2017年11月11日 (土)

『ものづくり道』(西堀榮三郎著)を拾い読み

 西堀榮三郎といえば、日本の第一次南極観測越冬隊長であり、日本のQC(品質管理)活動の草分けでもある。また、いま日本経済新聞朝刊の「私の履歴書」を書いている石毛直道氏の所属した京都大学探検隊の先輩でもある。

 その西堀氏が晩年に書いた『ものづくり道』(2004年7月)は超一流の職人、岡野雅行氏が「ものづくりに携わる技術者、製作者のすべてに読んでほしい福音の書」と讃えた書物。拾い読みしても面白く、かつ、ためになる。

 同書によると、西堀氏が示す企業運営の基盤になる4つの原則は、まず、第一に「法の上に良心を置く」である。「法に触れないだけでなく、その上に良心を置いて運営に当たらなければならない」。「企業はあくまで良心に照らして人類の福祉に反しない行動をとるべきである」。

 第二に、「企業間のモラルを守る」である。「企業間の相互関係から生まれるモラルや倫理を踏み外し、他企業を陥れるようなことがあってはならない」。

 第三に、企業に携わるすべての人が「一致団結する」こと。愛社心と一致協力の精神をもって企業体質の強化に努力すべきであり、そのためには、すべての部門で困難に立ち向かう勇気が生まれる雰囲気をつくることが大事という。

 第四に、「役割に全力を尽くす」ことである。企業は「存立目的に照らした社会的使命を念頭に」、「企業に関わるすべての人の生活を保障し得るようにすべき」だという。そのためには、共同の目的を掲げ、それを各部署、各人に分け、それぞれが実施目標を立て全力投球することになる。

 西堀氏は、京大助教授から、実生活に役立つ研究をするために東芝へ転職した経歴がある。その東芝の経営が破綻に近い状況に陥っている。また、神戸製鋼所や日産自動車などは法を軽視していたなどで窮地に立っている。同書を読んでいると、いろいろな出来事と重ね合わさって、考えさせられる。

 

 

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2017年10月20日 (金)

戦争を知らない世代が政治を担うと危ない

 伊藤忠商事社長や中国大使を歴任した丹羽宇一郎氏が、20日、日本記者クラブで著書『戦争の大問題』をめぐって会見した。

 同氏は「歴史に目を背けてはならない」と言い、「戦争を知っている人は皆、戦争だけはやめましょうと言う。今日のように、戦争を知らない世代が政治の中枢になると危ない。本当に戦争になりかねない」と警告を発した。

 そして、米国や日本などが北朝鮮に経済的制裁など圧力をかけていることについては、1941年に米国がハル・ノートで日本を開戦へ追い込んだのと同じ状況ではないかと指摘。日本とドイツが米国、ロシアを説得して、北朝鮮ともども核兵器を2年間凍結し、国連に預託するよう提案した。

 ひとたび、これが成功すれば、2年の期限後に解除することはできない。解除は戦争開始につながるからだと語った。

 戦争に関する記憶は筆者にもある。だから、戦争がどんなに悲惨なものか、わかる。したがって、丹羽氏の言うように、政治家やメディアが戦争につながりかねない政治の動きにもっと敏感でなければならないというのに諸手を挙げて賛成する。

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2017年4月26日 (水)

カルビーの松本会長・CEOの経営論は刺激的

 ポテトチップスで有名なカルビーの松本晃会長が25日、東京・日比谷の日本記者クラブで講演した。質疑を含め1時間だったが、日本企業が求められている変革についての指摘はエキサイティングだった。

 変革とはカネ、権力、地位といった既得権を奪うこと、と言う松本氏は2009年にカルビーに入り、まず権限、個室、社用車、接待費をやめるなど、古い仕組みと悪しき文化を壊したという。

 同社は女性の工場長が2人いるし、米国法人の社長も女性である。また、執行役員の中日本事業本部長は女性だが、子供が2人いるので、「午後4時になったら帰る」ように命じてあるという。

 女は偉くなりたがらないという人がいるが、それは全くの嘘。女性は男性と同じように優秀であり、昇任と報酬がバランスがとれていれば、昇進に前向きである。

 会社が求めるのは成果であり、労働時間ではない。4月1日から、(工場などの現場以外は)社内外のどこで働いてもかまわないことにした。上司には部下の時間を奪うな、と言っている。ノー・ミーティング、ノー・メモだ。

