2009年11月 6日 (金)

医療問題の基礎知識を『日本の「医療」を治療する!』で知った

 米国のエール大学、エモリー大学などで医学を教えていた武井義雄氏が書いた『日本の「医療」を治療する!』(09年7月、日本経済新聞出版社)を読んだ。米国での経験を参考にしながら、日本の医療の問題点を鋭く突き、処方箋を書いている。

 個人的には、医師不足などの原因を考えるうえで必要な基礎的知識を得ることができた。メディアはどうして、そのような情報を読者・視聴者に与えてくれないのかと思う。メディアの勉強不足と言ってしまえば、それまでだが‥‥。

 新研修制度で都市に集中するようになったのは、「2004年、政府が法律をつくって2年間の研修を必須にし、研修医の給料を病院に確保させたからである」。国は月俸30万円ぐらいとの目安まで設けた。これで、2年間、研修医として東京に行こうと思う者が増えてもおかしくはない。居心地がよければ、居つくかもしれない。

 研修指定を受けた病院には、「指導医経費」、「剖検経費」、「プログラム責任者等経費」、「研修委員会経費」等々、実に多くのカネが国から支払われる。しかし、きちんと研修をしているかというチェックはないという。だから、研修医の2年間に幅広く医療の基礎を身につけてプライマリーケア(病気になった人が最初に訪れ、診療を受ける。家庭医のような存在。患者を診て、必要があれば専門医に紹介する)ができるようになるべきなのに、そうなっていないと指摘する。

 そして、2年間の臨床研修のあと進む専門診療科研修制度があり、その制度と定員にも問題があるという。専門医になるための研修を受けている間の給与は研修医のときと違って国が何も言っていない。大体は大幅に低い。しかも研修の期間や内容は病院によってまちまち。定員過剰な専門医研修もあり、真に専門医とみなしてよいだけの研修を受けていなくても、研修が終われば、専門医を名乗れるという。

 著者は医療危機への緊急の対応策としていくつかを挙げている。第1に、医療事務員の大幅増員を求めている。病院の医師の雑用による負荷を減らせるからだ。「メタボ健診」は不要だという。これは医師不足を加速したという。

 第2に、経験のある看護師から選抜して専門教育を施し、医師代理としての資格を与える。

 第3に、専門診療科研修のプログラムの定員を「戦略的に上手に設定すること」。それを実現するため、政府、医師会、医学会が一体となって公的機関を設立する。

 第4に、病院をやめる勤務医がその地域で開業しやすい仕組みをつくる。例えば、病院から外来を切り離し、病院付属の診療所をつくって開業医に提供する。

 そういった対応ができるためにも、医療については地方分権を強めるべきだという。

 一方で、CTなど医療検査がやたら行なわれる背景には、それで診療報酬がかせげるといった事情があることを知る。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年9月29日 (火)

「派遣」についてのアデコ(日本)会長兼社長の話

 派遣ビジネスなどの人材サービスで世界のトップクラスにあるアデコグループ。その日本法人であるアデコ(株)のマーク・デュレイ会長兼社長の講演を聞いた。アデコのフランス、米国のビジネスと日本でのビジネスとを比較しながらの話は参考になった。

 3国とも、人材派遣ビジネスが売り上げの9割前後を占めるが、フランスは派遣の売り上げのうち86%が製造業だという。ちなみに日本では事務系の派遣が80%に達し、製造業は7%にすぎない。

 また、派遣による就業期間の平均をみると、日本が17.5ヵ月であるのに、フランスは0.5ヵ月と短い。フランスでは1日だけという派遣が26%で、2日~1週間の派遣が35%だという。そして、派遣スタッフの募集のやりかたが、フランスではもっぱら派遣会社の店頭に張り出される求人情報とのこと(日本の街の不動産屋が張り出している物件広告を想像したらいい)。パリなどでは街のいたるところに張り出されているという。ロンドンでも同様だそうだ。

 フランスでは均等待遇原則が1981年に立法化されており、派遣先の社員と同一労働同一賃金が認められている。加えて、同年に労働組合と派遣業界団体が締結した労働協約により、職業訓練や年金積み立てなどとともに、住宅ローンが組めるようになったという。

 さらに、失業保険の給付期間が過ぎても、あるいは保険に加入していなくても、国庫が全額負担して失業手当を6ヵ月給付する、という二重のセーフティネットが敷かれている。

 こうしたフランスや米国の雇用システムを踏まえて、デュレイ氏は日本について、次のような指摘をした。①いま論議されている方向だと、製造業は海外に移転し、国内は空洞化する。IT化などにより、同じ仕事を一生続けることはできなくなるから新しい能力を身につける必要があるし、親の介護などで毎日働くことはできなくなることもあるから、それに合わせた仕事が必要になる。

 ②労働者派遣法を変える前に、正社員を中心とした雇用システムを変える必要がある。雇用形態、年齢、性別による差別、格差をなくし、同一労働同一賃金に改めるべきである。社会保険には2ヵ月未満の業務であっても即、加入するようにさせねばならない。そのためには社会保険番号をもとに手続きを自動化すべきである。エンプロイアビリティを高めるために、誰にも職業訓練の機会を提供する必要があるし、労働者も「受けたくない」などとわがままを言わないようにさせなければならない。

