« 2013年5月 | トップページ | 2013年7月 »

2013年6月30日 (日)

金融取引税(トービン税)の勧め

 日本の株式や外国為替の相場が荒っぽい。どっちに動くかの方向感覚もつかめない。米国の経済や金融政策の動向、また巨額の資金を抱えるファンドの資金運用のいかんなどが世界のマネー市場を振り回しているからだ。また、あらかじめ高速回転運用などのプログラムを用いる機関投資家に対し、個人の資金運用はまともに太刀打ちできない。(ある知人は、「外国のファンドなどがもうかるようになっている。もう株はやめた」と言っていた。)

 さらに、世界に投資する巨額のファンドなどが売りとか買いとかの一方向に動くと、一国の経済すら大きく揺らぐ。90年代後半のアジア通貨危機はまさしくそれだったが、グローバルな資金運用が各国経済を振り回すリスクは高まる一方だ。

 そうした中で、注目したいのは、ドイツ、フランスなどEUの11カ国が共同で金融取引税の導入へと踏み出したことである。いわゆるトービン税である。2014年1月にも実施すると見込まれている。諸富徹著『私たちはなぜ税金を納めるのか』は、このトービン税の意義などについて教えてくれる。

 国境を超える金融取引は、1990年に世界GDPの58%だったのが、2004年には130%にも膨らんだ。また、世界貿易も1980年から2005年に実質5倍に増えた。対外直接投資も顕著に増大した。

 変動相場制→リスク回避のため金融派生商品が開発された→投機的な通貨取引が増大→金融自由化で、国際的な通貨取引は1989年から約20年のあいだに8倍近くに増えたという。先進各国は資産バブルの発生と崩壊で金融ショックを受け、実物経済が打撃を受け、不況になった。

 また、グローバル化によって、租税構造が変容した。金融所得のように移動性の高い税源に対する税率は低下した。反面、労働所得や消費、土地・不動産のように移動性の低い税源は税率が上がった。結果として、富裕層の税負担は軽くなり、低所得層のそれは重くなったという。このため、公平課税の原理が崩れつつあると指摘している。

 ICT(情報コミュニケーション技術)を背景にした金融取引税は、こうした問題点に対応するもの。リーマンショックで国が銀行救済に乗り出したことに、個人預金者たちが反発したという背景もある。この税を導入すると、1分間に数千回もの高頻度取引を抑制し、マーケットの極端な上げ下げを押さえることになろう。また、金融取引税は売りと買いの両方に課し、税収は各国の歳入となる。

 日本もまじめに導入を検討する時である。

 

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年6月22日 (土)

大卒就職最前線

 長期デフレのため、日本の企業の正社員採用は長い間、しぼりこまれたまま。学生や若者にとって氷河期はいまも続く。そうした中で、どのような変化がうかがえるのか、大学新卒採用事情にくわしいメディアのNさんに聞いた。――

・大卒者への求人総数はリーマンショック以降、減少しているが、卒業学生数も減少傾向。内定率は10月1日現在の発表数字(2012年は63.1%)が実態に近い。製造業では採用数は毎年5%ないし10%ずつ減っている。中小企業の採用はリーマンショックで激減し、そのまま。新聞などで大々的に報じる4月1日現在の内定率(2013年は93.9%)は、就職できなかった学生を計算の分母から除くなどして粉飾されたもの。

・人気の一流企業は採用数が年1.6万人か1.8万人で、旧帝大、一橋、東工大、東外大、早慶の有名校だけで毎年4.2万人卒業する。そして、ネットの時代なので、応募学生数はメガバンク1行で5、6万人、大手企業で3万人とかいう。したがって、特定の一流大学にしぼるとか、英語力でしぼるとか、あるいは役員の出身校だとかで選ぶとか、”ターゲット採用”が行われているという。

・個々の大学が100社とかまとめて企業を呼んで学内で開催する会社説明会が増えている。学生が怪しげな会社などに行く危険が少なくなる効果も。

・学生の多くは内定を得ても、もっとよいところをめざして就職活動を続ける。そして、就職しても、何割かは、いまよりもよい勤め先を求めて転職情報を送ってもらうようにしている。

・従来の採用の仕方では、その人が会社のような集団の中でうまくやれるか、波長が合うかがよくわからない。そこで、しぼった何人かの学生と社員とが一緒になって懇談する場を設けるところが増えている。

・グローバル人材について、会社が求める要件はまちまち。日本人学生を採用してきたえる企業のほか、外国の有名大学に直接、採用活動を行なうところも出てきている。ただ、学生のほうは、中国で日本企業をねらった焼き打ち事件のあと、海外志向が弱まった。

