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2015年11月15日 (日)

『震災復興の政治経済学』(齋藤誠著)は刺激的

 東日本大震災の津波被災と東京電力福島第一原発の危機に対して、政府がとった復興政策および賠償・廃炉の基本方針の内容および決定過程はどうであったか。最近、出版された齋藤誠著『震災復興の政治経済学』は、それを詳細に調べ、復興政策の財政支出が過大であること、および原発危機への対応が不徹底であることとを明らかにしている。

 私たちが漠然とだが、おかしいと思っている過大な震災復興予算、そして、原発を再稼働させるために政府がとっているわかりにくい政策。そこに鋭いメスをもって切り込んだ同書は、まさに政治経済学の名にふさわしい内容である。

 まだ、同書の全体を読み終えていないけど、このブログでは、津波被災に対する財政支出の問題に限って取り上げる。津波被災の損害については、すでに、原田泰氏(現、日銀審議委員)が『中央公論』2011年8月号で、公的部門3.2兆円、民間部門2.5兆円と推計。民間の損害の3分の2を財政が面倒をみるとしても、全体で4.7兆円の公費負担と推計している。そして、原田氏は、この推計が間違っているとしても、2倍の9.4兆円以内の公費支出におさまるはずという。

 しかるに、内閣府は、被災3県の建物被害額やライフライン、社会基盤施設などの被害額推計において、下限16兆円、最大25兆円という推計を打ち出し、それを修正しなかった。 このため、政府は最初の5年間で19兆円、復興10年間では少なくも23兆円、という復興予算規模を打ち出した。しかも、阪神淡路大震災で地方自治体の負担は半分だったのに、東日本大震災においては、地方自治体の負担はゼロ(つまり国が全額負担)という異例の大盤振る舞いを決めた。

 これに対し、齋藤氏は、建物ストック毀損額について、阪神淡路大震災とさして違わない上限額であるとの推計を示した。そして、被害額の上限は11.7兆円が妥当だという。財政負担がかくも違ってくるのである。

 同書の「第3章 なぜ、私たちは震災復興政策を大きく構えすぎたのか」は、政治経済学にふさわしい内容である。地震・津波の被災地域が実は岩手、宮城、福島県の沿岸部の線的な広がりに限定されていた。にもかかわらず、東日本大震災という広い地域を連想するネーミングを採った結果、阪神淡路大震災よりもはるかに大きい被災規模であるかのような印象が広まったという。

 とにかく、久しぶりに刺激的な書物に出会った。

 

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