 デュレイ氏の講演は流暢な日本語なので話がわかりやすかった。彼が本論から脱線して話したことの1つは、「正規雇用」と「非正規雇用」というのは正しくない言い方という点。法律を守っていたら「正規」である、正しくは「常用雇用」、「非・常用雇用」と表現すべきである、と。また、日本語の「人材派遣」(英語だとヒューマンリソース・ディスパッチ)と英語の「テンポラリー・スタッフィング」とは意味が違う、と。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2009年9月19日 (土)

高額医療費のデータに驚く

 民間企業の健保組合1500弱で構成する健康保険組合連合会が今月11日、08年度(07年11月~08年10月)の高額医療給付に関する統計を発表した。1人の患者の1ヵ月の医療費で最も多かったのは2841万6300円。2番目が2298万8970円。3番目は2123万1110円である。1ヵ月間の医療費が2000万円を超えたのは5件、1500万円以上2000万円未満が23件だった。

 月額が1000万円以上の件数は134(前年度140)。誤解を招くおそれがあるが、1ヵ月に1000万円というのは単純に年率換算すれば1億2000万円。医療費が高いとか、安いとかは判断しかねる話だが、金額を知ると、正直言ってちょっと驚く。

 過去に1人当たりの月額が最も多かったのは02年度の4007万3310円。次いで07年度の3762万9030円だった。その内訳を知りたくなる。

 医療の技術進歩に伴い、単価の高い治療が保険診療に採り入れられてきた。そのために高額の医療費がかかっても、健保組合がプールした拠出金で大半をまかなう「高額医療給付に関する交付金交付事業」に申請すれば支払ってもらえる。08年度はそれによって980億円を交付したという。

 ただ、05年度を境に1人1ヵ月100万円以上の医療費がかかった件数が増加傾向に転じているのが気にかかる。

 民間の健保は政府からいっさい補助金を受けていない。逆に、社員と会社から集めた保険料のうち4割強を高齢者医療制度などに拠出したりしているため、財政が窮迫するところが増えている。事実、いくつもの組合が解散している。

 民主党中心の政権の誕生で、医療、介護などを充実しようという流れが強まった。医療費が今後、大幅に増える可能性が強い。だが、制度の設計いかんによっては、負担の重さに民間健保がへたることもありうるし、国・地方自治体の負担もかなり増えることが予想される。

 医療費については、効率化や不正撲滅など必要な課題がいくつもあるが、これまでほとんど手がつけられてこなかった。新政権はそこにも改革のメスを入れるべきだろう。さもないと、財政赤字が拡大するのではないかと思う。 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年7月15日 (水)

忘れ去られた社会保障制度のむだづかい

 「骨太の方針2006」によって、政府・与党は社会保障費の毎年1兆円程度の自然増を毎年2200億円ほど抑えてきたが、2010年度予算に関わる「骨太の方針2009」ではこの抑制方針が消えた。民主党のネクスト経済産業大臣の増子輝彦参議院議員も「毎年2200億円の削減で、地域医療は疲弊し、医師不足問題も深刻化しています」(言論NPOの政策討論会での発言)と1兆円程度の社会保障費増を当然視している。

 7月14日の日本経済新聞朝刊「経済教室」においても、上村敏之関西学院大学教授が「少子高齢化で増大する社会保障費をどの財源で賄うべきかは、来る選挙で問われる重要な政策課題である」と記している。

 少子高齢化に伴い、医療費を始めとして社会保障費が増加し続けることは誰しもが認めるところである。しかし、日本の経済が停滞し、税収が伸びるどころか、当面は減る公算が大であること、一般歳出に占める社会保障制度の割合が突出して大きいことを考えると、社会保障費を自然に増えるがままに任せておくのではなく、不公正を正し、ムダをなくす工夫・努力をすべきだろう。

 医療を例にとれば、昔から「社会的入院」が医療費を膨らませてきた。そこに政府が本気でメスを入れたことはないのではないか。診療報酬は開業医中心の日本医師会の意向にそって決められてきた。したがって、病院のほうが割を食い、勤務医の給与および労働条件は開業医より不利である。開業医の診療報酬を引き下げ、その一部を勤務医に振り向けることも考えていい。

 保険診療報酬請求にあたって、カルテを電子化し、完全にコンピュータ化することになっているのに、いまだに医師会の抵抗が続いている。一部の病院や開業医は不正請求を行なっているとみられるが、電子化すれば、不正請求など異常な報酬請求を摘発しやすくなる。また、診療報酬請求を審査する厚生労働者傘下の公益法人について、かねてレセプト審査の単価が高すぎるという批判があるが、いっこうに変わらない。天下り先を護る厚労省の態度が審査費用の引き下げを妨げているのである。

 医薬分業により、都会では病院の周りなどに薬局が何軒も開業している。医師の処方箋にもとづき薬を販売しているが、薬代のほか、情報管理料、指導料などさまざまな費用を患者に請求する。別の薬局に行っても、同様な費用を患者は払わねばならない。医師から薬の効能や飲み方の説明を受けているので、薬局では薬を受け取るだけで十分なことが多い。薬代よりも、その他の費用のほうが多いこともある。違う病院・医師が出す薬の複合作用を避けるには、薬局ごとの情報管理では不十分だ。そこにも改善の余地があり、それが即、医療費削減につながる。