・反社会的なビジネスとか、労働法無視やパワハラ・セクハラがひどい会社は”ブラック企業”に該当するが、ネットで噂が広がったX社については、実力主義の会社という視点もあり、どっちなのかの線引きは難しい。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年6月19日 (水)

”オレオレ詐欺”、M資金などの巧妙さ

 オレオレ詐欺の被害が減っていないらしい。狙われるのは高齢の女性という。事件が新聞などでよく報じられるが、新聞を読んでいなければ、詐欺か?という疑問が頭をかすめることもないのかもしれない。

 こうした事件の被害者は、息子と普段、ろくに話をしていなくても、母親として子供のことを気遣う気持ちは変わらない。そこに詐欺師たちはつけこんでいるのだと思う。父親がまず被害者になることはない。子供に対する愛情や思いが父親と母親とでは違う、ということに気付いている詐欺師たちは心理学のプロ?かもしれない。

 それにしても、何百万円とか1千万円を超える大金を、すぐさま用意するというのはすごいことだ。普通の人なら持つだけで緊張するほどの大金である。それなのに、被害に遭った高齢女性たちは、息子を助けるためと思ったら、ためらいもなく大金を持参したり、渡したりしているらしい。

 しかし、オレオレ詐欺の報道を受けて、10人が10人、「自分ならひっかかるはずはない」と思うだろう。私もそう思うが、個人的な体験からすると、詐欺師や詐話師のだましのテクニックには感心することもある。

 現役記者時代、M資金のことを記事にしたら、読者から電話がかかってきた。そして、「いい記事だが、1ヵ所だけ記事に誤りがある」と言った。記事にある誰それの御落胤というのは、いまも実在しており、どこそこに住んでいると、おおまかに場所まで挙げた。こちらが疑問を呈すると、丁寧にこたえる。その繰り返しをしているうちに、ひょっとしたら、この人の言う通り、本当に存在するのかもしれない、会えるなら会ってみたいという思いがちらと頭をかすめたほどだ。

 ことしになって体験したのは、知人から来た、助けを求める英語文のメールである。海外旅行に行っている滞在先からで、資金援助をというものだった。パスポートやクレジットカード、現金などの入ったバッグを盗まれて、動きがとれない、ホテルの支払いもできないし、帰りの航空便チケットも買えない、お金を送ってほしいという内容である。もっともらしい体裁をとっていたので、いくらか送金したらいいのかなと思ったが、どこか文章がおかしいという感じがしたので、ほおったらかしにしておいた。そうしたら、しばらく日を置いて、当の知人から、メールアドレスを盗まれたと知らせてきた。

 油断も隙もないように。そうでないと、いつ詐欺にひっかかるかもしれない。オレオレ詐欺にひっかかる人は愚かなどと決めつけるのは自分への過信である。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年6月16日 (日)

空疎な感が強い”骨太の方針”

 政府が14日の閣議で決めた「経済財政運営と改革の基本方針について」、通称、”骨太の方針”を読んだ。骨太のはずなのに、36ページも費やして、あれもこれもと細かく記述しているので、後半は読むのがおっくうになった。

 読んでいて妙に違和感を感じた理由の1つは、日本人とか、国とか、愛国心の涵養につながる言葉が出てきたことである。例えば、「強い日本、強い経済を実現することを通じて、全ての日本人が日本に生まれた喜びと誇りを持てる国を創る、これが日本経済再生の先に目指すべき姿である。」といったように。

 2つ目は、骨太の方針のはずなのに、「見直し」、「検討」、「配慮」、「推進」、「強化」、「着実に進める」、「充実」といった言葉を多用している。検証可能な形で記述された政策はほとんどなく、要するに口当たりのいい無責任な内容ばかりである。骨がスカスカである。

 第3に、国民に日本が直面している経済財政の実態、現実を知らせ、理解してもらう、そして経済社会の再生のために重荷を背負ってほしいと説く姿勢がうかがえない。その正反対で、国民に真の問題点を隠し、安倍政権のもとでなら、うまくいくというような幻想をふりまいているようにみえる。

 第3章は経済再生と財政健全化の両立についてかなり詳しく記述している。しかし、財政再建に必要不可欠な具体的な政策には触れていない。そこに書かれた内容程度で財政健全化が実現すると思う専門家はいないだろう。むしろ、長期金利が上がりだしたことなど、”アベノミクス”の危うさをマーケットは示し始めているようにみえる。

