« 人類の命運を左右しかねないCOP21 | トップページ | 利益をむさぼる調剤薬局 »

2015年12月 3日 (木)

『生きて帰ってきた男』:”希望があれば生きていける”

 小熊英二著『生きて帰ってきた男』を読んだ。「ある日本兵の戦争と戦後」という副題がついているが、これは著者の、シベリアに抑留された経験を持つ父親、謙二氏へのインタビューをもとに書かれた個人史であり、日本の戦前~戦後史である。著名人でなくても、それぞれの人にまさに歴史ありという感想を持った。

 聞き取りをもとに書かれるオーラル・ヒストリーは、語り手からどれだけのものを引き出すか、聞き手の力量にかかるところ大だが、それとともに、語り手が自らの体験や環境をどれだけ、しっかり記憶しているか、また、それを整理して話せるかにもかかる。本書は、そのどちらも兼ね備えており、私たちの知る歴史に、よりいっそうのふくらみを持たせたように思う。

 シベリア抑留については、多くの本が書かれており、何冊も読んだことがある。今回、謙二氏の眼を通して見たチタ二四地区第二分所での被抑留者の実態、ソ連側の実態、いずれの観察も、新たな視点を提供するものである。

 また、帰国してからの暮らし、入院生活などを経て、食べていくための苦労を重ねる謙二氏と家族の話も、身につまされる。「歴史」というと、大上段に振りかぶった書物が少なくないが、本書は、庶民史とでも言ったらよさそうな叙述である。

 「第9章 戦後補償裁判」から、謙二氏の言葉を引用したい。――

 「稼ぐに追いつく貧乏なし」とも言われていたが、「いまは、非正規雇用の人たちなどが、どんなに頑張ってもだめな世の中になっている。日本だけのことではないようだが、希望が持てない。使う側の「労働のモラル」がなくなった。」

 「自分が二〇歳のころは、世の中の仕組みや、本当のことを知らないで育った。(中略)いまは本当のことを知ろうと思ったら、知ることができる。それなのに、自分の見たくないものは見たがらない人、学ぼうともしない人が多すぎる。これから二〇年もたてば、もっと悪くなるだろう。」

 未来がまったく見えないとき、人間にとって何がいちばん大切だと思ったかとの問いに、謙二氏は「希望だ。それがあれば、人間は生きていける」と答えたという。

 

 

|

« 人類の命運を左右しかねないCOP21 | トップページ | 利益をむさぼる調剤薬局 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/184848/62799079

この記事へのトラックバック一覧です: 『生きて帰ってきた男』:”希望があれば生きていける”:

« 人類の命運を左右しかねないCOP21 | トップページ | 利益をむさぼる調剤薬局 »