 医療の保険制度は組合健保、国民健保などいくつもあり、保険料だけでは足りなくて税金の投入を受けている保険もあれば、後期高齢者医療制度に多額の拠出(寄付)を余儀なくされている保険もある。複雑怪奇で、保険によっては、加入者が医療費のごく一部しか負担していなくても、すべて自分たちの保険料で運営されていると錯覚することにもなっている。その分、過度に医療サービスを受けることにもつながっている。

 日本の社会保障制度は我々、市民にはほとんどわからないようになっている。それがムダを生みやすくしている。社会保障費が増えて当たり前だ、という発想は、ものごとの本質を考えない怠慢そのものである。

| | コメント (0) | トラックバック (2)

2009年4月11日 (土)

鈴木亘著『だまされないための年金・医療・介護入門』は優れた啓蒙書

 日本の社会保障制度は、現役が高齢者を支える「賦課方式」となっているが、高齢者/現役比率は2008年に33.6%、つまり高齢者1人を3人が支えている。これが15年後の2023年には50.2%、即ち、高齢者1人を現役2人で背負う見通しである。2040年では67.2%なので、高齢者2人を現役3人で支えることになる。このままでは、後の世代になるほど保険料などの負担が重く、給付による受益が少なくなる。

 社会保障制度の財政を考えると、これは容易ならぬ事態である。しかも、今後、少子化対策が成功して出生率が上がったとしても、30~40年程度の間は、社会保障財政改善への貢献はあまりない。持続不可能なことが明らかな現在の年金、医療、介護の保険制度をどう改革すべきか、それに真っ向から挑み、素人にもわかりやすく書かれた本が『だまされないための年金・医療・介護入門』である。

 以前にもこのブログで書いたことだが、厚生官僚は経済学を学んでいないから、社会保障制度を自由競争とか効率とかいった経済的な観点から見ない。「措置」、つまり貧しい人とか、病気で苦しんでいる人を国のカネで面倒みてやるという発想で政策を組み立てる。また、先輩たちが始めた政策を抜本的に改めるのは失礼だという意識が強く、問題が起きたとき、その場しのぎの対症療法しかとらない。それに、政策の決定にあたって、国民にあまり情報を公開しない。そして、医師不足や介護士不足などの問題が起きると、すぐ規制強化に走る。

 本書は、そうした政府の社会保障政策を批判し、「最初で最後の社会保障抜本改革」を提示している。その基本は「賦課方式」から「積立方式」への移行である。年金改革については、同時に税方式に移行するよう主張している。

 とにかく、いまは、高齢者であるほど、年金であろうと、医療であろうと、介護であろうと、負担(保険料、自己負担)<受益(給付)となっている。したがって、高齢者に対する給付を減らし、負担を増やす方向に制度を変えないと、若い世代ほど負担の重さにあえぐことになる。いまの社会保障制度のもとでは、若い世代にとっては未来は非常に暗いのである。

 人数も多く、かつ選挙にもたくさん行く高齢者のご機嫌をとるほうが、政治家は当選しやすい。官僚も、従来路線を変えないほうが苦労がないし、天下り先維持などにも好都合である。そして、年金、医療などには既得権益を守ろうとする組織や人が一杯いる。しかし、それらを放置すると、若者の未来を暗いものにする。日本の衰亡である。

 ことさら国民にわかりにくい仕組みばかりにしてきたと言いたくなる社会保障制度。その内容と問題点、改革策、それらを同書は相当に理解しやすく書いている。優れた啓蒙書である。

| | コメント (0) | トラックバック (3)

2009年2月18日 (水)

中長期の視点を忘れがち

 自民党の末期症状には国民もあきれ果てているだろうが、解散・総選挙のことしか念頭になさそうな民主党などの野党に絶望している国民も多いことだろう。経済が危機的な落ち込みを続け、雇用・生活不安が高まる一方なのに、政治は完全に機能を停止したままだ。米国が依然、金融機関の不良資産やGM・クライスラー救済などの問題を抱えながらも、経済対策を着実に進めているのをみると、民主政治が根付いている国とそうでない国との差を感じざるをえない。

 日本では超目先のつまらない政争関連の出来事ばかりが大きなニュースとして報道されている中で、日本経団連が中長期の視点に立った社会保障制度改革および少子化対策についてそれぞれ提言を発表したのは、ちょっと新鮮に思えた。メディアの扱いは小さいか、ないしは無視だが、いま、日本が緊急に打ち出さねばならない経済危機対策の重要な柱となるテーマを扱っている。

 提言「国民全体で支えあう持続可能な社会保障制度を目指して――安心・安全な未来と負担の設計――」は、昨年に経団連が出した2つの提言をもとに多少、内容を変えたものである。高齢者の総人口に占める割合がさらに上昇し、現役世代に過度に依存するいまの社会保障制度は持続不可能である。そこで、2025年度を最終目標に、中福祉中負担で国民が安心し信頼できる、制度横断的な社会保障制度の改革を目指したものという。