 小泉内閣時代の”骨太の方針”は、経済財政諮問会議のメンバーが中心になって作成した。官僚の作文集ではなかった。しかし、今回のは、まさに作文集である。夏の参議院選挙を強く意識する安倍氏ら政府与党の方針や各省庁の政権追従との合作とでも言うべきものである。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年6月15日 (土)

川崎重工業の”破談”

 三井造船との合併を目論んでいた川崎重工業の社長らが、それに反対する多数の取締役に追われた。

 川重といえば、その昔、1969年、主取引銀行の第一銀行(長谷川重三郎頭取)が三菱銀行(田実渉頭取)と合併しようとしたとき、寝耳に水の合併話に反対した井上薫第一銀行会長と組んで合併反対の先頭に立った経緯がある。有力融資先の川重などの反対で、合併話は白紙となり、第一銀行はその後、日本勧業銀行と合併した。第一銀行と三菱銀行が合併すると、三菱銀行が経営権を握り、三菱重工業など三菱系企業に比べ、川重など第一銀行系企業は割を食うと考えたからだった。

 企業合併は企業の戦略的な生き残り策、競争力強化策である。川重の長谷川聡前社長がどのような発想で三井造との合併を目指したかは定かではないが、造船部門の強化というよりも、海洋開発に強い三井造との合併によって成長および総合重工業としての底力引き上げをねらったのではないか。

 それが適切な判断か否かは、川重の取締役会が決めることであり、前社長らの独走に批判的な取締役が多数だったため、合併話は川重側の都合で破談になった。この間の経緯は法的には問題はないようにみえる。

 しかし、社長らを追い出した取締役たちは、取締役会のメンバーとして全社的な立場で三井造との合併話を考えたのだろうか。これらの取締役は、常務取締役ではあるが、ガスタービン・機関カンパニー・プレジデントなどというように、各カンパニーのトップである。しかも、彼らは半分以上が、入社以来ずっと特定のカンパニーに所属していて、そのまま取締役、常務に昇進している。当然、彼らの視野は限られている。

 長谷川前社長らは川重の経営形態をホールディングカンパニー制にして、各カンパニーを100%子会社にしていれば、今回の”クーデター”は起きえなかったのではないか。そんな気がする。

 日本のビッグビジネスには取締役社長とかCEOが強力に引っ張っていく経営がほとんどみられない。だから、変革期には日本の企業はとかく遅れがちになる。川重の経営陣がそこに気が付けばいいが。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年6月11日 (火)

夕張で奮闘した村上医師の『医療にたかるな』

 2006年6月に北海道夕張市の財政が破たんした。同年9月15日のこのブログで、破綻した夕張市について書いた。「どうしてここまで借金が膨らんだのか。議会、監査委員、住民の誰もチェックしなかったのか。知っていて黙していたのか。金融機関は際限なく貸し続けるつもりだったのか。また北海道庁の役人は本当に知らなかったのか。知っていたとしたら、なぜ放置していたのか。総務省の担当者も知らなかったのか。知っていても放置していたのか。知らなかったとしたら、なぜ気付かなかったのか。」と。

 その後、夕張市の再建について断片的に新聞が報道しているのをフォローしていただけだった。したがって、村上智彦著『医療にたかるな』(新潮新書、2013年3月)を読んで納得することが多々あった。村上医師は、夕張市が財政破綻したあとの、市の医療を再生させるために獅子奮迅の働きをした。そのいきさつを本書で読み、夕張市だけに限らない地方の問題点を教わったように思う。

 うなづいた点を私なりに解釈して紹介すると――

・石炭全盛期には、夕張の労働者たちは会社丸抱えで家賃、暖房費、光熱費、水道代、映画館入場券、医療費…皆タダだった。それがたかり体質を培ってきて、石炭産業が斜陽化しても、既得権益を守りたいという人が多い。いまだに市営住宅の家賃を払っていない人が43%(3億円)もいる。治療費未払いも2億円あまりたまっている。

・夕張市の市民は破綻後の市議会選挙で、破綻の責任を負うべき前職の市議9人のうち6人を再選した。しかも、市は年9億円の税収しかないのに、同規模の自治体の予算の2~3倍にあたる120億円の予算を組んだ。市役所職員の給与も当初は3割減と報道されたが、その後、もとに戻しつつある。職員の退職金は優先的に支払われており、国からの地域医療再生臨時特例交付金までが退職金支払いなどに充てられている。

