2009年11月19日 (木)

もの皆、値下がりしている

 東京株式市場はきょう(19日)も結構値下がりした。明るい材料がまるでみられないとあっては、当たり前だろう。値下がりは一般の商品・サービスでも目につく。ものが安くなると、家計は助かるが、大半のビジネスを窮地に追い込む。そして雇用などへの波及を通じて、日本経済と国民生活にさまざまな悪影響を及ぼす可能性が大きい。

 街を歩いたり、買い物をしたりすると、本当に、商品・サービスの値段が下がっていることを実感する。きょう、昼の12時過ぎに東京・神田の裏通りを歩いていたら、弁当屋で50円引きサービスがあり、サラリーマン風の男たちが十人ぐらい並んで買っていた。もともと300円台の値段の弁当である。最近は持ち帰りの弁当の値段で300円台というのが多くなった。そうした目で駅周辺を見たら、あちこちで庶民向けの食堂、レストランがランチの値段を何十円か下げたという幟(のぼり)が立っている。

 食品スーパーで日常の食材を買っているが、最近は野菜にせよ、果物にせよ、たびたび、驚くほどの低価格で売っている。大根1本が100円もしなかったりする。生産者の労力だとか、流通費用などを思うと、気の毒になるし、こんな価格で持続可能な農業なんてありえないだろうと考えてしまう。

 マクロ経済統計では日本経済が回復の方向にあるという。しかし、エコポイントなどで下駄をはいている状態で、企業は新卒採用を極度にしぼっているように、冬ごもりに近い。雇用を抱え、操業度を維持するために、安売りでも何でもせざるをえない企業もあると思われる。

 中小企業の債務返済を猶予させるための中小企業金融円滑化法案を強行採決によってでも可決しようという民主党の政策もプラス・マイナス両面があり、明るい材料にはならない。財政危機を背に、日本経済をどうやって成長路線に乗せるかという問題意識がどうも民主党政権にはなさそうだ。子ども手当のような、限られたパイの配分にばかり夢中になっていて、ある種の視野狭窄症にかかっている。

 世界経済危機でG20とか、国際会議がひんぱんに開かれ、主要国のトップや閣僚が今後の世界戦略を議論している。主要国は自国に有利な仕組みづくりに懸命だ。それなのに、政務三役を採り入れた民主党政権は国会開会中であろうと、どうしてこれらの会議に大臣が出かけないのか。そのくせ、やたら対外援助の大盤振る舞いだけはする。これでは、自民党政権のときと変わらない。

 消費者物価指数の下落など、デフレの様相を示す指標が出ている。このため、菅副総理が補正予算編成を打ち出した。それは当然なすべきことだが、財政健全化の重い課題を踏まえ、中長期的な成長政策を明確に提示するものであってほしい。

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2009年9月24日 (木)

企業の先行き見通しはとても厳しい

 日本政策投資銀行の調査研究誌『調査』の第100号(09年9月)に大企業(資本金10億円以上)を対象とした「企業行動に関する意識調査」の結果が載っている。それによると、日本経済の今後の見通しは相当に深刻だ。

 売り上げが金融危機以前のピーク水準に回復する時期はいつかとの問いに対し、「2011年度」という回答が19%、「12年度以降」というのが22%もあった。製造業に限ると「12年度以降」は26%に及ぶ。そして、「回復しない」というのが製造業で13%、非製造業で14%もある。

 業種別にみると、非常に厳しい見方をしているのは輸送用機械と鉄鋼である。輸送用機械では「12年度以降」が45%、「回復しない」が21%。鉄鋼は「12年度以降」42%、「回復しない」が23%となっている。非製造業で暗い見通しを示しているのは運輸と建設・不動産である。運輸は「12年度以降」が22%、「回復しない」が17%であり、建設・不動産もそれぞれ23%と16%である。

 比較的、回復が早そうな業種であっても、危機以前のピーク水準に「回復しない」という回答が8%~15%もある。

 また、中期的な設備投資計画の修正状況については、「修正あり」63%で、その内訳は「2割以上減額修正(予定を含む)」が28%、「多少減額修正(予定を含む)」が24%、「総額は修正しないが、内容を見直した(予定を含む)」が9%、そして「増額修正(予定を含む)」が2%である。

