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2011年1月 7日 (金)

財政審で挙げられた社会保障制度の問題点

 財務省の財政制度等審議会が昨年11月8日に開催した財政制度分科会。その議事録が同12月になって公表された。分科会では田近栄治委員(一橋大学教授)が「社会保障改革―『財政規律』と『安心の保障』の実現―」と題して報告し、それをめぐって議論が行なわれた。テーマが広範にわたるため、論点も多々あり、紹介するのも容易ではない。だが、要は現在の制度には沢山、問題があり、それを適切に改革できれば、財政の負担も相当減らせるということが読み取れる。

 ・(田近)日本の社会保障制度は、給付の一定割合が公費負担になっている。国民健保50%、協会けんぽ16.4%、介護保険50%、後期高齢者医療制度50%、基礎年金50%などといった具合。しかし、給付の一定割合を財政支援する国は主要国にはまずない。失業保険に国庫負担している国はどこにもない。給付は保険料に見合うという社会保険の原則が中途半端になっているので、利用者である国民にはコスト意識が乏しいし、保険者の責任意識も希薄だ。

 ・(田近)医療と介護は個人にとっては切れ目のないリスクの保障だ。したがって、年齢の輪切りがない医療保険、そして医療と介護がシームレスにつながった体制が高齢社会の安心を生む。

 ・(田近)過剰な病床→病床に対するマンパワー不足→低密度の医療→長期臥床→寝た切りや認知症。その繰り返しという負の連鎖が社会的入院だ。廃用症候群も同様に医療および介護システムの中で再生産される。

・(田近)望ましい医療と介護のシームレスな提供体制というのは、①病気の急性期には集中して高密度の医療を行ない、専門医師と看護師を重点投入する。それは一週間もかからない。②その後は、診療所医師、開業医による亜急性期の治療とリハビリを徹底する。そこでは看護師の医療行為を拡大する。③慢性期・要介護状態になったら、地域ケアに移る。広い意味の在宅ケアで、外部のサービス供給体制、24時間ケア、それに看取りまでを行なう。それが地域医療の標準だ。デンマークでは、亡くなるところまで面倒を見れないような介護は介護ではないという考え方である。寝たきりになって胃ろう(胃に直接栄養を入れる)というようなことは同国ではない。

 ・(井伊雅子)世界の潮流はプライマリーケアの重視だ。急性期でも8割がプライマリーケアで対処できて、残りが病院である。医療費の増大を抑えるためには、日本もそうしなければならない。それと、日本では予防が診療報酬に結びついていない。人工透析などの患者には沢山の医療費がかかっている。それを考えると、糖尿病などの予防が必要である。

 ・(井堀利宏)民主党政権になって、社会保障歳出が聖域化され、それほど必要でないものも予算化されている傾向がある。いまの年金制度では、少子高齢化すると、政府は年金支給開始年齢を上げざるをえない。早めに10年先には例えば75歳にするんだと、いまからきちんと自助努力で老後の備えをしよう、と青写真を提示すべきだ。20年、30年後には医療費が急激に増えるから、基金を積み立てることが財政的には重要だ。

 ・(土居丈朗)公費負担をあたかも天からお金が降ってくるかのごとく考え、保険料負担とか、利用者負担を自分の身銭を切らなきゃいけないと思い、負担増はご免こうむりたいという意見は相変わらずだ。結局、税という形で負担するのか、保険料という形で負担するのか、いずれにせよ、給付に必要な負担がある。国民全体としては同じ負担額になる。それを、どなたにどういう形で負担をお願いすればいいかという問題として議論していただかねばならない。

 ・(土居)2012年に医療と介護の報酬の同時改定を迎える。できれば、医療と介護の協業というか連携を進め、給付費、つまりコストをできるだけ抑制しつつも質を維持することが望ましい。それどころか、むしろ向上させる可能性があり得るのではないか。

 ・(富田俊基)どうしても、財政の中期展望の推計では、成長率を高く、金利を相対的に低く設定しがちだったことは否めない。ところが年金財政のほうは高い金利の設定になっている。国債金利も大分高い見通しを立てている。実際、高い運用見通しを前提に年金財源をより積極的に運用しようとの考え方もある。しかし、これは国民の安心と逆行する。慎重、安全、かつ確実な運用であるべきだ。

 ・(吉川洋分科会長)後期高齢者医療制度も、マクロ経済スライドをきちんと説明すれば、多くの国民は理解するのではないか。高齢者を一様に弱者ととらえる考え方はおかしい。全額税金で最低保障年金をやるというのは、生活保護の制度とどう整合性をとって考えるのか、それをわかりやすく説明してもらう必要がある。医療では、高額療養費制度のほうが医療保険の柱である。この高額療養費制度はもっともっと合理化できるところではないか。この制度について国民はほとんど知らない。丁寧に説明し、そのうえで負担(の軽減率)と合わせて議論すべきだ。

――以上に紹介したような意見を、政治が社会保障制度の見直しに生かしてゆくことが必要不可欠である。

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