・自治体行政は自らの仕事と責任を回避することが絶対優先する。また、役所や公的医療機関の労働組合は、合理化や新しいサービスを提供しようとすることに強硬に反対する。住民の暮らしや命を守ると言って、その実、組合組織を守ることしか考えていない。破綻前、夕張市の職員数は人口当たりでみて、日本の市役所平均の4倍近くもいて、年収もバカ高かった。

〔夕張市は破綻当時、他地域から同情を集めたりしていたが、実態は、ろくに反省していなかったということのようだ。〕

・官、民のいかんを問わず、医療機関で絶対にやっていけないのは、労働組合運動に力をいれること、そして年功序列で給与をあげること。頑張った人が報われるようにしないと、医療機関としての公的役割が果たせなくなる。それに、職人集団だから成果主義がなじみやすい。

・北欧には、「負担なくして受益なし」という常識が根付いていおり、高齢化による社会保障費の増大が見込まれるとわかった時点で増税の議論が始まり、増税が実行される。

・北欧では、高齢者、障害者も自分でできることは何でもやる。上げ膳据え膳で介護スタッフに身の回りの世話をさせるようなことは許されない。

・モンスター・ペイシェントは、権利意識が強く、常識がなく、自己中心的、不安を訴えるという形で医者を理不尽に攻撃する。病院、学校、役所などはこうしたモンスターに弱く、いいように振り回される。しかし、これには毅然とした対応をすべきだ。

・夕張市の再生には、市の住民が愛着のある自分の地域のために立ち上がるしか道はない。医療に関して言えば、日本はこれからは予防医療、在宅医療、地域包括ケアによる「ささえる医療」が必要である。それにはさまざまなつながりが大きな役割を果たす。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年6月 7日 (金)

安倍首相の顔が毎日のようにテレビに

 テレビのニュース番組に安倍首相の顔が大写しで出ない日はない、そう言いたくなるほどに、安倍さんの露出度が高い。それだけに、きょうは少し寝不足らしいな、とか、疲れているようだなどと、見ていて気になる。そして、無理している、急ぎ過ぎているのではという印象を受ける。

 あちこち外国を訪問する、アフリカ開発会議で来日したアフリカ諸国の首脳と次々に会談する、国内の被災地を訪れる、すぐれた中小企業を訪問する、国民栄誉賞などを自らのパフォーマンス付きで授与する、自分が議長となって経済財政諮問会議など政府の○○○○会議を次々に開催する、講演会でスピーチをする、そして国会の審議に出席する……。スーパーマンである。テレビに映る安倍首相は、用意された文章を読み上げるだけのことが多い。官邸でも、ほとんど絶え間なく、人と会っている。

 体調を考え、また、じっくり自分で考える時間を持つことが、政治家、安倍氏にとって大事なことではないだろうか。

 ”アベノミクス”の全体像がほぼ見えてきた。最近の株価や為替相場が方向性を失ってみえるように、”アベノミクス”の言葉の魔術にひっかかっていた人たちも、眉に唾をつけ始めた。そして、成長戦略のごときは、各省庁が個別にぶち上げた構想を、そのままホッチキスでとめたようなものであることが指摘された。霞が関の官僚たちは、国の未来よりも、自分の所属する役所、自分の地位を守ることを優先するようになっている。

 そして、既得権益に切り込むことが必要なのに、それにはほとんど手を付けない。むしろ、以前よりも、気安くばらまきを行なっている。被災地復興予算が無関係なところに回って費消されているが、それを決めたのも官僚たちである。首相を支えるふりをして、官僚の利益追求を図っている。まさに末期的症状である。

 国の借金が1千兆円に及び、よほど腰を据えて財政再建に取り組まねば、明るい将来展望はない。そうした厳しい現状をできるだけ多くの国民に知らせ、苦難を共にし、未来を切り拓こうと国民に訴えるのが国家の指導者の責務のはずだ。しかし、安倍首相は、7月の参議院選挙で絶対多数を確保するために、有権者を甘い蜜で誘おうとしているとしか見えない。衆愚政治という言葉があるが、安倍首相も本音では、国民はおいしい話に簡単にひっかかると思っているのではないかとすら想像する。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年6月 2日 (日)

ノーベル賞作家、莫言の『天堂狂想歌』を読む

 400ページを超える翻訳長編小説、『天堂狂想歌』を読み終えた。作者は昨年、ノーベル文学賞を受賞した中国の作家、莫言である。1987年5月に、中国の山東省蒼山県で起きた「ニンニクの芽事件」に触発されて、彼が1988年(天安門事件のちょっと前)に書き上げた作品である。

