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2010年9月16日 (木)

波頭亮著『成熟日本への進路』のもっともな指摘

 国家が提供すべきサービスは「国民全員に、医、食、住を保障すること」。そういう視点で波頭亮氏が書いた『成熟日本への進路――「成長論」から「分配論」へ』(波頭亮著、ちくま新書)は納得できる指摘が多々あった。

 社会保障の先進国、デンマークは国民負担率が71%に達する。同国は著者によれば「高福祉だからこそ自由経済」の国で、①市場メカニズムの徹底的な尊重、②最も解雇しやすい国、だという。このデンマークをお手本にして成熟日本をめざす処方箋を示したのが本書である。

 日本経済がここまでおかしくなった最大の理由は、増税をしてこなかったことにある、それが社会保障の拡充を妨げ、産業構造のシフトを阻み、成熟化社会への移行を妨げてきたと著者は言う。国債は非定常的な歳入を得るために発行されるものであり、社会保障のような恒常的な支出の原資に充てるのは適切ではない。しかし、増税を避けて、景気対策のために国債を大量に発行してきた結果、社会保障の充実に予算が回らなかったと指摘する。

 1995年以降の国債発行残高の増分は497兆円に達する。これはプライマリー・バランスで見て毎年、36兆円ずつ歳入が不足しているのに等しい。そこで、著者は「必要な増税額は取りあえず33兆円」とし、それを消費税10%増税、金融資産に0.5%課税、相続税の実効税率20%の3つで賄うことを提案している。それを実施しても、税と社会保険料を合わせた国民負担率は約49%で、イギリス(48%)と同程度と言う。万全の財政基盤を目指すなら増税額は60兆円/年となるが、それでも国民負担率は約57%で、ドイツ(52%)より高いが、フランス(61%)と比べると、まだ軽い負担率だとしている。

 一方、手厚い社会保障と固い雇用保障の組み合わせは国民のモラルハザードを招き、総ぶら下がり化の危険をはらむと波頭氏は見る。デンマークは失業手当、生活保障が手厚く、再就職のための職業訓練は無料である。したがって、企業は即座に解雇ができるので、市場対応力の高い経営が可能になる。日本もデンマークにならうべきだと著者は言う。

 このほか、日本の内需型産業の振興というのは間違ってはいないが、それだけでは不十分だと指摘する。日本は輸出依存度が16%(08年度)とかなり低い。しかも、輸出競争力が低下している。一方で、石油と食糧の輸入だけで27兆円(同)に達するので、外貨を稼げる産業の育成が必要である。国際競争力のある高付加価値型輸出産業を育成しなければならない。

 また、医療・介護サービスを主力産業化する必要があり、そのために規制緩和および労働条件の改善が必要だとも述べている。

 本書は経済成長を追求する発想を退け、衣、食、住を完全に保障するための分配に視点を置くもので、教えられる点が多かった。政治が混迷を続けているが、本書のように、明確なビジョンとその実現のための方法とを示していくことがいま求められていると思う。

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