 製造業をみると「2割以上減額修正」が45%に達する。顕著なのは、輸送用機械の71%、電気機械の55%、鉄鋼の53%、化学の40%で、食品は5%にすぎない。非製造業の場合、「2割以上減額修正」が16%で、業種別では卸売・小売の24%が目立つ。

 そして、中期的な設備投資計画額を減額修正する地域(3つまでの複数回答)をみると、日本が圧倒的に多い。製造業か非製造業かを問わず、また製造業の中の素材か加工・組立かを問わず、100%近い企業が日本における設備投資を減らすと回答している。北米、中国、アジア(中国、インドを除く)における設備投資を減らすとの回答もあるが、多くても20%弱にとどまっている。

 一方で、企業が中長期的に取り組んでいる事業分野は何かとの問いに対し、省エネ/新エネ/温暖化対策という回答が50%弱で一番多かった。太陽光発電、エコカーがそれに続く。以上と比べると割合はかなり低いが、福祉/医療/ヘルスケア、バイオ関連などが挙がっている。しかし、これらの有望分野に、日本経済全体をプラス成長させるだけの牽引力を期待するのは無理だ。

 したがって、このままでは日本経済の先行きは全体として縮小傾向をたどると予想せざるをえない。鳩山新政権の経済政策には企業の競争力の強化などという問題意識はないが、それでは結果的に、雇用も生活もいまより厳しい状況に追い込まれるのではないか。政策投資銀行の調査結果をみていると、そんな気がする。

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2009年9月23日 (水)

『経営にカリスマはいらない』(森一夫著)で知る企業経営の難しさ

 日本の高度成長時代、大企業の経営トップはなんと楽だったことか。社長としての任期中に形相が変わるほどの深刻な経営課題に直面するのはまれ。基本的には、「おみこし経営」で、下から持ち上げてくる決済案件に承認のハンコを押していればよかった。

 これに対し、現代の日本企業10社を例に、経営刷新の過程を描いた『経営にカリスマはいらない』(森一夫著、日本経済新聞出版社)を読むと、国内市場をベースに発展してきた日本の企業が、技術革新とグローバル化、IT化などで激化する世界競争に直面して、どうやって戦える企業に変身したか、そのために経営トップがどのようにリーダーシップを発揮したか、その苦闘の様子がわかる。

 同書によると、「固定観念、前例、因習、慣行など、様々なしがらみに迷わされず、発想にワクをはめる呪縛を断つ経営が、集団の個々の力を解放する新しい日本型経営の進むべき道である。偶像を不要とする、人間の人間による人間のための屈託のない経営が、いま企業を革新する」という。

 そして、乱世に必要な経営者の条件は次の5つだという。①現場で血となり肉となる仕事を十分にやってきている、②失敗経験など、修羅場を経験している、③傍流を歩んだり多様な仕事をしたりして、複眼的なものの見方を身に付けている、④仕事を通して感動的な体験をしている、⑤損得、金銭を超えた価値観を養っている。

 なるほどと思う。変身しきれない多くの日本のビッグビジネスについても、こうした経営革新を遂げていってほしいと願う。

 ところで、このようなビジネス界のニーズに沿った教育、人材育成がこの日本で行われているのだろうか。試験問題に対して、いち早く正解を書けるようになるだけでは、受験競争に勝ち抜くことができても、上記のような人間力を備えた人物になるのはなかなか難しい。

 いま、日本の大学および学生の質が低すぎるとして問題になっているが、民主党政権のもとで、世界の大学の実情を踏まえ、思い切った教育改革を推進してほしいと思う。

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2009年5月 7日 (木)

世界的な自動車再編劇の進行

 イタリアのフィアット社が、破産した米国のクライスラー社を手に入れようとしている。フィアットは米国GM社の欧州子会社であるオペル社をも買収しようとしている。欧州の自動車産業の中で、どちらかといえば競争力が劣るとみられていたフィアットが、米国ビッグスリーの危機をチャンスに世界的な主要乗用車メーカーに飛躍しようという挑戦である。

