« 2011年7月 | トップページ | 2011年9月 »

2011年8月30日 (火)

国民無視のノーサイド

 民主党の総裁選挙で野田佳彦氏が勝ち、総理大臣の座を射止めた。立候補した5人の中では一番ましだと思っていたが、幹事長に輿石東参議院議員会長を指名したのにはびっくりした。

 野田氏は、総裁に選ばれたときのあいさつで、ノーサイドにしましょうと訴えた。党内の結束は当然のことである。しかし、党員資格停止中、つまり現在、党員ではない小沢一郎氏と最も近い党内有力者で、小沢氏の意思を代弁することが多い輿石氏を、幹事長に充てるというのはどういうことか。党の組織とカネを握る幹事長のポストを小沢一派に渡すことは、小沢氏の軍門に下るのに等しいのではないか。

 輿石氏は75歳で、後期高齢者にあたる。しかも参議院議員である。民主党は参議院では少数政党であり、同氏の民主党衆議院議員への影響力も乏しい。結局は小沢氏の威を借るしかないだろう。

 それに、小沢氏が幹事長などを務めたとき、党の資金37億円余を勝手に引き出した使途不明金問題は未解明であり、輿石氏もその件では1億円近いカネを受け取ったとされる。また同氏の出身である山梨県教職員組合が違法な資金集めをしたり、選挙運動に組合員を動員したりした事件を起こしている。

 そうした疑惑などを抱える輿石氏をよりによって政権運営の要となる幹事長にと考えた野田首相は、党内融和という内輪の事情を最優先し、国政を二の次に考えたのだろう。しかし、総理大臣であっても、幹事長がノーと言うようなことを推進することは難しい。まして、ねじれ国会である。

 内閣の編成はこれからだし、官房長官に誰を就けるかも首相にとってきわめて大事だ。しかし、輿石幹事長と新官房長官とが対立したら、おそらく幹事長のほうが強いだろう。

 まだ、野田内閣の発足前だが、幹事長人事は野田内閣のゆくえを決定づけるような出来事になりかねないような気がする。党の綱領もなく、政治家としての素養も経験もないような連中が小沢氏の手のひらで踊り、民主党内も国会も、国民の幸せはどこ吹く風、権謀術数の渦巻く場になるおそれがある。

 昔、映画で、主人公のむっつり右門が「うん、貴公、青いよ、若いよ」と年配の同心、あばたの敬四郎に皮肉られる場面があった。それを思い出す。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年8月26日 (金)

変な党、変な新聞

 26日の朝日新聞朝刊は一面トップで「小沢氏、前原氏不支持へ  民主代表選 鳩山氏と一致」と大きな見出しの記事だ。どうして「党員資格停止中の小沢氏‥‥」という見出しにしなかったのか、朝日新聞の見識を疑う。

 25日の夕刊「素粒子」は「人事とカネをよこせ。党員資格が停止中の人に牛耳られる変な党。この人の「ベターな選択」で首相が決まるの?」と書いている。民主党総裁選(次の総理大臣を選ぶのに直結している)の本質を報道すべき新聞は、小さなコラムで重要な情報を伝え、朝刊一面トップで、何とも恥ずべき愚劣な権力抗争の経過を大々的に報じるのか。それこそ本末転倒ではないか。

 田中角栄が“闇将軍”としてキングメーカーだった時代は、日本政治の後進性を内外に印象づけた。今回、新聞は、田中角栄の再来であるかのように、喜々として小沢氏の一挙手一投足を取材し、報道している。新聞記者はまるで小沢氏が党員資格停止中であることを忘れたかのようである。

 新聞が規律のない報道をしているのは、鳩山由紀夫前首相に関しても同様だ。首相辞任のとき、政治家をやめると言った鳩山氏はその後、平然と翻意して、政治家(政治屋?)を継続している。そして前原誠司氏らの総裁選出馬に対して、あれこれ注文をつけている。自らの政治資金疑惑に対し、きちんとした釈明をしないまま今日に至っているくせに、前原氏の政治資金問題をあげつらっている。そんなでたらめな人物を大物のように扱う新聞報道は、鳩山氏本人を思い違いさせる。