 転勤で個人の幸せを奪うべきではない。カルビーに入社してすぐ、転勤拒否を認めるようにし、それで差別してはならないと決めた。社員が家族と一緒に暮らすことが大切だから。

 日本の会社がもうからないのは、もうける気がないから。グローバルスタンダードの利益率をめざすことなく、日本国内での横並びの考え方を続けているからだ。古い慣行が人を駄目にし、会社を駄目にし、国を駄目にしてきた。成果を出すためには、それを徹底的に変更しなければならない。

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2017年4月11日 (火)

100年後の日本の人口は? 江戸末期に近いかも

 国立社会保障・人口問題研究所が「日本の将来推計人口」(平成29年推計)を10日に発表した。少子化、高齢化などで、我が国の人口は減少傾向をたどっている。では、50年先、100年先はどうか。

 推計によると、2015年に1億2709万人だった我が国の総人口は、長期の合計特殊出生率が1.44(中位仮定)として、50年先の2065年には8807万人になる。老年人口の割合は38.4%という。そして、長期参考推計によると、100年先の2115年には総人口がいまの半分以下の5055万人になるとしている。

 推計の前提を死亡率高位、出生率低位としたケースでは、100年先の総人口は3786万人と、江戸時代末期に近い。

 また、生産年齢人口に対する老年人口の割合を示す老年従属人口指数は、2015年が43.8(働き手2.3人で高齢者1人を扶養)だった。これが2065年には74.6(働き手1.3人で高齢者1人を扶養)することになるという。これを具体的にイメージすると、とんでもない事態だとわかる。いまでも高齢化が国家財政を圧迫し、これがさらに深刻化しつつあるのは御承知の通りだ。

 政府が2016年6月に閣議決定したニッポン一億総活躍プランでは、希望出生率1.8%の実現を政策目標に掲げた。それに本気で取り組んでいかないと、日本の社会は間違いなく活力を失う。

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2017年3月29日 (水)

政府ペースの働き方改革実行計画

 安倍内閣は3月28日に働き方改革実現会議(議長=安倍首相)を開催し、「働き方改革実行計画」を決めた。長時間残業、非正規雇用と正規雇用との賃金格差、最低賃金の引き上げなどを対象に、ワークライフバランスなどの観点から是正をはかろうとするものである。

 日本経済新聞によると、実行計画は9分野で慣行を打破しようとするもので、それらは①残業時間規制、②柔軟な働き方、③非正規の処遇、④最低賃金上げ、⑤外国人の就労、⑥シニアの活躍、⑦転職や再就職、⑧仕事との両立、⑨女性・若者支援にわたっている。

 しかし、残業の上限を年間720時間とし、繁忙月には100時間未満とするなど、確かに一歩前進するが、ワークライフバランスの達成は夢また夢と言わざるをえない。インターバル規制も努力義務にとどまる。そのほかも、パンチ不足だ。改革に真摯に取り組んでいるという姿勢を国民に示しながら、実際には、難しい問題は先に延ばし、年月をかけて段階的に改革を進めるという色彩が濃い。

 そうした漸進的な改革にとどまってしまうのは、肝心の労働側の腰が引けているからではないか。春季生活改善闘争はよしとして、労働運動が結束して政治を巻き込む制度改革への取り組みは皆無に等しい。これだけ豊かな国になっても、労組が産別を越して共闘し、時短とか、最低賃金とか、インターバル規制とか、基本的な権利をめざしてデモやストライキなどで闘うことがないのは労働運動の退廃ではないか。

 今回も、安倍政権が改革をリードしているかのような印象を国民に与えているが、それは連合をはじめとする労働運動の側の怠慢である。厳しく反省してもらいたい。

 

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2017年3月22日 (水)

日本のものづくりの強さと問題点

 福井市を拠点に、繊維の一貫生産体制など独自の経営を行なう企業、セーレン。先週、同社の独創的な経営を推進してきた川田達男会長が日本記者クラブで会見した。その中で、同社の生産の6割は海外だとし、日本企業が海外でのものづくりにおいて強い理由として次の3点を挙げた。

 ①外国では、会社の中で他の人にスキルを教えない。日本人は別だが。②外国では、チームで仕事ができない。管理職は個室にいる。チームで仕事がやれれば、掛け算の成果が出る。③外国では、働く人に会社への帰属意識がどこにもない。会社のためなんて考えない――と。