 中国の吉利汽車(本社は香港)もGM系列のサーブ社(スウェーデン)を買収しようとしている。吉利は先に米フォード・モーターズ社の傘下にあるボルボ社(スウェーデン)の買収をめざしたが、色よい返事がなかったといわれる。BRICSの中でもめざましい経済発展をとげつつある中国、インドのうち、一足先に、インドのタタ・モーターズ社が昨年、英国のジャガー社およびランド・ローバー社をフォードから買い取っている。米欧日の自動車メーカーが中心だった世界の自動車産業地図が塗り替わり始めた。

 ドイツでは、ダイムラー社とBMW社が共同購入によるコスト引き下げなどを目指して提携関係に入ったし、フォルクスワーゲン社は大株主のポルシェ社との統合を発表した。

 このように、世界の自動車産業は大掛かりな乗用車メーカー再編成の波に洗われている。その背景には次のような事情がある。第1に、世界同時不況で先進国の自動車販売が極度に不振に陥ったままであり、しかも自動車販売金融もあって収益的にも資金繰り面でも苦しいメーカーが多い。そのため、政府の金融支援などが米、独などで行なわれている。日本でも、日産自動車などが販売不振で資金難に陥り、日本政策投資銀行から融資を受けたりしている。

 第2に、これとは対照的に、中国、インドなどでは自動車に対する潜在的な内需が強く、タタが発売した超小型車「ナノ」のように注文が殺到し、売れ行きが好調なメーカーもある。それに、これらの国のメーカーはかつての日本の自動車産業発展期と同様に、国内、海外での事業拡大志向が強い。

 第3に、先進国では、昨年の石油の急激な値上がりや、地球温暖化問題を意識する消費者の増大に伴って、小型車へのシフトやハイブリッド車など環境対策車の選好が進行している。米国では電気自動車や燃料電池車への関心が高まっている。やたら石油燃料を食うSUVのような車を収益源とする自動車メーカーのビジネスモデルは過去のものとなりつつある。

 世界同時不況からいつ、どのような形で経済が回復するか、まだわからない。景気が回復しても、先進国の乗用車需要は以前の7、8割にとどまるのではないかとの見方が強い。また、企業買収や合併は企業風土の異なるもの同士なので、成果が出るかどうか、出るとしても年月がかかるだろう。ただ、中国、インドといった後発工業国のメーカーが世界の乗用車供給に大きなシェアを占めるようになるのは確実と見てよかろう。

 ところで、現在の世界的な自動車産業再編劇に日本の乗用車メーカーは参加していないようである。日産はルノーと一緒に動く可能性はあるが、それ以外は受身にせよ、話題になっていない。欧米の外資を買収し、使いこなすという点で、日本の企業は中国、インドの企業よりも遅れていると言うべきか。 

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2009年4月29日 (水)

決算発表・予想にみる日本企業の強さ

 3月期決算会社の決算発表が行なわれている。2009年3月期(2008年度)は石油などの原燃料の急騰や反落、円高や、サブプライムローンに端を発する金融危機、世界同時不況などのため、日本経済は大きく揺らぎ、縮んだ。多くの企業の業績が急速に悪化し、不動産業などでは、資金難で破綻に追い込まれる企業が相次いだ。株価の下落などによる損失も大きかった。

 発表になった企業決算は、そうした激変を如実に映し出している。07年度に比べ売り上げも利益も大幅に減る企業が大半で、経常損益や最終損益が赤字になったところも続出している。トヨタ・グループの優良企業でさえ、ほぼ軒並み赤字を計上している。最終損益が何千億円、何百億円もの赤字になった大企業もかなりの数にのぼる。これから荒療治に乗り出す企業もある。

 しかしながら、今年度、つまり2010年3月期(2009年度)の決算予想(一部の企業は発表していない)を個別に見ていくと、売り上げが前期よりさらに相当減るにもかかわらず、経常利益・最終損益とも少ないながら黒字の企業が結構あるのに気付く。それらの経営者の発言は慎重だが、前途にあまり不安を抱いてはいないようにみえる。