 総裁選に名乗りをあげている海江田万里経済産業相も、国会で涙を流し、辞職の意思を表明したのに、菅総理大臣が辞職を表明した26日まで辞めなかった。辞めると言ったらさっさと辞めるのが当たり前だが、それさえも民主党の要人は平然と翻す。まともな人間が民主党幹部にどれだけいるのかとさえ思う。

 これからの日本を危うくする可能性が大きい民主党総裁選に対し、新聞は、過去のくせで速報主義にのっとってニュース報道している。問題の本質よりも、誰がどうした、どう言ったといった類いの速報ばかりだ。しかし、速報は電子メディアのほうが強い。そして、紙の新聞は衰退していく。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2011年8月25日 (木)

格下げは国債だけでなく、銀行、自治体なども

 米ムーディーズ・インベスターズ・サービスが24日、日本国債の格付けを1段階下げてAa3にした。一番上のAaaから数えて4番目のランクで、財政・経済危機下にあるイタリア、スペインより1段階下となった。長期デフレに東日本大震災が加わり、かつ、現在の政治情勢にみられるように、日本政府の財政改革への取り組みがおろそかになっているためである。

 この格付け引き下げに対し、野田財務相は「国債の入札は順調であり、国債への信認に揺らぎはない」などとバカなことを言っている。日本国の債務は主要国の中で突出して多く、財政健全化はわが国の焦眉の課題である。当然、総裁選でも政策の争点となるべきテーマである。党総裁選に出ようとする野田氏にとっては、マーケットへの影響を考慮して発言する必要があるとはいえ、財政改革に積極的に取り組むと主張する絶好の機会だったのに、それをみすみす逃した。

 今回の格付けに関するムーディーズの発表を読むと、いろいろな発行体の格付け引き下げが載っている。三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行もAa2から1段階下がってAa3になった。また、みずほフィナンシャルグループの傘下行はAa3からA1に下げ、さらに、この格付けを引き下げる方向で見直しの対象にしたという。

 邦銀の多くが格付け引き下げの対象になったが、その理由は何か。国債の格付け低下が示す日本国の経済財政力の低下により、1つには、金融機関が将来、危機に直面したときの政府の支援能力が低下しているのではないか、2つには、危機が到来したとき、政府はより重要な銀行だけを選別して救済する可能性が高まるだろう、と想定されるからである。

 また、ムーディーズは日本の政府系機関13と主要な県・市の12をやはりAa2からAa3に格下げした。日本高速道路保有・債務返済機構、日本政策金融公庫などの政府系機関は日本政府の債務格付けによって制約を受けているので、同じ格付けになった。

 静岡県、広島県、大阪市、名古屋市、福岡市などの格付けについても、「中央集権的システムとリスクの社会化という歴史に基づき、日本政府と自治体の結び付きが非常に強いことを反映、両者の格付けは同格と考えている」と説明している。

 ほかにも、電力、ガスなどの引き下げを行なった。一般の事業会社でAa3の6社(トヨタと子会社、信越化学工業、富士フィルムホールディングスなど)の格付け見直しを継続としている。

 このように、格付け会社の目からみると、日本という国家の経済力は明らかに衰えてきている。しかも、日本国政府のリーダーたちは、その事実を直視していない。そう判断しているのである。そうした指摘を日本の国民や政治家はきちんと受け止めるか、それとも無視するか、大きな分かれ道にある。格付けを「警報」と受け止めるべきである。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年8月23日 (火)

財務副大臣の「増税」への意見

 記者会見で質問にどのような答え方をするかによって、政治家の識見や力量を判断することができるように思う。財務省の記者会見の記録を読んでいると、五十嵐文彦副大臣のほうが、木で鼻をくくった話し方をする野田大臣よりも説得力がある。

 最近の記者会見で、五十嵐副大臣は丁寧に、かつわかりやすく答えている。こうした副大臣の発言を、きちんと報道することはメディアの役割だろう。

 「増税をやりたい政治家なんていない。安易な増税を提案している人は1人もいません。私たちは日本の将来を思って、今の日本の財政の状況からいって、これ以上あてのない財政の赤字の増大を看過出来ないという立場から色々な模索をしている。増税ばかりでなく、税外収入、節約、優先順位の見直し、その他の増収策も含めて、ありとあらゆる検討をし、止むを得ず最後の手段として増税が必要ならやらなければいけない。」