 緊急課題への対応と社会保障制度の基盤整備をはかる改革の第1段階(2009~2015年度)では「少なくとも消費税率5%分の財源を確保する必要がある」とし、年金の税方式への完全移行や介護・高齢者医療の公費負担割合を上げる第2段階(2016~2025年度)では、「社会保障国民会議のシミュレーション結果をもとに試算すれば、2025年度で追加的に必要となる公費は、現状に比して消費税率換算で12%程度必要になる」としている。

 制度改革の具体的な提案内容については、提言を読んでいただくとして、官庁の縦割りを超えた発想は評価できよう。

 もう1つの「少子化対策についての提言――国の最重要課題として位置づけ、財政の重点的な投入を求める――」は、騒がれる割に少子化対策が成果を挙げていない現状に危機感を抱いたところから出された。政府の「措置」の仕組みをやめて、保育を必要とする人たちが必要とする施設・サービスを選択し、利用できるように制度を改革するよう求めている。

 設置費用として新たに約1兆円、運営費用に年間7千億~8千億円出せば、潜在的な待機児童の解消ができるという。また、子育ての経済支援として、小学校卒業まで一律月額2万円の支給を提案している。そのための追加費用は2兆~2兆4千億円と見込んだ。次世代育成支援は公費での対応が基本だとし、追加的な費用は将来的には消費税引き上げにより安定財源を確保すべきだとしている。

 少子化が進むと、経済成長が抑制されるし、財政・年金制度の持続は不可能になる。それでは、日本の将来は暗い。そこで、経団連は自らはワーク・ライフ・バランスを積極的に推進するとともに、政府に対しては国の最重要課題として少子化対策に取り組むよう求めているものだ。いまの政治があまりにもお粗末なだけに、この時点で、とても貴重な提言だと思う。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年2月 4日 (水)

湯浅誠氏(年越し派遣村村長)の話で知ったこと

 NPO法人自立生活サポートセンター・もやいの事務局長であり、日比谷公園に設けた「年越し派遣村」の村長を務めた湯浅誠氏が4日、日本記者クラブで「派遣村から見た日本社会」と題して話をした。「雇用のセーフティネットからこぼれる人が増えている。いまの日本は落ちやすく、一旦落ちたら昇れないという「すべり台社会」である。シェルターの確保など当面の貧困対策を行なうとともに、働けば生活できるようにするなどの防貧対策が必要だ」と語った。

 防貧対策として、①貧困の世代間連鎖を解消するため、教育・住宅にかかる費用を政府がもっと負担する、②非正規労働の拡大や派遣・期間工切りで、働いても生活できないから、労働で生活できるように派遣法改正などを行なう、③ほとんど機能していないつなぎ融資制度の要件を緩和し、雇用保険制度を有期雇用の実態に即したものに改める、④生活保護を利用しやすくする、の4つを挙げた。

 また、大量の失業者が出てくると予想されていることを踏まえ、湯浅氏は、3月までに緊急になすべきこととして、①シェルター(緊急避難所)と総合相談窓口の開設、②非正規労働者生活・就労支援基金の設置、③中途解約に対する派遣先責任(損害賠償)、④寮からの退去規制(借地借家法の適用)を挙げた。

 大企業が福利厚生で安く提供している社宅・寮とは違い、派遣会社が用意する寮の家賃は市場価格か、ないしは派遣会社のもうけを上乗せした金額になっている。したがって借地借家法が適用されるから、会社をやめたからといって、借家人はすぐさま退去することはない、と湯浅氏は語った。〔これを聞いて、私は、目からうろこが落ちる、という思いがした。〕

 湯浅氏によれば、「すべり台」から落ちた人には5つの選択がある。家族のもとに身を寄せる、自殺する、犯罪をおかす、ホームレスになる、NOと言えない労働者になる、だという。5つ目の「NOと言えない労働者」は、寮付きの求人であればとびつくため、賃金などの労働条件については要求できない。そのため、世の中の賃金水準を切り下げることになり、労働市場が壊れると言う。「家族のもとに身を寄せる」というのも、親が仕事から引退し、年金暮らしで医療費負担に苦しんでいたり、核家族化で頼りにくいなどの問題があるという。

 正社員の賃金を減らして非正規雇用に回せという意見がある。正社員の賃金は50歳台前半まで右肩上がり(あと急激に下がる)になっているが、湯浅氏は教育費や住宅費がかかるから支出も同様なカーブになっていると指摘。教育や住宅に必要なお金を個人が負担するというのを、西欧などのように政府が負担する形に改めることで、賃金カーブをもっとフラットにしていくべきだとの考えを表明した。〔これも傾聴に値する見解である。〕

 企業にとって非正規労働者は「とどのつまり人ではない。人と思っていない」。企業は非正規労働者を「企業の屋台骨を支えていく仲間ではない」と思っている。それは「日本が企業社会だという裏面だ」。そう語る湯浅氏は「しかし、横断的な外部市場が大量に生まれた。非正規雇用は1800万人から2000万人になっている。それを踏まえてどうするかを考えねばならない」と問題を直視するよう政府などに求めた。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月18日 (日)