 その理由は企業によってまちまちだろうが、次のようなことが挙げられよう。第1に、設備投資の抑制、諸経費の節減が挙げられる。第2に、前回までの不況に対応して、経営効率化を図り、固定費の比率を下げてきたことである。そして、第3に、含み損など不良資産を09年3月期決算においてまとめて落としたことである。どこも経済危機の嵐にあい、経営責任を問われないですむということから、前3月期決算で、できるかぎりウミを出したということではないか。もう1つ挙げると、取り組むべき新事業や新製品があることである。

 過去の長い不況と近年の好況のもとで、日本企業の競争力は総じて強くなった。企業の09年度の決算予想の数字はそれを反映しているように思える。

 大企業の自己資本比率は今回の巨額の損失でかなり下がったとはいえ、それでも、一部の企業を除いてまだ高い。そのゆとりの表れの1つが積極的な企業買収である。直近では、三井住友フィナンシャルグループが米シティグループ傘下の日興コーディアル証券などを買収することで話がまとまったようだが、キリンホールディングスがオーストラリアなどの食品関係企業を買収するなど、日本勢による企業買収が相次いでいる。

 09年度の日本経済は実質3.3%のマイナス成長となる、と内閣府が政府見通しを引き下げた。上場会社の企業収益は損益面ではもっと大きなマイナス幅になるが、企業の意欲は数字ほど悪くはない。09年度が収益面で底になるのなら、その後は、明るい展望が開ける可能性は十分ある。 

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2009年4月23日 (木)

3月決算で何千億円の赤字会社が続出

 3月期決算の発表シーズンを迎え、巨額の赤字を計上する大企業に関する報道が相次いでいる。日立製作所が7000億円、野村ホールディングスがやはり7000億円前後、農林中央金庫が6200億円(経常赤字)、みずほフィナンシャルグループ5800億円、三井住友フィナンシャルグループ3900億円、三共3000億円、NEC2900億円、東芝2800億円、日産自動車2650億円等々、最終損益(連結)が何千億円にもなる大企業が相当の数になりそうだ。ちなみに、7000億円というのは国民1人当たりにすると6千円弱である。

 世界同時不況で、自動車、電機などの輸出が激減したり、株価の大幅下落で各企業が保有する株式の評価損が発生した。国内経済もそれらの影響で縮小した。そんなこんなで多くの産業・企業は打撃をこうむった。それらの集積が、目の玉が飛び出るような赤字となって現れた。もちろん、同じ業態の企業同士でも業績悪化の度合いは相当違っていて、経営の良し悪しや運不運を反映している。また、財務の健全化を重視し、この際、厳しい資産評価をしたという企業もある。

 海の向こう、米国では巨額の赤字になったシティグループの株主総会があった。6時間にもわたった株主総会では、株価がゼロに近い水準まで下がったり、公的資金を受けてやっと生き延びたような経営実態に株主の不満が次々に表明されたという。経営者は結構うまい汁を吸っているが、株主は大きな損を抱えているという実情がアメリカ資本主義の現在のようだ。

 日本もどうやら似た状況である。株価は大幅に下落してほとんど戻らない。しかも、自己資本比率を下げないために大量に新株を発行する企業が多く、その結果、1株当たりの利益が下がるなど株式希薄化が進む。従来からの株主にとっては痛手だ。

 だが、このように、株主に損害を与えているのに、株主に対して申し訳ないとわびる企業の経営者はなかなか見当たらない。100年に1度の経済危機だからという免罪符を手にしているからかもしれない。だが、こういう時期こそ、経営の真価が問われていると謙虚に反省することが経営トップに求められているのではないか。

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2009年3月21日 (土)

経済危機で最も打撃を受ける先進国は日本というIMF予測

 最近、IMFが発表した世界経済予測によると、先進国の経済成長率は2009年に前年比でマイナス3.5%~マイナス3.0%になるという。そして、2010年には、0.0%~プラス0.5%を予測している。