 「経済の足を引っ張るとすれば、日本においても財政の困難から来る実体の経済、あるいは金融に対する、社会に対する悪影響が大きいということを申し上げてきました。」

 「復興増税といわれる。この景気が悪い時に、円高の時に、法人税率を上げるのかと思う方が沢山おられると思います。私どもは、5%の実効税率を下げるということを提案していたんですから、法人税率を今のままで放置した方が税収が増える。ですから、それは増税じゃない。それなのに、増税になると騒いでいる人たちは物事がわかっていない人たちだと思います。」

 「復興債か増税かという財源の立て方自体が、マスコミの皆さんも含めて間違っていると思います。復興債は財源ではありません。復興債は将来の増税に必ずつながりますから。」

 「財政審の分科会で、民間のアナリストの方から、日本もソブリンリスクに見舞われる可能性がかなり大きいと。もし今のユーロ圏での危機が拡大した場合には、次はどこだという話が来て、必ず最大の財政赤字国である日本に目が向けられると。それは大変大きな危機だという分析がアナリストの方から示されたところです。私共もやはりそうだと思っています。」

 こういうまともな政治家がいるのに、民主党総裁選に名乗りを上げている閣僚や党幹部の見識や問題意識の何と低いことか。というわけで、国民の大多数は菅首相の後釜選びを醒めた目で見ているのではないか。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年8月20日 (土)

阪神・淡路大震災を研究した林敏彦教授の警鐘

 東日本大震災の復興の足取りはしっかりとしているのか。阪神・淡路大震災の復旧・復興対策に直接関わり、かつ経済学者として、その過程を分析・研究してきた林敏彦同志社大学教授が19日、日本記者クラブで東日本大震災からの復興に向けて問題点を語った。

 その中から、いくつかポイントを紹介する。

・直接の経済被害額は阪神・淡路の9.9兆円に対し、東日本は林教授の推定では32兆円に達する(福島原発事故による被害は含まない)。ちなみに、被害推計はこれまで全部いい加減。例えば、今回、宮城県の住宅全壊を警察庁は7万戸と言っているが、県などほかは7万棟と言っている。1棟はほぼ3戸だ。明らかに、どちらかが誤っている。

・復旧・復興というが、復旧は法律で定義されている。復旧とは、死者などあらゆるものが還ってこないのに、施設だけを元通り、原形に戻すこと。復興は法律もないし、定義もない。新しい歴史をつくることであり、エンドレスである。

・大きな災害があると、災害ユーフォリアないしユートピアが生ずる。人々は皆、善人になるし、経済は活況を呈する。今回は3~5年か。長くは続かない。このユーフォリアのエネルギーを生かすことができるかが大事だ。その間にできるのは増税だと思う。タイミングを見計らって国民を説得するのが政治である。いまの政治はこのユーフォリアの活用ができていない。

・阪神・淡路のあと、兵庫県の実質GRP(地域内総生産)をみると、ユーフォリアの時期があったことがはっきりわかる。しかし、公共事業で供給サイドを元に戻したため、ピッカピカのゴーストタウン、シャッター商店街ができた。そして、日本経済に占める兵庫県のウエートは下がってきて、長期的な地盤低下がうかがえる。東北3県も、兵庫県のように、3年位のユーフォリアのあと、兵庫県のように沈んでいく可能性がある。

・東日本大震災後の復興需要で数年は食える。しかし、あと何が残るのか、どうなるのか、復興構想会議の報告はその点の言及が乏しかった。

・神戸には魅力があるから、新しい人が流入した。震災で出ていった人の7割位は戻ってこなかった。東日本大震災後、被災地から出ていった人はそっちで生活の基盤ができるので、ほとんど戻らないだろう。新しい魅力で人々を引き付けることを本気で考えねばならない。さもないと過疎化する。災害に強いゴーストタウンができるだけだ。