 確かに、日本のものづくりの強さは、川田氏が指摘したような要因に支えられてきたと思う。だが、このところ、安倍政権も唱える働きかた改革が脚光を浴びているように、日本のものづくりに代表される企業経営の”影”が色濃く感じられる。

 それを象徴する1つは電通の女性社員の過労死であり、いま1つは東芝の巨額の粉飾決算・経営危機である。どちらもグローバルに事業を展開してきたビッグビジネスである。いずれも、社内から問題を提起することはなかった。社員には、人として、また社会人としての常識、良識すら欠けていたのではないかと疑いたくなる。(筆者自身、過去にどうだったか、と振り返ると、いささか心もとない)

 第二次世界大戦後の日本は、国民総出で経済復興にいそしんだ。労働者は仕事に生きがいを感じ、会社の発展に尽くした。労働組合は企業内組合であり、給与などの労働条件は属する会社の成長いかんにかかっていた。そのため、会社第一主義が当たり前となり、労働条件にせよ、働く人の暮らしにせよ、企業の論理が大きく影響した。個人は会社の前には無力だった。

 それでも、本当に日本はものづくりが強いと誇れるのだろうか。いまも根強い会社第一主義を抑えるには、個別企業を超えた力のある産業別労働組合のような組織が不可欠ではなかろうか。もちろん、産別があっても、それが資本に対抗する力を持たねばならないが。いずれにせよ、日本の企業内組合は、企業の経営側には都合がいいが、組合員にはそうではないと言えよう。

 

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2017年3月 2日 (木)

賃上げ闘争にJAMが提起した新たな視角

 3月に入り、賃上げ闘争(春季生活闘争)が本格化しようとしている。働き方改革、人手不足など、新たな潮流とも重なり、従来とはいささか異なる展開を示すこともありえよう。そうした中で注目したいのは、ものづくり産業労働組合JAMが進める「価値を認めあう社会へ」の運動である。

 即ち、労働組合が会社側に賃上げを要求する”春闘”という従来の狭い視点から脱し、企業に対し、製品ごとの収益性をチェックし、赤字受注をしている製品を、打ち切りを含め見直すこと、受発注相互の取引条件を見直し、適正なコスト負担になっているかを確認するなどを求めている。また、短納期や長時間労働などの無理な働き方を解消するよう要請している。

 それらの収益改善に向けた取り組みによって、ヒトへの投資に向けた原資を確保し、労使が一体となってものづくり産業・企業の基盤強化を図ろうというわけだ。

 JAMに加盟する労働組合は中小のものづくり企業のそれが多く、JAMの指導員が経営改善を必要とする中小メーカーに経営改善プランを提起することもあるという。JAMはそうしたユニークな活動で知られるが、「価値を認めあう社会へ」の活動は、それからさらに踏み込んだ新たな取り組みだと思う。

 JAMの宮本会長は「JAMは、機械・金属産業の中小・ものづくり産業別労働組合として、製品の価値(公正取引)と労働の価値(賃金水準)を正しく評価し、「価値を認めあう社会の実現」をめざして、労使がイニシアティブを発揮した運動を展開していきます」と語っている。息の長い取り組みになろうが、持続することを期待したい。

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2017年1月 9日 (月)

太平洋戦争で奈良などの文化遺産が多く無事だった理由

 太平洋戦争末期において、東京大空襲と広島・長崎への原爆投下とは、日本本土が受けた最も悲惨な攻撃だった。米軍機は東京を無差別に空襲したといわれる。だが、8日のNHK・BS放送「芸術家の太平洋戦争 法隆寺を愛した米国人」によれば、米軍は日本本土爆撃に先立って、法隆寺など日本の歴史的文化的重要遺産などを破壊しないように、空爆の対象からはずずといった措置をとったという。

 東京に対する空爆においても、皇居をはじめとして、博物館のある上野公園一帯や東京大学、東京駅などを爆撃対象から除いていたことを、初めて、この番組で知った。浅草寺も爆撃対象外だったが、これは燃えてしまったという。

