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2012年5月 3日 (木)

『驚きの介護民俗学』のおもしろさ

 介護施設で働きながら、入所者・通所者の個人史を聞き、まとめるという形で民俗学を追究している六車由美氏の著書『驚きの介護民俗学』を読んだ。先に、このブログで、介護事業を経営しているご夫婦から聞いた苦労話を紹介したが、本書では、また新しい知見を得た。

 介護されている高齢者は身体が不自由で、かつ多くが認知症にかかっている。それに、保険制度に代わり、政府が面倒をみるという意味の「措置」ではなくなったとはいえ、世話される側にはどうしても心理的に負い目がある。他方、施設の職員は人数が限られ、食事、排泄などの世話で忙しいので、入所者・通所者の一人ひとりとまともな会話をすることはない。そう私は思っていた。

 しかし、同書によると、六車氏は、かなりの認知症にかかっている入所者・通所者への介護を通じて、その人の体験を聞き書きできるようになる。過ごしてきた時代、暮らしぶり、仕事、家族関係などについてである。話があっちこっちに飛んだりするが、同氏の知らないことだらけだから、聞き出す苦労以上に驚きと感動がある。そして、著者に聞かれて答える認知症の高齢者にとっても、教えてあげるという喜びがあるという。

 認知症と聞くと、言うこと為すことが異常だと思いがちだが、それはその背景が私たちにわからないかららしい。本書を読むと、その人の生きた時代ならおかしくないことだとわかったりする。認知症の進行で、記憶が次第に失われていくことは確かだが、残っている記憶を、このように介護しながら聞き取ることによって記録するというのは民俗学の新たな地平だろう。

 六車氏は聞き書きを本にし、話してくれた本人や家族に差し上げたりしているとのこと。家族はこれを読んで、初めて老親の経てきた過去に敬意を払うこともあるという。

 ところで、介護民俗学から話はそれるが、私はリタイヤーした高齢者から、その人の個人史を聞くことが好きだ。同じような時代、場所に生きていながら、全く異なる体験をしていることが少なくないからである。

 学生時代、どんなアルバイトをしたかの1つをとっても驚くことがある。東京都多摩地区の大規模開発の際、墓地を移転する作業を、早稲田大学の学生が高給のアルバイトでやっていたという。お骨を掘り出してきれいに洗い、包装するなどで何日も通ったとのこと。書かれざる歴史である。

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