・東北復興の話は、同時に人口減少と高齢化が進む日本の話だ。東北で復興に失敗したら、日本の未来はない。日本は東アジアやBRICsとどう結び付いていくかを本気で考えなければならない。それと、エネルギーの地産地消、福祉の地産地消など、地産地消型経済モデルを打ち立てる必要がある。

・消費税引き上げは、東北3県は上げず、他は上げるというふうにしたらいい。阪神・淡路のとき、それと同じ構想を打ち出したが、当時の大蔵省はこれをつぶした。阪神・淡路大震災後、いろいろ復興のアイデアを民間から出したが、政府は反対してつぶした。アイデアをつぶすことに熱心な政府だ。

・原発事故では、家も田もそのままあるのに、被害が出ている。これについては、国が全部買い上げ、そして、将来、住める条件が整ったら、国から買い戻せるというのがいい。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年8月19日 (金)

コップの中の争い

 もしも、いま衆議院を解散したら、民主党は政策として国民に何を訴えるのだろうか。災害復興、エネルギーをはじめ、社会保障、税・財政、外交・安全保障、地方自治、産業振興、雇用などを総合したどんな政策体系を打ち出すのか、と考えると、おそらくきちんとした解は出てこないと思う。マニフェストは空中分解してしまったし、党としての綱領を持たず、また、つくろうともしていないのだから、民主党から立候補する人たちは、これまでの政治の中から適当に、都合のいいところだけをつまんで民主党の“実績”を誇ったり、個人の意見や考えを有権者に訴えるだけにとどまるだろう。

 それで民主党が総選挙で勝利することができるほど、国民は甘くない。大敗北は確実である。したがって、民主党の現在の最大の関心は、絶対に衆議院解散をせず、権力の座に座り続けることである。

 菅総理大臣の退陣を前提に、そのあとがまをめぐる民主党内の総裁選が行なわれる見通しだ。しかし、誰が後継者になろうとも、民主党は何をする政党かあいまいなままでは、国民の信頼は回復しない。当然のことながら、災害復興、財政健全化など諸課題の解決も、なかなか進まないだろう。にもかかわらず、総裁選に我こそはと名乗りをあげる民主党政治家が次々に出てくるというのはどうしたことか。

 野田佳彦、馬渕澄夫、樽床伸二、鹿野道彦、海江田万里‥‥といった人たちは大臣や党の要職についた経験があるが、普段、彼らが国政の諸課題について自説をぶったという話はまず聞いたことがない。閣僚の集まる会議で、かんかんがくがくやりあったということも寡聞にして知らない。したがって、この国をどう立て直したいのかといった総合的な識見が彼らにあるのか、未熟な政治家ばかりの民主党を引っ張って、望ましい政策を実現するリーダーシップがあるのかどうか、国民にはわからない。彼らの力量は未知数である。いずれも、政治家となった以上、総理大臣になりたいという“なりたがりや”ばかりなのかもしれないのだ。

 また、この後継者争いでは、民主党が国政を担当してきた2年間の総括・反省がきちんと行なわれそうにない。やろうとすれば収拾がつかないからだ。これは主義・主張が異なるさまざまな政党および政治家が反自民だけで結集した雑居政党の本質を示すものである。

 民主党におけるポスト菅の選出は、メディアでおもしろおかしく伝えられようが、いずれにせよ、本質的に問題がある。解散して民意を問うのが第一だ。

 経済界で、民主党の“応援団長”だった稲盛和夫氏は雑誌「文芸春秋」9月号の対談で、安岡正篤の言う「知識、見識、胆識」を備え、かつ基本的なモラルを十分に持った人を新しい首相に選んでほしいと語っている。民主党の中から選ばれるという暗黙の前提があるように思うが、稲盛氏の求める人物が首相になったとしても、民主党の抱える本質的な問題点に手をつけない限り、わが国の政治は漂流を続ける。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年8月15日 (月)

税理士界の危機意識

 日本税理士会連合会の会報「税理士界」の8月15日号を読んだ。本年は税理士法が制定されてから60年という。日税連の主張を表すコラム「源流」は「税理士は今、何をすべきか」と題する文の中で、日本の現状を次のように認識している。

