« 経済同友会のアピール「持続可能な社会の構築に向けて」 | トップページ | FT買収に踏み切った日経 »

2015年7月22日 (水)

70年前の悲惨な事実:『満洲難民』(井上卓弥著)

 1945年8月9日、ソ連が日ソ不可侵条約を破って日本の支配下にある満洲国に侵攻した。関東軍は同日および10日に軍および満鉄の家族らを南方に避難させ(家族の多くは日本に帰国)、そのあと官吏の家族を避難(疎開)させるようにした。在留邦人でも一般市民は放置された。日本政府は敗戦にもかかわらず、在留邦人は満州などにとどまって定着するようにとの”棄民”政策を打ち出したのである。

 『満洲難民』を読んだ。改めて、官尊民卑の歴史を読んだ思いだ。戦争に敗れたとき、日本国の政府は旧植民地の満洲や朝鮮にいた在外邦人を救出しようとするどころか、食料や住宅の不足などがひどいので帰国されても困る、と突き放した。いま日本政府は安全保障法制の改定に踏み出しているが、戦争でいかに多くの国民が犠牲になるかを、本書を読み、実感した。

 満洲国の首都、新京にいた満洲国政府経済部の出征遺家族約270人に加え、特殊会社、満州鉱業開発や百貨店、三中井の家族、新京の在留邦人約300人など、合計約1100人が12日に新京を出発した。朝鮮北部で列車がたどりついた駅、郭山で降り、そこで衣食住のすべてで飢餓状態の悲惨な日々を送り、沢山の死者を出した。米ソの対立、朝鮮の38度線もからみ、敗戦国の国民として、日本への帰国の道を模索し、最終的には、多くの犠牲者を出しながら38度線を越え、南朝鮮に駐留する米軍に救出された。その過程が本書に記されている。

 もともと、満洲国経済部の若者たちが上司の命で疎開グループを引率する形だったため、幸い、組織的に行動できたようだ。おカネが必要だが、おカネのある人、ない人がいて、貧しい人は栄養失調になるなど、貧富の差が生死を分けることもあった。しかし、リーダー役の官吏が対外交渉にあたったり、公平な態度だったりしたのはすばらしい。たった1人の医師の態度も称賛に値する。

 本書に見るように、若手官僚たちは立派である。しかし、政治の指導者が過ちを犯せば、国民は塗炭の苦しみを味わうことになる。

 祖国に帰れず、かの地で亡くなった大勢の人たちの墓参りも、いまだにできない。北朝鮮とのまともな国交は実現しておらず、70年前の歴史は、いまなお全容が明らかになっていないのである。なんとむごい目に遭ったのか、その事実を戦後世代はわかってほしい。

|

« 経済同友会のアピール「持続可能な社会の構築に向けて」 | トップページ | FT買収に踏み切った日経 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 70年前の悲惨な事実:『満洲難民』(井上卓弥著):

« 経済同友会のアピール「持続可能な社会の構築に向けて」 | トップページ | FT買収に踏み切った日経 »