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2013年6月 2日 (日)

ノーベル賞作家、莫言の『天堂狂想歌』を読む

 400ページを超える翻訳長編小説、『天堂狂想歌』を読み終えた。作者は昨年、ノーベル文学賞を受賞した中国の作家、莫言である。1987年5月に、中国の山東省蒼山県で起きた「ニンニクの芽事件」に触発されて、彼が1988年(天安門事件のちょっと前)に書き上げた作品である。

 ニンニクの芽の産地である蒼山県で、県当局がニンニクの芽の増産を奨励。農民は当局の買い上げを前提に生産した。ところが、当局は貯蔵庫がいっぱいになったとして、農民がはるばる遠方から運んできたニンニクの芽の買い入れを突然停止した。途方にくれた農民たちは県庁を包囲し、なんとかしろと要求したが、県の幹部は雲隠れ。農民は税とか手数料だとかの名目でカネを吸い上げられていたこともあって、怒って事務所に乱入し、器物破損や放火などに及んだ。この数千人にのぼった農民の暴動で、何人もの農民が逮捕され、懲役刑に処せられた。事件の概要はこんなものだったらしい。

 小説は、この事件に関わっていった農民たちの厳しい生活の日々を、これでもか、これでもかというほどに細かく描写している。読んでいるあいだじゅう、ニンニクのにおいや、糞尿などの悪臭がただよってくるような気がするほどで、このころの中国の農民の貧窮ぶりを痛感させられた。

 中国の農村では、共産党や政府が農民を支配し、権力をかさに着ている。こうした共産党の支配を痛烈に批判する言葉を主人公の1人、高馬が恋人に言う。「幹部になるちゅうことは良心を売ることじゃ。良心を売らねば、幹部になどなれん。」と。小説は、中国社会の根本問題を小説の形を借りて告発しているのだ。

 事件の当日、逃げ隠れていた党書記などは、事件の責任を問われ、免職になる。しかし、後年、彼らは他の県の要職に就いた。小説は、このことを記して終わっている。

 「あとがきに代えて」において、作者は「新たな世紀に、かかる事件が私を刺激して、かかる小説を書かしめないよう、ひとえに願う。」と書いている。莫言が本当にすぐれた作家であることが本書を読んで初めてわかった。 

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