 ――日本では遅々として(日本を取り巻く世界の環境のすさまじい)変化への対応が進まず、権力支配、利権・既得権益による金力支配、そして政治の混乱に明け暮れている。生活保護世帯が200万人に達する現状が示すように、「依存型文化」への変化も危惧されよう。「何とかなるんじゃないか」という雰囲気が蔓延し、すべての国民の「危機感欠如」が更に危機を招いている。――

 そして、「このままでは税理士業界の退潮も避けられない」と述べる。中小零細企業は過去15年間で50万社以上減っている。また、赤字体質の法人がほとんどだという。「はたして今までのような業務形態でいいのか、いよいよ正念場の時代を迎えたのではないか」とまで言う。

 別のページにあるコラム「発言席」は、鶴田悦道氏(東海会)が「租税教育の重要性と公益性への拠出」と題した投稿であるが、「なぜ税を納めるかという問いについて、考える機会が果たしてどれだけの人に与えられているのだろうか」と問題を提起している。

 租税の役割や申告納税制度の意義、納税者の権利・義務を正しく理解するのは民主国家の国民のイロハのはずだが、日本では、源泉徴収と年末調整だけの人が大部分。「ゆえに「税」への関心は増税か減税かに集中し、選挙立候補者は減税を謳わなければ当選できない」、「納税の意識が希薄である。欧米諸国と比べても、その意識の低さは顕著である」と指摘する。

 そして、米欧の国民は税金が国を支える基盤であることを子供の頃から教育の一環として教え込まれているという。「租税教育の充実は、国民の政治参加を促し、納税への理解を得、公共サービスに前向きに拠出できると考える(ようになる)」と書いている。

 従来、ややもすれば、特権にあぐらをかいているようにみえた税理士界にも、自らの将来に対する危機意識がかなり芽生えてきたようだ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年8月12日 (金)

食料自給率への疑問

 カロリーベースの食料自給率は2010年度に39%となったと農林水産省が発表した。国内で供給される食料のうち、国産でどれだけまかなえているか、という指標とされ、政府が食の安全保障を主張する大きな根拠となっている。だが、『農業で稼ぐ!経済学』(浅川芳裕、飯田泰之著、2011年7月刊、PHP研究所)は、そうした国の政策に真っ向から疑問を呈していて、刺激的だ。

 まず、農水省が発表する自給率を政策に使用する国は日本だけ。主要先進国では使われていないという。国際社会に共通する食料安全保障とは、①国民が健康な生活を送るための最低限の栄養を備えているか、②貧困層が買える価格で供給できているか、③不慮の災害時でも安全に供給できるか、の3つだという。

 カロリーベースの自給率が高い国というのは、「経済力がなく農産物に対価を払えない、もちろん、食料の輸入自体が難しいといった、途上国の農業なのです。貧しいがゆえに自給率が高くならざるをえない‥‥」と指摘している。

 同書によると、国民1人あたりの年間農産物輸入額(試算)はイギリス690ドル、ドイツ617ドル、フランス557ドルで、日本はそれらの国の半分程度、324ドルだという。1人あたり輸入量でも、フランス593㎏、ドイツ570㎏、イギリス557㎏、日本は437㎏である。

 GDPに対する農産物輸入比率はイギリス1.9%、ドイツ1.8%、フランス1.7%、日本は約半分の0.9%である。そして、年間農産物生産額では、日本は世界第5位の農業大国で、フランス、ドイツ、イギリスやロシア、オーストラリアを超えている。ちなみに、第1位は中国、次いでインド、米国、ブラジルという順番だ。

 また、特定の国から小麦を輸入しているのは高品質の小麦を安定的に買えるからで、小麦輸出国自体は100ヵ国以上もあるので、品質が多少悪い小麦ならいくらでも買えると述べている。

 このほかにも、同書の内容はきわめて刺激的だ。人口に占める農家の割合はイギリス1.7%、ドイツ2.2%、フランス2.9%だが、日本は3.4%。「農業人口の減少は経済発展の証といってもよい。そのなかで、日本の農家人口はまだ多過ぎます」という。

 「高齢化などによる農家人口の減少は、日本に限らず先進国では共通の現象」。少数精鋭の農業者が食を担える先進国に成長するというのが先進国共通の経済段階だという。高齢化については日本よりも他の先進国のほうがよっぽど深刻だとも言及している。