岩田正美教授らの指摘

 1月17日に早稲田大学で開かれたシンポジウム「貧困の拡大とセーフティネットの役割ーー雇用と社会保障の交錯」を傍聴した。同大学《企業法制と法創造》総合研究所の催しで、橘木俊詔同志社大学教授と岩田正美日本女子大学教授の2人が報告し、それを受けて経済学者、政治学者、労働法学者がコメントし、あと討論をするという時間割だった。

 議論は多岐にわたったし、フロアの学者の意見もあったりして、私には消化しきれなかったが、印象に残った発言を引用すると――

○ 岩田正美教授は派遣切りなどの問題で「派遣労働者が会社の寮とか借り上げアパートにいたということについて、なぜ誰も何にも言わないのか」と述べた。これは90年代に起きたホームレス問題と同じ問題だという。ホームレスになった人たちの3分の2が会社の寮や旅館といった労働住宅にいて、そこを追い出されたとのことだ。

 英米では、ホームレスは軍隊とか精神病院など社会から隔離されたところにいた人たちがほとんどだという。これに対し、日本は会社をやめて、それまで住んでいたところを離れざるをえないことがホームレスになる主な原因だというわけ。日本は労働と住宅とが癒着している珍しい国だそうだ。

 企業から独立しているというのが派遣などの非正規労働の良さだったのに、いまのように雇用が不安定だと、失業者はとりあえずは寮付きの仕事に飛び付く。このように、労働者は企業にからめとられていると指摘する。

 岩田教授は「住宅は特殊な財。住むところがないと、選挙などにも行けない」、「住宅は政府が用意すべきだ。企業は雇用に純化すべきだ」、「(労働者には)常に一時避難所が要る。政府は外国にあるように、社会保障としての住宅手当をつくるべきだ」と強調した。

 住宅外に住む人は何人いるか。統計も何もないからわからないが、岩田教授は100万人ぐらいいるのではないか、と言っている。

○ フロアの大学教授の発言は、「日本では労使が国に何とかしてくれと言う。それではうまくいかないのではないか」と述べたあと、「正社員というのがあるために改革が難しい。解雇規制が厳しいと、正社員の採用がしにくい。社会保険料負担も高い。いまの正社員、非正社員の問題のもとになる正社員を改めねばいけない」というものだった。

○ 橘木教授は「経済活性化と公平性はトレードオフの関係にある。効率性と公平性を同時に満たす経済学がないのか。これが経済学者に与えられた課題だ。私には無理。天才経済学者の出現を望む」と述べた。また賃金を決定する基準として、貢献、必要、努力の3点を挙げた(このうちの「努力」については、コメンテーターから疑問が出た)。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年12月29日 (月)

社会保障給付費の大きさ

 社会保障制度を通じて国民に給付される金銭またはサービスの総額を示す「社会保障給付費」(ILO基準)は2006年度に89.11兆円だった。国立社会保障・人口問題研究所が11月に発表したもので、対国民所得比は23.9%。国民1人当たり69.7万円である。

 「社会保障給付費」を部門別にみると、年金が53.1%を占め、次いで医療が31.5%。介護対策は6.8%だった。

 給付費を機能別に分けると、「高齢」が50.1%と半分を占める。次いで「保健医療」が30.8%。以上の2つだけで全体の80.9%に達する。ほかには、「遺族」7.2%、「家族」3.4%、「障害」2.9%、「生活保護その他」2.6%、「失業」1.4%、「労働災害」1.1%、「住宅」0.4%。

 「高齢者関係給付費」(年金保険給付費、老人保健(医療分)給付費、老人福祉サービス給付費および高年齢雇用継続給付費を足したもの)は、62.23兆円で、「社会保障給付費」に対する割合が69.8%に達した。

 一方、社会保障財源をみると、収入総額は104.37兆円。社会保険料がその53.8%に当たる56.20兆円(事業主拠出27.0兆円、被保険者拠出29.2兆円)で、公費負担は31.07兆円で29.8%を占めた。

 研究所の発表には、ILO基準とは少し違うOECD基準の「社会支出」(2005年)で日本と欧米諸国とを比較したデータが添付されている。それによると、国民所得に対する社会支出の比率は日本が26.2%なのに対し、米国は20.3%と低いが、スウェーデン42.3%、フランス40.7%、ドイツ36.7%、英国28.2%と西欧の国はいずれも日本より高い。

 しかし、政策分野別社会支出の対国民所得比をみると、日本は「遺族」がフランスに次いで高いのに加え、「高齢」で日本は12.3%と、フランス、ドイツ15.2%、スウェーデン13.5%に近い。半面、「障害、業務災害、傷病」、「保健」、「家族」、「積極的労働政策」、「失業」、「生活保護その他」は概して比率が小さい。

 これだけで断定的な言い方はできないが、日本の社会保障は欧米に比べると、遺族向けと高齢者向けに重点が置かれているようにみえる。 

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2008年11月23日 (日)