 ニンニクの芽の産地である蒼山県で、県当局がニンニクの芽の増産を奨励。農民は当局の買い上げを前提に生産した。ところが、当局は貯蔵庫がいっぱいになったとして、農民がはるばる遠方から運んできたニンニクの芽の買い入れを突然停止した。途方にくれた農民たちは県庁を包囲し、なんとかしろと要求したが、県の幹部は雲隠れ。農民は税とか手数料だとかの名目でカネを吸い上げられていたこともあって、怒って事務所に乱入し、器物破損や放火などに及んだ。この数千人にのぼった農民の暴動で、何人もの農民が逮捕され、懲役刑に処せられた。事件の概要はこんなものだったらしい。

 小説は、この事件に関わっていった農民たちの厳しい生活の日々を、これでもか、これでもかというほどに細かく描写している。読んでいるあいだじゅう、ニンニクのにおいや、糞尿などの悪臭がただよってくるような気がするほどで、このころの中国の農民の貧窮ぶりを痛感させられた。

 中国の農村では、共産党や政府が農民を支配し、権力をかさに着ている。こうした共産党の支配を痛烈に批判する言葉を主人公の1人、高馬が恋人に言う。「幹部になるちゅうことは良心を売ることじゃ。良心を売らねば、幹部になどなれん。」と。小説は、中国社会の根本問題を小説の形を借りて告発しているのだ。

 事件の当日、逃げ隠れていた党書記などは、事件の責任を問われ、免職になる。しかし、後年、彼らは他の県の要職に就いた。小説は、このことを記して終わっている。

 「あとがきに代えて」において、作者は「新たな世紀に、かかる事件が私を刺激して、かかる小説を書かしめないよう、ひとえに願う。」と書いている。莫言が本当にすぐれた作家であることが本書を読んで初めてわかった。 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年6月 1日 (土)

国際労働運動の再編

 1年前の6月、3つの産業別国際労働運動組織が統合してインダストリオール(IndustriALL Global Union)が結成された。140ヵ国、350組織、5000万人におよび、日本からはUAゼンセン同盟、ICEM-JAF(日本化学エネルギー鉱山労働組合協議会)、JCM(全日本金属産業労働組合協議会)が参加している。

 4月下旬にバングラデシュの首都近郊の縫製工場が崩壊し、1100人以上もの労働者が亡くなったあと、、ベネトン、H&M、マークス・アンド・スペンサーなど欧米のファッション大手や小売り業者40社余りは、同国内の1000以上にのぼる縫製工場の防火・ビル安全協定(アコード)を結んだ。インダストリオールは、別の国際労働運動組織、UNI・Global・Unionとともに、労働者の安全を守るために安全協定の実現を促したという。企業のグローバル化に伴って、労働運動も変容を迫られているが、こうした視点からの報道は無きに等しい。

 たまたま国際労働運動に関わってきた人の話を聞いたら、こうした世界の動向の一端を知ることができた。日本の企業もグローバル化しているのだから、労働運動の視点からの世界の潮流をメディアには報じてもらいたい。それに、連合をはじめとする日本のナショナルセンターには、もっと世界の労働運動に積極的に参加し、引っ張っていってもらいたいと思う。

 インダストリオールができた背景には、経済のグローバル化がある。先進国の企業は活動拠点を途上国に移し、先進国の雇用は失業者の増大や不安定雇用が広がっている。つれて、国内の労働組合も組織率の低下などに直面している。また、グローバル企業が事業内容を柔軟に変えているのに対し、従来の産別労働組織ではそうした企業の事業構造変容に対応しきれなくなっている。

 このため、サプライチェーンの観点から、企業の事業展開に対応した労働運動組織に改めたのがインダストリオールだとも言える。同組織は、繊維、自動車、化学、エネルギー、情報通信、電機電子、ガラス、セメント、紙パルプ、造船、鉱山など主要な産業の多くの労働運動を包含しており、グローバル資本に対抗するための組合組織の強化をめざしている。

 バングラデシュのビル倒壊に端を発するアコードは、先進国を中心とする国際労働運動組織が途上国の労働者の労働条件改善に協力するという意義がある。グローバル企業が当然のごとく、より低い賃金を求めて生産拠点などを途上国に移していくことに、労働運動の立場から”異議”を申し立てたという解釈もできるのではないか。国際的な共闘も始まっているので、インダストリオールの活動は要注目だ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2013年5月 | トップページ | 2013年7月 »