« 良薬は口に苦し:新政党の誕生と再編 | トップページ | 旅の思い出3つ »

2012年12月 7日 (金)

総選挙で避けている論点

 猪木武徳著『経済学に何ができるか』(2012年10月刊)の「第1章 税と国債」にこういうくだりがある。「国民が公共サービスを受ける権利のみを主張し、その財源となる税金を納める義務を怠れば国家は破綻する。」、「納税なくして立国はない。」

 そして、「国債の累増を批判しつつ、同時に増税反対を叫ぶのは、両立しえない「二重思考」だと認めることが必要」だとしている。

 また、「第2章 中央銀行の責任」では、「現代ではデフレ時の金融政策の成長促進効果が過大評価されてはいないだろうか。」、「金融政策が常に(市中で資金がダブついているときでも)成長に対して強い威力を発揮すると信じ込んでいる人は、成長政策が行き詰まると、王子を叱れない教師が「王子の学友」を身代わりにムチ打つように、中央銀行の不作為を責めるのである。」とも述べている。

 総選挙における立候補者・政党の発言や公約を読んだり、聞いたりしていると、上記のように同書が批判している部分にぴったり合うところがある。消費税増税反対を声高に叫ぶ候補者・政党が、同時に福祉政策・社会保障の充実をうたっていたりする。デフレ脱却のため国債をもっと多く発行し、日銀にこれまでよりも大量に国債を取得させるという政党総裁もいる。いずれも、政治家としては相当ひどい視野狭窄で、日本の将来を危うくするおそれが多分にある。

 今回の総選挙において、真正面から提起されていないが極めて重要な視点は、日本国が縮小する過程に入り、社会のさまざまなシステムをそれに適応させていかなければならないということだ。誰もが実感する通り、高齢化は年々顕著になっており、高齢者がまともに暮らすことすら容易でなくなっている。医療・介護などのニーズは増えるばかりだ。一方で、若い世代の就業や生活は厳しい状況にあり、少子化も進行している。

 経済活動も、グローバル競争で後れをとり、国内の製造業が占める地位は低下の一途をたどっている。農業など第一次産業は高齢者の引退で就業者が減り続けている。TPPうんぬん以前に従事者が少なくなり、このままでは休耕田だらけになりそうだ。

 笹子トンネルの天井板崩落で高速道路のチェックが始まったが、高度成長時代およびそれ以降にたくさんつくられた道路、橋梁、ダム、上下水道、市民会館など広義のインフラが老朽化している。このため、それらの維持補修や取り替えのニーズは増える一方である。

 脱原発のトレンドはよしとして、原発廃止に伴う諸費用のねん出も膨大なものとなろう。このように、歳出の需要は膨むものの、国家財政はそれらに応じることは不可能である。

 したがって、すでに積み上がった国・自治体の巨大な債務を考えると、増税と、歳出のムダの徹底的な排除、既得権擁護の是正が目の前の緊急な課題である。例えば、医療においては、カルテの電子化、医療機関間での検査データ共用、薬局の点数削減などが不可欠だ。高齢者の自己負担が低すぎるのも改めるべきである。農業では、農地の売買自由や株式会社の参入が求められる。

 そうした荒療治をしないと、明るい未来展望は拓けない。今度の総選挙でどのような政権ができるにせよ、残念ながら、過去の成長の幻想にとらわれたものにとどまる。

 

|

« 良薬は口に苦し:新政党の誕生と再編 | トップページ | 旅の思い出3つ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/184848/56269967

この記事へのトラックバック一覧です: 総選挙で避けている論点:

« 良薬は口に苦し:新政党の誕生と再編 | トップページ | 旅の思い出3つ »