年金の世代間格差についての吉川洋教授の意見

 厚生労働省の元事務次官および夫人に対する殺傷事件の背後に、世代間格差が内在する現行年金制度への不満があるのではないかという憶測もされている。

 たまたま社会保障国民会議の座長を務めた吉川洋東大教授の記者会見が21日にあり、年金制度について「私は、若い人たちが損しているということはないという考えだ」と語った。

 同氏は、賦課方式の年金制度では、「初期の加入者は自分が積み立てた年金保険料の8倍も受け取るなど大変なボーナスを得る。それで世代間格差が生まれる」と述べ、いまの年金制度に世代間格差が存在すること、そして制度としては問題があると語った。

 しかし、では、若い人たちがいまの年金制度に加入すると損かといえば、「私は経済学者として甘いといわれるが、税が入っているから、損ではないと考える」とし、さらに次のように語った。「技術進歩で所得が上がる。年2%の経済成長なら、35年で所得は倍になる。若い人たちは私より実質収入が2倍になる。年金だけをみると、トランスファー(所得移転)が起きて若い人たちは損しているが、経済的に生活は私の世代よりはるかに向上する。だから、結果オーライだと私は考える」。

 また、会見で、財政再建については、社会保障の分野と、その他(非社会保障)の分野との2つの部門に分けて区分管理するのがよいとし、「消費税は社会保障部門の安定財源だと考える」と語った。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年11月20日 (木)

社会保障国民会議の最終報告

 11月4日に発表された「社会保障国民会議 最終報告」を読んだ。年金、医療、介護などの問題点をどう改革すれば国民が安心できるセーフティネットになるか、を議論し、まとめたものという。社会保障制度は、政権が野党に移るたびにくるくる内容が変わるのは好ましくない。そういう観点から、福田首相のとき、民主党など野党にも参加してもらうつもりで社会保障国民会議を設けたが、野党が応じなかったといういきさつがある。

 とはいえ、社会保障国民会議では縦割りを排し、現在の社会保障制度が抱える課題や欠陥を列記し、それらを是正するためにどうすべきかを網羅的に書いている。それはそれとして理解できるが、制度改革の中身を個別・具体的に書いているわけではないので、説得力に欠けるうらみがある。

 その意味では、政治家がこの報告を有効に生かしてくれるかが肝腎だが、報告の発表をもってハイ終わり、というようなことになっているような気もする。

 「給付の裏側には必ず負担がある。」と報告に書いてあるように、社会保障制度改革の最大のポイントは、増大するサービス需要を賄う費用をどこの誰が払うかである。誰に払わせるかであると言っても同じことだ。とともに、既存の制度を効率化して、ムダを最小限に抑えることである。それには既得権益を持つ組織や人の抵抗を排さねばならない。そこはまさしく政治の出番である。

 その一番重要な点について最終報告はほとんど触れていない。読んでいて、物足りなかったのはそのせいだろう。

 ところで、厚生労働大臣の諮問機関である社会保障審議会の年金部会が、年金制度改革に向けた中間報告を19日にまとめた。これは基礎年金の拡充をめざして4案を提示している。さらに、より多くの高齢者が基礎年金を受け取れるようにとの制度改定を提示している。しかし、それには保険料や税負担の引き上げが必要であるが、国民の誰にどれだけ負担させるかについてははっきりしない。

 社会保障制度に対する国民の不満は高まる一方である。しかし、国民に対して、フリーランチはないこと、金持ちからふんだくればいいといった短絡的な発想では国民経済の発展はないこと、現役層から高齢層への所得移転が行き過ぎると日本の将来は暗いこと、等を政治はきちんと国民に理解してもらわねばならない。そのための努力がまず先だと思う。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年11月 9日 (日)

社会保障制度の綻びに対する経済界の懸念

 日本経済団体連合会の月刊誌「経済Trend」は11月号で「今こそ税・財政・社会保障の一体改革を」という特集を組んだ。いろいろな立場の人たちが登場していて参考になる。

 経団連は先頃、消費税引き上げを含む一体改革に関する提言をまとめた。それに関連したこの特集を読むと、「特に社会保障のほころびは、国民の不安を招き、国全体の閉塞感につながり、ひいては経済成長を阻害する大きな要因になります」(張富士夫日本経団連副会長・、トヨタ自動車会長)との認識に立っている。そこで、「日本が目指すべき将来像を明確に示し、その下で税制や財政、社会保障制度の改革を一体的、連続的に進めていく必要がある」(大橋光夫日本経団連評議員会副議長・昭和電工会長)としている。

 特集号を読みながら、「この人はこんなことを言っているの」と思いつつ、私が横線を引いた個所の一部を抜き書きすると――

 古川元久民主党税制調査会筆頭副会長=「特に担税力の高い人や企業ほど容易に国境を超え、納税する場所さえ選択する時代になっている。」、「消費税については、税収はすべて社会保障以外に充てないことを法律上も会計上も明確にする。」

 吉川洋東京大学教授=「医療費には効率化の余地があることは事実だが、大きく見れば先進国で医療費がGDPの成長率より高い伸びを示すのは、医学・医療技術の進歩を反映したものだから、医療費そのものの抑制を自己目的化することは正しくない。」、「EUに加盟する条件の一つが「消費税率15%以上」ということの意味合いを、われわれ日本人はもっと真剣に考えてみる必要があるのではないだろうか。」