 「農家」、「販売農家」、「主業農家」、「準主業農家」、「自給的農家」、「農業従事者」、「農業専従者」、「基幹的農業従事者」などの定義についても、同書は詳しく触れている。外部者にはわかりにくいうえに、過去の農政の歪みが反映した農業統計の問題点を素人に教えてくれるのも、同書のすぐれた点だ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年8月11日 (木)

五十嵐財務副大臣「世界的に国債の満腹感」

 6月末現在の国債及び国の借入金は943.8兆円になった。3月末に比べ、19.5兆円増えた。うち、内国債は767.9兆円で9.4兆円増加した。その中で、普通国債を見ると、10.8兆円増の647.1兆円に達した。

 赤字国債法案が今月末までに成立する見通しとなったが、それにより、新たに37兆円程度が上乗せされる。建設国債を含め、40兆円を超える国債が今年度に発行される公算が大きい。

 財務省の五十嵐文彦副大臣が8日に記者会見した。最後の質問に対する発言をそっくり引用する。「イタリアの金利がスペインより高くなってしまったということに象徴されるように、やっぱり世界的に国債の満腹感というか限度が近付いているという認識があると思いますね。ですから、日本についても、95%が国内消化だからといって安心し切っていいというわけではないという認識を私は少なくとも持っております」と言う。

 そして「復興で投資先が出てくる、お金の使い道が出てくる、そういう時こそ金利が上昇しやすい、逆に言うと、金利が上昇すれば価格が暴落しやすいという状況になるわけですから、慎重にこれから、今までもそうですけれども、これからはより一層慎重に国債政策というのは考えていかなければいけないということだと思います」と述べている。

 英国では、緊縮財政への国民の不満が最近の都市暴動の背景にある、といわれる。ユーロ圏のギリシャなど中小国の混乱も、破綻した国家財政を立て直すための緊縮財政が大きな要因となっている。日本の危機的な国家財政も、数年ならずして似た状況を招くおそれがある。五十嵐副大臣の発言は、そうした認識にもとづいているように受け取れる。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年8月 7日 (日)

公務員給与総額2割削減の公約は忘れたの?

 民主党と自民・公明両党は子ども手当と児童手当の折衷案のようなもので合意に達したようだが、それで赤字国債法案が国会を通ることにはならない。高速道路無料化など、民主党のばらまき政策がまだまだ撤回されていないため、自民党が強硬に反対しているからだ。

 だが、不思議なのは、民主党が政権奪取のために掲げたマニフェストで、公務員給与総額の約2割削減を明記したのに、民主党も自民・公明両党も、この実行について全く触れていないことである。(みんなの党は8月5日、国家公務員の人件費総額を20%以上削減する法案を提出した)

 すでに、民主党政権は、本省課長補佐8%、係員5%の給与カットなどを盛り込んだ法案を提出しているが、審議も何もされず、棚上げ状態だ。公務員・労働組合にとっては好都合である。しかし、国家公務員給与の2割削減を実施すると、これに準拠する地方公務員の給与も同様な削減を期待できる。国としては地方交付税交付金の削減につながる。両方を合計すると、ざっと5兆円の歳出削減に相当する。

 民主党政権はマニフェストのばらまき政策を撤回ないし修正することに猛烈に抵抗している。その一方で、公務員給与に関してはマニフェスト通りに実施しようともしない。民主党の政治家はカネで票を買うことしか頭にないのだろう。

 2011年度国家予算(一般会計)では歳出規模が大きく、そのため税収に匹敵する新たな“借金”をしようとしている。これが実現すると、日本の国家財政はGDPの約2倍の“借金”残高を抱えることになる。そのことを与党の政治家は異常だと思わないのだろうか。

 米国において、政府が債務上限引き上げを求め、これに共和党が強く反対し、もめた。結局、上限引き上げと歳出削減との抱き合わせで一応決着したが、米国債の長期格付けについてS&PがトリプルAからダブルAプラスに1段階引き下げた。米国の国家財政がそこまで悪化したからだが、日本の国家財政は、米国よりもはるかに深刻である。