 先進国経済の内訳をみると、2009年は、米国がマイナス2.6%、ユーロ圏がマイナス3.2%なのに対して、日本はマイナス5.8%と、最も落ち込みが激しい。2010年は、米国がプラス0.2%、ユーロ圏もプラス0.1%とわずかながら上向くのに対し、日本はマイナス0.2%と依然、底を打たない。

 過ぎ去った2008年をみても、米国がプラス1.1%、ユーロ圏がプラス0.9%だったが、日本はマイナス0.7%だったと推測されている。

 バブル崩壊後の失われた10年で、日本は経済構造を改革したかと思いきや、サブプライムローン問題を震源地とする世界的な金融危機と経済危機の余波で、最も深刻な打撃をこうむっているのである。

 IMFによれば、日本は輸出と設備投資の落ち込み、および個人消費の低迷を反映した生産の急激な低下に直面している。金融部門は危機の主因ではないが、経済不振の悪影響を受けているという。

 世界全体の成長率は2008年がプラス3.2%、2009年がマイナス1.0%~マイナス0.5%、2010年が0.0%~プラス0.5%である。世界全体と比べても、先進国と比べても、日本の不振が際立っている。

 輸出に依存する経済体質を内需主体に変えるべきだという意見は、こうした日本の特異体質から来るものだろう。それにはうなづけるものがある。介護などの福祉や環境・エネルギー、農業などの分野を伸ばすことは社会の要請でもある。だが、輸出依存度の高すぎる自動車、電機などの製品の輸出が減るのはよいとして、日本全体として、国内自給率の引き上げを進めるとともに、どうしても必要な原材料などの輸入をまかなうだけの輸出額を確保できないと、国民生活の安定は保てない。

 いま、経済界は30兆円程度の追加経済対策を政府に要請している。政界でも、巨額の09年度補正予算をという声が高まっている。だが、そうした大盤振る舞いへの期待は目先の需要不足を埋めることが中心である。あわてふためくあまり、バブル崩壊後の財政出動と同じように、将来に財政破綻の道しかないような政策をとるのは避けねばならない。現在の急激な経済縮小に対する応急の財政出動においても、叡智を集め、将来を見通したベストの政策を生み出す必死の努力を政府に求めたい。麻生総理大臣が各界の代表からヒヤリングをしているのは結構なことだが、与党・政府がそれを単なるパフォーマンスにとどめるだけでは困る。

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2009年3月 8日 (日)

ROE(株主資本利益率)の影響

 株式市場における投資のものさしは企業の経営に影響を及ぼし、経営のやりかたを変える。

 高度成長時代までの日本の株式市場では、株式配当は年1回、額面の1割が当たり前だった。額面はほとんどの企業が50円だったから1株につき年5円の配当である。増資するときは株主割当で、払い込みは1株50円という額面増資であった。株価がいくらだろうと、また、資本金以外の準備金など内部留保がいくらあろうと、株主から預かっているのは資本金だけと考え、1株当たりの配当は5円というのが常識だった。

 間接金融中心だったので、資金調達は主に銀行からの借り入れに依存していた。しかも、総資産に対する資本金の割合はきわめて低かったから、経営者は株主については、持ち合い中心の大株主のことしか頭に無く、株主総会もさっさとすませることぐらいしか考えなかった。

 その後、株式の時価発行が徐々に広がるが、それでも、まだ、配当は1株につき5円ないし若干の増配がほとんど。時価発行増資の払い込み価格と額面(50円)との差額は会社のもうけであり、株主のものだとは思わなかった。ついでに言えば、その延長線上で、上場企業は1980年代後半のバブル時には、時価発行のファイナンスで“資金コストがタダ”のカネを手に入れ、銀行借入金をせっせと返済した。優良貸付先を失う金融機関は不動産開発などにやたら貸しまくった。バブル期の高い株価をどう説明するかで、当時の証券会社は企業の土地などを時価評価した1株当たりの解散価値を持ち出したりした。 

