ、北支那方面軍司令官になっていた根本は蒋介石から会いたいと言われ、面会に行くと、「日本は少々思いあがっていたのではないか。あなたは至急帰国して日本再建に努力してほしい」と言われたという。蒋介石がカイロ会談において天皇制の維持に貢献したこともあって、根本は蒋介石に深い感謝の念を抱く。

 それが、第二次世界大戦後、人民解放軍が台湾をも制圧しそうな状況に至ったとき、根本に、密出国までして、台湾の蒋介石を助けようという気にさせる。金門島の防衛作戦に根本は彼の持てる知識・経験をすべて投入し、見事に成功したのである。蒋介石は執務室にある一対の花瓶の一方を友人の根本に贈って感謝の念を表した。英国の王室と日本の皇室に贈られた花瓶と同じものだという。その後も、人民解放軍が1958年に金門島に集中砲火を浴びせるなど、金門島をめぐる緊張対立は続いたが、旧陸軍中将だった根本博が蒋介石の危機を救って恩に報いたという秘話があったことを本書で初めて知った。

 台湾というと、日本では、正式な国交もないし、貿易、直接投資などの規模も大陸中国に対するものと比べ、小さい。蒋介石についても、日本人はあまりいい印象を持たない。しかし、近年、出版された書物は、共産中国の誕生について書かれたものがかなり真実と異なる内容であることを指摘している。私の友人の歴史学者は「歴史的な評価は二代(の王朝)を経て定まる」と言う。毛沢東や国共内戦などに対する歴史的な評価もまだ定まっていないし、台湾や蒋介石へのそれも同様である。本書は歴史の見方を重層化する契機を与えてくれる。

 それはそれとして、少数の仲間と密出国し、蒋介石への報恩に自らの命を賭けた根本の生き方は、実にさわやかである。いまの日本、これからの日本はこうしたスケールの大きい人物を必要としている。 

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コメント

某掲示板の軍板ではこの本の話がよく出てきて
そのたびに中国人の荒らしと激しい罵り合いにww
金門島の戦いについてはこちらをどうぞ
http://maokapostamt.jugem.jp/?eid=2858
機動防御戦で中国軍を撃破した台湾軍の戦いは「らしくない」とずいぶん前から言われてますが、ソ連軍とやりあった根本博中将ならなるほどといわせるものがあります。

投稿: !! | 2010年8月 6日 (金) 09時38分

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