 菅総理大臣は自分の興味のある問題にしか関心を示さなくなっている。だからといって、米国財政の緊迫した状況にも、また、日本の赤字国債法案の実現にも見向きもしないのは明らかに異常である。民主党の内部から総理大臣をやめさせる具体的な行動が出てこないのもこれまた異常だ。

 ところで、人事院が国家公務員の定年延長に伴い、60歳超の給与水準をそれ以前の約7割に減らすなどの素案をまとめたという(日本経済新聞8月7日付け)。人事院は民間準拠を建前としている。だが、調査対象の民間事業所は50人以上で、中小企業の多くは対象外。また、国家公務員は民間と違って60歳まで賃金は上がる一方。そうした問題点を改めないで、雇用延長するのは民間より優遇するという話で、国家財政への負担は重い。

 人事院は霞が関の官庁の1つ。公務員給与の水準を決めるのは、自分たちの給与水準を決めるのと同じで、お手盛りになりやすい。しかも天下りで他省庁にお世話になってきたから、霞が関の官僚にきらわれるようなことはしない。経済産業省と原子力安全・保安院との関係とは違うが、人事人もまた本質的な問題を抱えている。本来、国家公務員の給与などは霞が関とは利害関係のない公正な第三者が国民の立場を踏まえて決めるべき筋合いのものである。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年8月 5日 (金)

寸又峡、接岨峡のある川根本町に行ってきた

 今週、静岡県の大井川に沿ってSLが走る大井鐡鉄道で金谷から千頭に行き、そこからバスで寸又峡を訪れ、そこの温泉宿で一泊。翌日はアプト式機関車が一部区間を走る井川線で接岨峡方面へ。

 接岨峡の手前の奥大井湖上駅で下り、レインボーブリッジを歩いて渡り、猿がいる山中を抜け、南アルプス接岨大吊橋へ。八橋小道を経て接岨峡温泉駅近くまで歩いた。

 かれこれ30年以上前のことだが、友人が寸又峡で心臓発作を起こし、死にかけたことがある。そんな記憶もあって、寸又峡温泉は大きな温泉町だと思い込んでいた。ところが、旅館、民宿などを合わせても20数軒しかない、ひなびたところだった。また、もっと遠くにある接岨峡温泉はわずか4軒にとどまり、昼食をとろうにも、一軒しか店がなかった。

 どちらの温泉町も、南アルプスに入るのだろう、山々の連なり、濃い緑、そして蝉や小鳥の鳴き声、大井川の本流、支流の景観など、自然の素晴らしさを堪能した。寸又峡ではネーチャーガイドに夢の吊り橋方面を案内してもらったが、歩いた道は、かつて営林署が伐採した木材を運ぶために鉄道が敷かれていたという。山の急な斜面には、杉、檜といったかつての植林が成長していたりもした。自然と思ったのが、実は人の手が入っていたというわけだ。

 大井川鐡道はもとは木材などの運搬のために敷設された。千頭から井川までの井川線も、もともと中部電力の井川ダム(発電用、1957年完成)建設の資材運搬のために設けられた。国土交通省が建設した長島ダム(多目的ダム、2002年完成)は井川線の途中にあるが、建設中は資材運搬に井川線を利用したことだろう。いまは、「奥大井の美しい自然」などと言うが、開発という人の手が随分と加わっているおかげで、私たちは容易にこの南アルプスの自然を楽しむことができる。

 接岨峡温泉のあたりは、長島ダムの建設で多くの農地が湖底に沈んだため、80世帯あまりあったのが30世帯あまりに減り、いまでは20数世帯にまで減ったという。大井川上流の一帯は川根本町といい、人口が8千人ちょっと、3千世帯弱。かつての林業が衰退し、いまは川根茶ブランドで知られるお茶の生産が主な産業、それも従事する人の数が徐々に減っている。したがって観光、旅行客に期待がかかっているようだ。

 今度の旅行では、川根本町まちづくり観光協会が中心になって泊り客誘致に猛烈に力を入れており、業者や町民たちもそれを支えているのを実感した。県内で一泊すると、大井川鉄道のフリー切符が半額になる。宿泊費が一定金額以上だと買い物券(川根本町のどこでも使える)をもらえる。ただし、ここがミソであるが、その買い物券を発行した当の宿泊所では使用できないようにしている。また、観光協会の職員がネーチャーガイドを務めている。寸又峡温泉では小さな盆踊りを地元の観光事業協同組合が主催していた。地元経済のため、皆さんが助け合ってがんばっているという印象を受けた。