 こんなことを思い出したのは、原丈人著『21世紀の国富論』を読んだからである。株価を決める要因は時代によって異なる。それが絶対的な真実ではないにもかかわらず、人々はそれを所与のものとして判断し、行動する。

 同書で問題としている1つがROE(株主資本利益率)である。原氏によれば、資本の回転率を上げる道具であるはずのROEそのものを目的にすると、分子の利益を大きくするのではなく、分母の株主資本(資産マイナス負債)を小さくするという考え方になりがち。人件費を減らし、資産を小さくするには、工場を持たず、外注がいいことになる。しかも、時価会計、減損会計の導入により、資産を持たないほうが地価や株価の下落による影響を受けなくてすむということになった。 

 ROEが株価と強い相関を持つようになり、「会社は株主のもの」という考え方をとると、企業経営にとって、株価が上がること、時価総額を大きくすることが至上命題になる。しかし、「リストラによってROEを上げ、メディア受けのするIRを駆使し、有力なヘッジファンドが株式を買えば、企業の時価総額は上がるかもしれません。しかし、その見返りとして大切な内部留保をヘッジファンドに配当金として分配してしまえば、、将来への投資が行きわたらず、企業や経済は競争力を失う結果となります」。原氏はそう指摘する。

 日本でもROEが投資判断の大きなものさしになってきているが、それが企業経営、ひいては産業の競争力に悪影響を及ぼしているという指摘はうなづける。

 日本にも大きな影響を及ぼしたヘッジファンドのような「にわか株主」については、すぐには持ち株を売却できないように制限するとか、長期保有する株主に多く配当する仕組みにするとか、封じ込め策を講ずるよう同書では提案している。

 ところで、時価会計、減損会計は投資者サイドに立ったルールであり、「リスクをとって新産業を創造する意欲をもつ事業家の視点からつくった会計基準ではありません」という。私もそう思ってきた。日本では、そうした重要な会計ルールの転換が何らの議論もなく、大蔵省(現、財務省)の判断で行なわれ、会計学者、公認会計士、経済界などから異論が全然出なかった。そうした反省をも込めて、日本の会計基準作成に関わる人たちは、望ましい会計基準とは何かを考え、それを世界に向けてもっと主張しなくてはならない。

 しかし、国際会計基準作成に関わる人によれば、「日本の主張を英語でどんどん発言し、欧米の人たちを説得できる人材がいない」と言う。国益を踏まえて米欧の人々と対等にわたりあえる人材を育ててこなかった弊害がこういうところにも現われる。いささか美化されたとはいえ、白洲次郎のテレビドラマが放送されている。白洲のような骨太の国際人を育てることは、こういう分野においても必要である。

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2009年2月26日 (木)

「年越し派遣村」をつくった全国ユニオンの鴨会長

 派遣切りなどで仕事も住むところもなくなった人たちの駆け込み寺となった「年越し派遣村」。それを企画し、NPOなど多くの協力者と一緒に運営したのが全国コミュニティ・ユニオン連合会(略称、全国ユニオン)である。加入者は3300人程度にすぎないが、その知名度や社会への影響力は無視できないものがある。最近、会長の鴨桃代さんが語った中から、一部を紹介する。

1. 全国ユニオンの春闘は「ともに生き、働く09春闘」である。賃上げ原資3%相当額を確保し、非正規労働者の雇用確保と正規労働者との格差是正に充てる。また、緊急ワークシェアリングとして、かつ長時間労働をしている正規労働者のワークライフバランスを確保するため、仕事の減少に対しては、正規労働者を雇用調整助成金を使って一時帰休させ、その穴埋めとして非正規労働者が働く。そうしたやりかたで正規、非正規が共生することを目指す。この方針には組織内部にも異論があった。しかし、例え、賃上げがとれなかったとしても、正規と非正規がともに闘えたという連帯を成果として残せないか、それが次の闘いの力になると考えた。