 土居丈朗慶應大学准教授=「消費税の負担は逆進的ではなく、(生涯)所得に比例的になると理解するのが正しい。」、「(深刻な逆進性を持つ)社会保険料に代えて消費税で社会保障財源を賄えば、逆進性の緩和につながる。」、「所得控除を税額控除に換えつつ、給付付き税額控除を導入して低所得者に配慮する方法があろう。」

 山重慎二一橋大学准教授=「社会全体で高齢者を支える社会保障制度の下では、子どもたちが、社会全体に大きな便益をもたらす存在(公共財)になるという認識は重要である。」、「自分は子どもを持たなくても、他の人が子どもを生み育ててくれれば、社会保障制度を通して、老後の生活は保障される。だから、無理して結婚して子どもを育てる必要はない。そう考える人たちが少しずつ増えてきたことが、未婚化、晩婚化、そして少子化の一因と考えられる」、「子育ての支援のための費用負担を社会全体で、たとえば消費税のような形で、広く求めることが望ましいのである。」

 富田俊基中央大学教授=「(国債金利など)マーケットは将来の財政事情を先読みしている」、「国際金融市場はわが国財政に懸念を抱き、日本の債券にリスクプレミアムを求めているのである。」

 森田富治郎日本経団連副会長・第一生命保険会長(座談会での発言)=「所得税において各種控除制度を極力、税額控除方式へと組み替え、子の数によって累進的に増加する税額控除制度を創設することで、中低所得層の子育て世代に減税となるような集中的な支援を行うことが必要です。」

 津島雄一自由民主党税制調査会長(座談会での発言)=「無駄なことをやってはいけないけれども、必要な時は財政が出動して必要な仕事は行う。これまでこの財政の機能を少し軽視し過ぎていたと思います。」、「少子化対策が一番成功しているフランスでは、その対策に約10兆円使っていますが、日本では5兆円にも達していません。」、「特別会計全体で見ると、資産と負債の差額が68兆円あり、それを使えばよいということですが、黒字だけ集めると68兆円あっても、負債も考えると、実は289兆円の赤字になっています。」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年9月28日 (日)

少子化は経済にとって大した問題ではない?

 「人口減少と日本経済――労働・年金・医療制度のゆくえ」と題する日本学術会議の学術シンポジウムが9月26日に開催された。人口減少の背景と将来展望、社会保障制度の課題と展望、労働市場とマクロ経済への影響、という3つのセッションが持たれた。途中からのぞいたら、専門的な話が多く、正直言ってよくわからなかった。でも、印象に残った部分がある。さすが、学者、研究者だと思った。

 二神孝一大阪大学教授は「技術進歩と人口成長:出生率は低すぎるか」と題する報告で、いきなり「少子化は経済にとっては大した問題ではない」と述べた。大切なのは経済厚生であるという。また、家計は子どもの数を私的に決定しているのであり、市場の失敗でもないのに、子育て補給金を出すというのはおかしな議論だと指摘した。さらに、ワークライフバランスとか女性が働きやすい環境をつくることを少子化対策に結び付けるのはおかしい、出生率を何%にするかをまず議論してから少子化対策を考えるのが筋だと発言した。

 大竹文雄大阪大学教授は、常に団塊の世代が政治的な影響力を持ってきたと述べ、そのために、今後、教育への支出が減ると将来の経済成長に悪影響を及ぼす可能性があるとして、「世代別の国会議員数のワクを設けることで人口構成のゆがみが悪い影響を及ぼすのを避けることができる」、「次の世代を産む20歳代、30歳代の政治力が弱い。これらの世代の投票権を2倍にすることで、これから生まれる世代の代弁をさせることが考えられる」と指摘した。

 こうした理論経済学者からの報告・見解に対して、社会保障や労働経済学を専門とする学者、研究者の発言はというと、

 高山憲之一橋大学教授は「日本は役人が信用できないから、消費税の引き上げは15%までが精一杯。しかし、消費税の半分は地方に渡すということになると、社会保障に新たに向けられる財源は2%ぐらいしかない」と指摘した。そして「基礎年金の2分の1を政府が負担するようになったら、基礎年金の2分の1を税方式の年金とみなして、無年金者でもその分はもらえるようにしたらどうか」と提案した。その理由の1つとして、無年金者でも消費税を払っていることを挙げた。

 また、高山氏は社会保険庁の問題に関連して「行政における本人確認がいかに大事かが、今回の教訓」と言い、「最後の1人まで確認をするというのには賛成できない。どこかでケリをつけるべきだ」と語った。

 この点に触発された廣松毅東京大学教授は「統計学者として、年金の名寄せなどで半年と政府が言ったのは信じられなかった。それは不可能である。でも、我々の誰も、それを発言しなかった」と反省の弁を語った。同氏は「アカデミアはオルタナティブを提示すべきである」とも述べた。

 ところで、このシンポジウムをもとに来年末までに出版物にするという話だが、緊急性のある社会保障制度改革に学界が発言し、影響を与えていこうというのなら、そんな悠長なことを言っていては話にならない。せいぜい半年以内に、学術会議の分科会という立場で、論点を明確にし、選択肢を提示するぐらいはしてほしいものである。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年9月 8日 (月)