 また、SLに乗ったが、車窓から見ていると、沿線の茶畑で働いている農家の人の多くは手を振ってくれた。地域の経済に貢献する鉄道・観光事業が大事なことを理解しているせいかなと想像した。

 その昔のSLと違って、大井川鐡道のSLは焚く石炭が無煙に近いため、真っ黒な煙を吐くことはない。客車は窓を開けっ放しで、冷房装置もない。何ともエコである。全体として気持ちのよい旅だった。例年なら、夏休みはお客で一杯だそうだが、駿河湾地震のすぐあとだったせいか、往きも帰りも半分以上、席が空いていた。当方には、それもよかった。 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年8月 2日 (火)

続・信念なき政治家、菅首相

 テレビで中国の故・周恩来の特集を見た。中国共産党の権力者、毛沢東のもとで首相を長く務めた周恩来は地位におごることなく、実に公私をきちんとわきまえていたという。また、首相として国政のすみずみにまで目を配り、共産党による政治支配の安定を最優先して、毛沢東が極論に走ることがあっても異を唱えることなく追従したという。

 国も時代も違うが、最近の菅首相は原発・再生可能エネルギーなど、ごく限られた問題にしか関心がないようにみえる。視野狭窄の状態である。

 原発とそれにとって代わる再生可能エネルギーの話となると、菅首相は生き生きとする。長野県茅野市で開かれたNPO主催の新エネルギー問題のシンポジウムに、わざわざ飛び込み(NPOとは話ができていた)で参加し、あいさつした。そこでも、経済産業省と原子力安全保安院との関係がおかしいという話をした。格好の攻撃対象を見つけた菅首相はバカの一つ覚えみたいに、ぶっていた。

 最近の大きなニュースは、極端な円高とドル・ユーロ安、それに米国の債務上限引き上げ問題である。1㌦80円を切って77円程度まで円高が進み、輸出関連の産業・企業は収益が相当に悪化している。電力供給不安はいまの情勢では来年以降も続きそうである。大震災からの復旧・復興も遅々として進まない。民主党政権は増税に真っ向から取り組まず、バラマキ体質はほとんど変わらない。財政健全化をまともに考えている政治家はほとんど与党にはいない。

 オーバーに言えば、日本経済にとっていいことは何もない。このため、国内経済の縮小などを見込んで、企業は海外への投資を増やし始めた。国内の拠点はいずれ縮小に向かおう。雇用にもその影響が及ぶ。

 このように、国内経済や雇用情勢の先行きはかなり厳しいとみられるが、菅首相はそうした重要な国内問題に全然関心を示さない。災害復旧・復興のテンポを早めるための努力も全然しない。官僚、民間人を含め、自分の取り巻きともっぱら接し、記者会見も、自分の都合のいいときしか行なわず、質問にはろくに答えない。茅野市のシンポジウム参加はそのいい例だ。

 民主主義国家では、首相たる者、自分が何を考えて政治をしているのか、を国民に絶えずわかりやすく発信するのが政治家としてのイロハである。記者会見の質問がお粗末なことは少なくないが、それでもメディアを通して伝える努力は必要である。

 菅首相をはじめとして、それが常識でないのは、本来、政治家になってはいけない人たちばかりが政治家(屋)になっているからだ。国民もまじめに考えることなく、外見や、付き合いとか商売などの関わりで、本来、政治家にふさわしくない人たちに投票してきたからだろう。現在の政治状況は国民の側にも大きな責任がある。

 現代中国は発展の急ぎ過ぎに伴うひずみがいろいろな形で現われている。日本は民主主義国家の基本すらわきまえない政治家や国民のエゴが噴出したまま収拾がつかない混迷ぶりを示している。どっちの国も、まともになるのはいつのことだろうか。

| | コメント (0) | トラックバック (2)

« 2011年7月 | トップページ | 2011年9月 »