2. オランダ国営放送から24日にインタビューを受けた。その際、派遣切りなどに対して「なぜ日本の国民はゼネストを起こさないのか」とたずねられた。私は日本の労働者はダメだとあきらめきってはいない。命をつなぐ年越し派遣村には1700人のボランティアが集まったし、カンパも5千万円を超えた。カンパの物資は使い切れないほどだった。この問題が働く人、生活する人に目に見える形で伝わったのだと思う。京品ホテルの闘争では、5万人を超える署名があり、たくさんカンパがあった。ホテル前では通りがかりの人から「頑張ってください」とか、「あなたたちの闘いには夢があります」という声があった。理不尽なことは許さないという闘いに共感が高まっている。

3. 「年越し派遣村」には総合相談窓口をつくった。「村民」は仕事、住まい、健康、多重債務など、さまざまな問題を抱えているからで、労組だけでは受けられない。労組も縦割りだったのかなと反省した。彼らが次の仕事を見つけるまでにはカネと時間と住まいが必要だ。それが整っていないと、「自立して仕事をしたいけれど、それができない」と彼らは訴えていた。私もそこまでわかっていなかった。残ったカンパを彼らの生活保護と就労支援のための基金に充てたい、それには国も企業も出してほしい。それでいろいろな方面に設立を働きかけている。

4. その後も「派遣村」に行きたいという声は止まらない。福岡県や愛知県にないのかという地方からの声がある。地方でもやれるというところではやっている。それに、シェルターが足りないから、役所につくってくれなどとお願いしている。

5. 「派遣村」ではホームレスの人は私たちを試してきたという気がした。善いひとぶってつくったのではないかと。「偽善の村」だと大きな声で走り回った人がいた。ホームレスの人たちは自分なりの生活をつくっていて、何が何でも仕事をしたいとは思っていない。「あんなに上司から命令されて働きたくはない」と言う人もいた。でも、ホームレスの村民が生活保護を受け、住居を確保したのは、彼らにとっては、そこからの新たな踏み出しになったのではないかなと思う。

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2009年2月23日 (月)

春闘における労働運動指導者の悩み

 今年も春闘のシーズンに入った。経済の急激な落ち込みに直面して、賃上げか、雇用かの選択を迫られる個別労働組合も少なくない。このため、賃上げの旗を振る労働組合の指導者たちの悩みは深い。有力な産別組織であるゼンセンUI同盟のリーダーの話を聞いて、それがよくわかった。彼らの話を以下に。

 マクロ経済の面から考えると、外需依存でやってきた日本経済がこれ以上、内需を落としたら、景気はスパイラルに落ち込む。したがって、内需の落ち込みを止めるため、最低でもかなめの賃上げを実施しなければならない。他方、ミクロの面からは、働く者にとって、物価上昇に見合う賃上げ、即ち、物価上昇率プラスαが欲しい。

 しかし、多くの企業の経営が悪化したため、雇用か、賃金かの話が出てきた。さらにワークシェアリングの話も出てきている。報道では賃上げが悪いことのような記事ばかりだ。マクロ的には賃上げは必要だが、個々の労働組合が「我が社、我が労組は賃上げ要求を断念する」ということでは、日本経済はデフレスパイラルに陥る。合成の誤謬をおそれる。

 こういう時期になると、便乗型の企業が結構出てくる。経営がそれほど悪くもないのに、雇用は守るが、賃金カットをするというようなことをする。

 ゼンセンUI同盟傘下で、実際にストライキをうつ構えがあるのは少ない。いまの状況でストをうつのは会社の減産体制に協力するようなものでもある。

 労働時間短縮はまず年間2000時間をなくし、1800時間を達成することが我々の要求だ。サービス残業がなかなか直らない。そのためにも、総実働労働時間をこれ以上にしないという形で攻めないと進まない。

 これまで、労組は職場の問題点を突き詰めてこなかった。残業をゼロとして必要な適正要員を確保することはその1つだ。残業が雇用のバッファーだという考えはなくす必要がある。

 不況がくるたびに、企業別労働組合の弱さが出る。産業別労働組合組織も、単純に企業別労組を集めただけだし、そうした産別を集めたのが連合だから、それも弱さだ。これは大きな課題だ。  

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