介護保険事業に対する行政評価と総務省の勧告

 厚生労働省が所管する介護保険事業の“成長”ぶりにはぞっとする。介護保険事業がスタートした2000年度の利用者数が184万人だった。それが年々増えて2007年度にはほぼ2倍に達した。介護給付費もほぼ2倍に増加した。2000年度3兆2427億円だったのが、2007年度(予算)に6兆6691億円である。

 訪問介護の事業所は2000年度に9833だったのが、2006年度には20948に、通所介護(デイサービス)の事業所も8037から19409に増えた。介護療養型医療施設は減ったが、介護老人福祉施設(特養ホーム)および介護老人保健施設も3割近く増えた。介護関連事業は日本の経済社会における高度成長分野である。

 当然、国民が負担する介護保険料は上がってきた。国や地方自治体の負担も同様だ。もとをたどれば、医療保険制度がパンクしそうになったため、当時の厚生省が拙速で立ち上げた介護保険制度である。法律を通すため、例によって、利用者数も、国民の負担も少なめに予測していた。“小さく生んで大きく育てる(?)”つもりだったのだろう。

 総務省が9月に発表した「介護保険事業等に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」は介護サービス従事者の確保に関する厚生労働省の取り組みなどについての問題点を明らかにしている。最も重点を置いているのは、介護サービス従事者の確保が困難であることに対する厚生労働省の取り組みについてである。結論を私なりに言えば、もっと真面目にやれ、ということである。

 勧告の中で、ゴチック体で強調されている部分を紹介すると、介護サービス従事者の「①離職原因・未就業の原因の実態把握、どのような対策等が講じられれば就業するのかなどについての意識調査が未実施、②介護サービス従事者の賃金の多面的・総合的な把握・分析が不十分、及び③介護サービス事業者の財務状況の分析が不十分」という。

 「所見」では、それらの「介護サービス従事者の確保に関する基本的な指標の把握・分析を行ない、その結果を踏まえて、介護サービス従事者が定着し得るような介護報酬を含む対策について検討する必要がある。」と述べている。厚生労働者は09年度に介護報酬の見直しを予定しているが、同省お得意の安易な制度見直しについて、予め待ったをかけたと言えよう。

 この「勧告」には、不正受給をなくす介護保険給付の適正化とか、有料老人ホームへの指導監督なども取り上げている。厚生労働省が制度をつくっても、その実行にたずさわる市町村が効果に疑問を抱き、実施していないとか、都道府県や市町村が決められた監査などをさぼっているとか、国も自治体もかなりでたらめなことが指摘されている。 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年7月18日 (金)

増える医療費の中身を見る

 日本全体の医療費は1年間に1兆円増えている。そのうち、70歳以上で約7千億円を占めるという。厚生労働省が16日に発表した07年度の国全体の概算医療費の内訳による。発表資料は、医療保険のレセプト審査に基づく医療費。自由診療は含まないし、労災も入っていないが、全体の動向はつかめる。

 1兆円の医療費増を誰が負担するのかについては、この発表資料は何も触れていない。過去のデータから推定すると、医療費全体の3分の1程度が国庫負担および地方自治体負担なので、そのぐらいの割合の金額が国および地方の財政の負担増になっているのではないか。残りは、私たちの保険料や、診療を受けたときの自己負担の増加と、事業主負担の増加になっているだろう。

 発表資料によると、07年度の医療費は33.4兆円。医療保険適用は31.9兆円(その差1.5兆円は公費負担のみの医療費)で、70歳未満が17.4兆円、70歳以上が14.5兆円である。70歳未満の医療費は01~07年度、ほぼ横ばいに推移している。それに対し、70歳以上は02年度11.7兆円から毎年0.5~0.7兆円増えてきた。

 1人当たり医療費は01年度23.9万円だったのが07年度26.2万円へと年々増えてきた。70歳未満は01年度15.7万円だったのが07年度16.1万円とやや増え気味である。これに対し、高齢者の場合、01年度75.8万円だったが、07年度も75.7万円と弱含み横ばいである。要するに、70歳以上の人の数が増えたことが、全体の1人当たり医療費を押し上げる主因なのである。今後もまだまだ高齢者の数が増えるから、医療費を押し上げる圧力は強いだろう。

 診療費と調剤とに分けてみると、07年度は28.2兆円と5.2兆円になる。01年度は27.1兆円と3.3兆円だったのだから、調剤の伸びが著しいことがわかる。診療費の内訳は医科が増える一方、歯科は横ばい。そして、医科は07年度に入院13.4兆円、入院外12.4兆円で、入院のほうが少し早いペースで増える傾向にある。

 マクロ的にみると、以上のように医療費(負担)は増える一方。他方で、医療崩壊といわれるような現象がいろいろ起きていて、国民にとっては深刻な事態である。良薬は口に苦し、というが、快刀乱麻のごとく問題を解きほぐし、すぐれた処方箋を書くことができる政治的リーダーないし勢力が現れてほしいものですね。

| | コメント (0) | トラックバック (0)