 この番組を途中から見たため、間違って理解しているかもしれないが、これには、日本の古くからの寺院・仏像などに傾倒し、戦後、「不滅の日本芸術」(翻訳書は1954年に朝日新聞から出版された)を書いた研究者、ラングドン・ウォーナァなどの日本文化研究者が軍を説得し、動かしたという事情があるようだ。戦後、日本から賠償として日本の古美術などを持ち去ろうとする戦勝国の主張もあったというが、これも米国の学者・研究者の働きかけで阻止されたという。

 日本の古来の歴史、文化は世界に誇る価値があり、いま、日本の”観光立国”を支える大きな柱となっている。第二次世界大戦の最中、歴史的文化遺産を空襲から守るため、寺院などは独自に仏像などを疎開させたりした。

 しかし、それとは別に、米軍のサイドで、日本の重要な文化・歴史遺産の保護を訴え、実現させた学者・研究者がいたのは驚くべきことである。米国の懐の深さを痛感する。

 

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2016年12月 9日 (金)

原発事故費の経産省試算

 東京電力福島第一原子力発電所の事故処理費について、経済産業省が9日、新たな試算数値を発表した。朝日新聞の報道によると、総額は21.5兆円、2013年時点の想定額11兆円のほぼ2倍である。

 廃炉・汚染水対策が8兆円(以前の試算では2兆円)、賠償7.9兆円(同5.4兆円)、除染4兆円(同2.5兆円)、中間貯蔵施設1.6兆円(同1.1兆円)という。

 除染、中間貯蔵施設の2つは国が負担する。賠償は東電負担を原則とするが、ほかの電力会社や新電力にも負担させるとしている。

 東電は実質的に経営が破綻しているが、事故処理のためにも存続させる必要があることから、国が資金繰りの面倒もみてきている。しかし、今回の試算の金額ですむとは思えない。安全に廃炉を完了するための技術のメドがついていないからだ。

 いまの想定でも廃炉までに40年かかるが、それで無事、作業が終えられるかどうか。試行錯誤の繰り返しになるのではないか。

 その間、廃炉などの技術開発が新たな経済価値を生む側面もありうるが、そこに多数のすぐれた人材を投入せざるをえないため、日本経済全体の競争力強化の足を引っ張る可能性が大きい。

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2016年12月 1日 (木)

過労死招く長時間労働をなくせ

 都内の中層共同住宅に住んでいるが、12月1日の夜9時過ぎ、宅急便の配達に来ている男の従業員と立ち話をした。

 「きょうは、もう少しすると配達業務が終わる。それから事務所に帰り、記録する仕事がある。それから退社する。いまは、お歳暮の配達が始まっているので、出社が早くなり、きょうは7時だった」――という内容だった。労働時間は12時間をゆうに超えると思われた。

 電通で入社2年目の若い女性社員が極端な長時間労働のため自殺した事件はさまざまな波紋を投げかけている。労働局の立ち入り調査もあり、刑事事件として立件されるかもしれない。そうしたおりだけに、宅急便の配達人の話は聞き流してしまうには重すぎるように思えた。

 去る11月29日、日本記者クラブで、電通の過労死で訴訟にたずさわっている川人博弁護士の話を聞いた。「長時間労働は有害そのもの」と断言する同氏は「第三次産業では、お客さまは神様、クライアント・ファーストで、働く者への配慮がなさすぎる」と語った。そして、買い手・発注者側が売り手・納入者に対して、無理な納期設定や、契約とは関係のない業務サービスの提供を要求するなどの問題があると指摘した。

 労働基準法により、週40時間、一日8時間労働を超えて働かせるには、労使の合意が必要である。我が国では、このいわゆる三六協定に基づいて、時間外労働(割増賃金付き)が広く行われている。しかし、EUのインターバル規制のように、次の就業までに11時間の間隔を置かねばならないというルールがないため、休息・睡眠時間の確保ができない。

 また、電通の事件のように、残業しても、それに見合う賃金を一部しか払わないタダ働きも多くあるといわれる。

 川人氏は「業務量過多・人員不足のなかで一方では過労死が発生し、他方で業務不正が発生」しているほか、「業務上の原因で精神疾患にかかり、長期療養にいたる事例が増えている」とも指摘している。

 同氏は結論として、「働く者の健康なくして、健全な経営は成立しない」と強調した。経営トップがそれをどこまで理解し、実践しているか、そこが日本的経営の評価の分かれ目だろう。

 

 

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